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2-14 扉の虜囚

「ほれ、出来たぞい」


 翌朝、待ち切れなくて夜明け前に神殿の整備所の周りを逍遥していた俺に、徹夜明けのバニッシュが新装備の槍を渡してくれた。


 その、いかにもやりきったという感じの笑顔に、俺は受け取った槍ごと上から彼に抱き着いた。


「ありがとう~、じっちゃん」


 最近は俺のために良くしてくれる彼の事を、こんな風に呼んでしまう事も多い。


「はっはっは、そんなに待ち遠しかったか。

 そいつはな、なかなかの物だぞ。

 貴様、盟主とやらによっぽど好かれておるな。

 それは、お前が思っておるようなサービス品なんてチャチな物では決してない」


「え、どういう事?」


「わからぬか。

 わざわざ、ここ聖教国ダンジョンに盟主なんて者が来ている事の意味が」


 俺は首を傾げた。

 いきなり、そんな事を言われてもなあ。


「おそらく、そいつはこの辺りを騒がしておるような騒動を起こしておる奴と敵対しておる」


「え、そういう情報があるの?」


「まあ、はっきりとはわからぬのだが、状況証拠というかのう。

 セラシアなら、その槍の説明を聞けば一発で理解すると思うが。


 後はあの落胤あたりなら渋い顔の一つもしてみせような。

 それで今も、あやつは帰ってこんのだろう」


 バニッシュは先輩に対する評価が異様に高いらしい。

 先輩が昨日から帰ってこないのって、もしかして父王からの勅命の範囲内の話だったの?


 前もあったよな、そういう話。

 一方、俺は無知蒙昧なヒヨッコ全開モードだった。


「それはどういう話?」


「わからぬか?

 リクル、貴様は邪神封印の英雄姫がわざわざ勇者と呼ぶ者。

 盟主などという者も密かに注目しておるのであろう。

 あのセラシアが敢えて喧伝しておるのだからのう」


 よく理解できない。

 この種の人というものの持つ腹芸というかそういう物が。


 水面下の動きに合わせて、あまりはっきりと物を言わない習慣がついてしまっているというのか。


 バニッシュは、そういう方面の住人なのである。

 その未知の世界での最高峰の人材なのだから。


 大国の王の落とし種である先輩も、はっきり言ってそっち系の住人なのであるが、まだ比較的俺に解説を付けてくれる方なのだ。


「ところで、その槍の性能は?」

「朝飯の場で公開しよう」


 そう言って、彼は「よっこらしょ」と言いながら立ち上がった。


 もしかして、結構御歳なのかなあ。

 俺は同じ人族の年齢しか知らない。


 他の人なんか聞いたって、あまり意味を為さないから。

 ビースト族も結構長生きなんだ。


 エラヴィスは先輩、クレジネスと同じ十八歳。


 あの歳で女の子が超一流の上級冒険者だなんて、本来なら絶対にありえねえよ。

 どんな育ち方をしたんだよ。


 本当は、あの人もどこかの貴族のお姫様だって言われたって俺は信じる。


 あの力はそういうものなんだから。

 いっそ、あの二人が結婚すればいのに。


 おそらく、あの二人がカップルにでもなった暁には、夫婦喧嘩を始めたら簡単に決着がつかなくて、代官以下領民が全員鍋でも被る破目になり、俺に『領主夫妻の夫婦喧嘩仲裁を依頼する冒険者依頼』が届く事になるのかもしれないのだが。


 先輩の反則スキル抜きの肉弾戦なら、エラヴィスは先輩と互角に戦えるのを、訓練を通して俺はよく知っている。


 最強の冒険者の称号でもある踏破者なるものと互角に夫婦喧嘩できるレベルの魔法剣士とは一体。


 だから俺は彼女の事をよく閣下と呼ぶのだ。


 そもそも人族が、あの若さでこのパーティに平然といるのは、それ自体が少し何かがおかしいのだから。


 そして、じっちゃんは少し仮眠を取るとの事なので、俺は神殿の中を練り歩いた。

 いや、ちょっと槍を担いで見せびらかしがてらに徘徊しようかと思ってね。


 そして、俺は何故か神殿の廊下で、なんと『扉』を見つけてしまった。


「な、なんだこりゃあ」


 まったく訳がわからない。

 おまけに、その中から先輩の声がするのだ。


 何故このようなダンジョン以外の場所で、この扉って奴が発生するのだ。

 しかも、この街の大中枢たる大神殿の壁に。


 おまけに先輩と来た日には。


「馬鹿野郎、離せこの糞があ。

 ぶち殺されてえのかあ」


 などと、怒り心頭に口汚く喚いていらっしゃる。

 どうやら踏破者ともあろうお方が、無様に捕まっていらっしゃるようだった。


 信じられねえ。


「何をやっているの、あの人。

 もうすぐ朝飯だっていうのに」


 俺は気楽にドアを開けた。

 だって、どう見たって中で喚いているのは先輩以外の何者でもないのだし。


 そして、すぐに俺の存在に気が付き、大声で叫ぶ先輩。


「リクル、あいつらを全員呼んでこい!

 特に英雄姫を!」


「は?」


 俺は首を捻り、一歩扉の前に軽く半歩踏み出した。


 俺の名誉のために誓ってもいいのだが、迂闊な感じに、間抜けにただ扉を開けたわけじゃないのだ。


 様子見のために少し中の様子を伺いたかっただけなのだ。

 だから俺が一歩踏み込んだ場所は、まだ扉の外で、内部まで五十センチくらいの余裕はあった。


 第一、あれが本物の先輩の声だとは俄かに信じがたい。


 確かに、あの口汚さは最近の先輩のトレンドなのだが、あの男がそんな簡単に捕まるような阿呆なら誰も苦労はしないのだ。


 これが何らかの罠である可能性も捨てがたい。

 もし、何者かの手がこちらへ伸びたのだとしたら、即座に叩き落とす準備をしていた。


 俺だって、そのくらいの分別くらいは持っている。

 伊達にあのブライアンのパーティにいたわけじゃないのだ。


 この前みたいに、突然中に引っ張り込まれた訳でもない。


 あれには懲りたので、扉なんて物にはリアルの物も含めて、人に笑われるくらいに極力警戒しているのだ。


 当然、俺が何者かに引っ張り込まれたわけでもない。


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