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ゲッカビジン  作者: 織坂一
20/75

20.翳


送られてきたその内容はこう。

『杏癒』

と一言だけ。

どうやら佐伯とマスターは悟ったのか突然黙りこんでは会話を再開し始めた。

「あ、済みません。ウィスキーお願いできますか?」

「ウィスキーね。ちょっと待ってて」

まだウーロンハイが残っていたと言うのに無理に飲み干しては次の注文を取るその優しさが苦しくても一応返信しておく。

『どうしたの?』

そう打ち終わってはカウンターに溜息をは吐いては伏せる。

恐らく待たされるか、それともすぐに返事が来るか判らないが、それでも返事を待つ事にする中で佐伯が尋ねる。

「婚約者さんと喧嘩でもしましたか?」

普段の様に優しく問い詰めるものだからなんだか狡いと思いながら首を横に振る。

「なら良かったじゃないですか、向こうから一報来て。寂しくても我慢してたんでしょう?」

「まぁ、そうですけど……。」

すると、またピピと通知が来て携帯を開くとそこには普段通りの幸せがあった。

『実は今日自転車に轢かれそうになったんだけど、なんとか無事に帰れたよ。ちなみに舌打ちは忘れずにしておいた』

「……あんの馬鹿」


思わずそう雑に呟いては取り合えず無事だと聞いてもどの程度なのか一応知る義務は杏癒にはある為にこう返した。

『怪我は?それより気を付けて帰ってきて良かった』

「……どうしました?物凄い顔をされていますけど。」

「……否、ちょっとお転婆な子なので振り回されてるだけです。」

「それはまた大変なお話で」

クスクスと笑いながら、出されたウィスキーを一口呑んでいる様子を見ると、またもや携帯が鳴る。

「またですか?」

「……でしょうねぇ」


しかし開くとそこには信じられない文字の羅列が並べられていた。

『でも今日は変だった。なんか最近告白されてから変な視線を感じて……。勿論私には好きな人がいるからって断ったから安心してね。』

「え?」

「どうしました?」


思わず携帯が手から滑り落ちる。

告白?変な視線?そう言われると不安感しか出てこない。

もしかしたら――と思った最中だった。

「柴田さん」

現実では落ちた携帯を佐伯が拾い、杏癒へと差し出していた。半分意識が戻ると、震えた手で受け取っては呟いた。

「有難う、ございます……。」


どうも、織坂一です。

杏癒の方でいよいよ動きが出てきましたね。ここからはとことん杏癒と杏癒の婚約者(?)のパートです。

そこでどう佐伯が"理解者"として動けるかが見物です。


杏癒パートと言うからにはもちろん佐伯パートも存在します。まだそれは遠いですが。


はてさてこれで20話ですが、まだまだエンディングどころか話の核すら遠いです。

ですがまだまだ諦めずにどうか最後までお付き合い下さい。

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