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2-19 狼ちゃんと一緒

 俺は狼達と一緒に駆けていた。


 今はあの子達が人から見えないようにしてあるのだが、彼らとの契約者である俺には、その存在がよくわかる。


 こういう感覚も、なかなか面白いものだ。

 だが街の治安を維持する警備隊の、二人組の神官さんに呼び止められた。


「ちょっとそこの君、その狼達は一体なんだね」


「あ、お兄さん、この子達が見えるの?

 この子達は霊獣だよ。


 聖女セラシア様から飼っていいという許可をもらったんだけど。

 俺は一応、聖女様から勇者に認定されているリクルです」


 狼達も彼らの手に鼻面を寄せて挨拶している。


「おお、君がドラゴンスレイヤーの勇者リクルか。

 そんなに急いでどこに行くのかね」


「ちょっとダンジョンまで、みんなで遊びに。

 遺跡の方は危ない扉が出現するので、『お母さん』から一人で行くなと言われてまして」


 その『お母さん』という単語の意味を最初は測りかねていたようだが、直に二人とも破顔してくれた。


「はっはっは。

 まあ、あの方はお母さんどころの騒ぎではないがな。

 この街では女神様にも等しい存在なのだが」


 おおっ、この聖都では姐御の称号が神にまでランクアップしている!?


 それから手を振って見送ってくれる神官達に手を振り返し、ダンジョンへと向かった。


「そういや、新しい槍に名前を付けてなかったなあ。

 あと狼達も。

 狼は数が多いから後にするとして、まずは槍か」


 前の奴は突撃槍グランドフレイム。

 特性や内包する能力からつけたのだが、今度の物は俺と一緒に成長してくれる大事な相棒だ。


 何か格好のいいネーミングはないものか。

 この槍は意思のようなものを持っているので、その辺は慎重につけよう。


 へそを曲げられたら敵わない。

 名前は大事なものだから。


 やっぱり、なんとかランスみたいな名前がいいかな。


 意思のような物があって生きているような物だからリビング……いや、それはなんだか魔物っぽい名前だな。


 スキルの遠隔誘導能力があるからガイデッド・ランスとかどうか。

 うむ、イマイチだ。


「ま、戦いながら考えるとしますか」


 北方に、まるで巨大な塔のように聳える、この国の名の由来にもなったセントマウンテン。

 あの麓までダンジョンは伸びているのだ。


 ここのダンジョンは結構横に広い。

 元は鉱山だった物なので、ラビワンのように縦には深くない。


 あそこは底が知れないのだ。

 先輩なんか、一人で最奥までよく行けるもんだな。


 歩いていくんだから半端者だと確実に行き倒れになる。


 きっと馴染みの行商人を雇ってあるんだな。

 ソロで下層にて活動できるレベルの奴を。


 きっと王様の命令で踏破者となり、ダンジョンを生み出すほどの巨大で特殊な魔核を持つ管理魔物を捜していたんだろうから。


 あるいは国の費用で彼のサポートをしてくれる冒険者を指名依頼で雇っていたのかもしれない。


 そういう時ってダンジョンにも理解できるものらしい。

 なかなか、そいつが見つからなかったのだ。


 だが俺がスキルで呼んでしまったのだろう。

 ブライアン達以外にも犠牲になったパーティなんかがいなかっただろうな。


 特には聞いていないのだが、今更ながら気になる。


 鍛練も兼ねて三十分ほど走った先に、本来のモンサラント・ダンジョンの入り口が存在した。


 ここは元鉱山だったので、縦横無尽に掘られた坑道が複雑に入り組み、またそれらが地上に繋がってしまわないように整備されている。


 魔物は陽光を嫌うだろうから、不破壊オブジェクトに近い坑道をぶち抜いて地上までやってくる魔物はそうそういないはずだが。


 あのラビワンにいた管理魔物はそういう理に縛られていないようだった。

 何かリミッターのような物を外す権限があるのかもしれない。


 あんな物がよく倒せたものだ。

 先輩のスキルは、威力もさることながら、あの性質が無敵なんだよな。


 ダンジョン最奥にいた最後の番人とやらも倒したのだから。


「さあ行くぞ、お前達。

 俺達の初陣だ。

 白狼勇者って、なんか格好良くない?

 今度そういう感じの装備を作ってもらおうかな」


 同意するように彼らは軽く吠えた。

 その吠え声さえも普通の人には聞こえない状態になっている。


 だが、入り口の警備の神官さんには見えていたようだ。


「おやまあ、可愛らしい御伴をお連れになっているのですな、勇者様。

 それにオリハルコンの槍ですか、さっそく良い武器をお持ちになられましたな」


 あ、この人達は俺を知っていた。


「ええ、子供の頃から犬を飼いたかったので嬉しい限りです」


「はっはっは、勇者様のお犬様ですか。

 いいですなあ。

 お前達、勇者様をよくお護りしてくれな」


 うちのワンコどもは一斉に返事をした。


「今の吠え声は、あなたに聞こえています?」


「ええ、もちろん」


「そうでしたか。

 騒ぎになるかと思って姿は隠しておいたのですが、あんまり意味はなかったですかね。

 さっきは警備隊の人にも見えていましたし」


「いやいや、一般の市民に対する配慮はありがたいですよ。

 ここは神官の街ですから、霊獣が見える者も少なくないだけで。

 吠え声も一般の人間には聞こえません」


「なるほど」


 街の要職は、みんな神官さんなんだからな。

 しかも、きっと『国民皆兵』的な国なのだ。


 まあ国といっても実際には大掛かりなダンジョン都市なのだが。


 俺は挨拶をして、ダンジョンの、いかにも鉱山坑道の入り口でございといった趣のゲートを潜った。


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