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学生も楽じゃない-9

「あの時のことは、わたくしもよく覚えていますわ。わたくしが隣の席なら…と言うよりも、もっと早くに気が付けていたら!筆記用具くらいすぐに貸してさしあげましたのに…!」

「悔しがるとこ、そこなんだな?」


殿下のツッコミに、ものすごく深く頷いているアンネマリー。


残念ながらクラス替えも席替えも3年間存在しないため、アンネマリーとはずっとお斜めさん?なのである。

簡単にまとめると、最後尾の窓側から、私、アイツ…そしてその前の席に、殿下、アンネマリーと言う感じだ。

一箇所に色々と固めすぎだろ?と言う話だが…まあ私としてはとても気楽である。


「誰かさんはあの時のペン、借りパクしたままだけどね?」

「返すって言うのに、受け取らなかったのはそっちでしょうが!?」


あの時の私としては、正直テストどころの話ではなかったわけだが…受ける以外の選択肢は、コイツによって早々に潰されたのである。

結局、気もそぞろに、全ての解答欄を埋めてしまった。


「あの時のテスト、終わった人から帰れましたものね。あぁ!やっぱりエルシアは、早々に出て行ってしまったウィリアム様を追いかけて…!」


いや、確かに追いかけはしたけど…別にペンを返すためではない。

それよりもっと重要なことがあったのである。

まあ結局、あんなに探し回ったにも関わらず、捕まらなかったわけだが。

そして寮に帰ったら、しれっと私の部屋で寛いでいて…まじで殴ろうかと思った。

ばあやさんの手前、何とか踏み止まっただけである。他に人の目がなかったら、間違いなく殴り掛かっていた。


「2人だけ異様に退出が早かったからな。しかもそれで、学年一位と二位」


まさかの学年ニ位とか言う、好成績を叩き出してしまった私。

目立ちたくはなかったが…ここまできたらアイツを超えて一位取れよ!?と思ってしまったのも、また事実である。


この結果は予想外も予想外で、おかげで生徒会の書記とか言う、よく分からないものに任命されてしまっている。

書記って何?一体何するの?と戸惑った私は悪くない。

寝耳に水の話だったのだから。


校内に成績が張り出されて直ぐに…と言うか、その場で殿下が、私を名指ししてきた時のことは今でもよく覚えている。


『エルシア、君には生徒会の書記を頼みたい』

『…はい』


あんな公衆の面前で、絶対断らせる気なかっただろ?


疑問系ではなく、断定系なのがまたポイントだ。

色んな意味で、辺りが騒然としていたのは言うまでもない。

いくら成績優秀者とは言え、平民が選ばれるのは珍しいようだし、何より…


『よろしくね、シア』


わざわざコイツが私の愛称を呼んで、無理矢理、握手して来やがったからだろう。

まじでコイツはろくなことしない。


「俺のペンのおかげかもね」

「私の実力ですけど?」


そう言う噂が出ていたことも知ってはいる。

まあ、次の試験でも安定に学年二位だったため、そんなものは直ぐに消えて行ったが。


と言うか、いくらコイツのペンだからって…そんな効果があるわけないだろ?


もしそんなものがあったとしたら、コイツは今頃、身ぐるみ剥がれているはずだ。

いやまあ、公爵家のご子息にそんな真似する強者がいるかどうかは知らないが。


「でも何だかんでエルシア、そのペン使ってますわよね?」

「生徒会室にいる時は、大抵それだよな」


2人の視線の先は、私の右手…に持っている品の良いペン。

これが今しがた話題に上がっていた例のペンである。


「書き心地はいいですからね…まあまた何か言われると面倒なので、自室かここくらいでしか使いませんけど」


そう…しまっておくにはもったいなさ過ぎるくらい、使い勝手はいいのである。

決して、コイツへの当てつけとして使っているわけではない。


「それ、大切なやつだから無くさないでよね」

「分かってるわよ…って、それなら早く受け取りなさいよ!?」

「やだ」

「はー!?」


コイツはまじで意味がわからないが。


「ふむふむ、なるほど…確かにそれは、失くしたらかなりヤベーやつですわね」


アンネマリーが、私の手元のペンをしげしげと見つめ、そう結論付ける。

冗談でも何でもなかったらしい…まじか。


改めてそのペンを見るが、どの辺がやべーのか、やはりよく分からない。

この百合の花?があしらわれた、ちょっと男の人が持つにしては可愛らしいペンが、一体何だと言うのか。

正直、間違って買ったものの使う気にはなれなかったから、適当に私にくれたのかと思っていたくらいだ。


コイツにも、おっちょこちょいなところがあるんだなぁ…とちょっと和んでしまった私の気持ちを返せ!?


「でもまあ、肌身離さず持ち歩いてるのが無難かもな」

「そうですわね…いざって時に役に立つのは間違いありませんし」


え、部屋で保管しておくのではなく?


てっきり、「失くしたら大変だから、きちんとした場所で保管しておこう」的なことを言われると思っていたため、思わず面食らう。

全く正反対のことを言われてしまった。


いざって時に役立つペンって…何?


頭の中ではハテナマークが飛び交っている。

ペンが役立つ機会なんてそうそうないと思うが…2人が言うなら、そう言うことなのだろう。

アイツの言うことは信じられないが、2人が言うことは素直に信じられるのである。


「うーん…胸ポケットにでも入れておけばいいかな?」

「ええ、側から見たら紋章は見えませんし…それで大丈夫だと思いますわ」


なら学内にいる時はこのスタイルでいこう。

学外に出ることは…まあ、無いに等しいか。


「よかったですわね、ウィリアム様。わたくし達に感謝して下さっても構いませんのよ?」

「まあ確かにエルシアは、お前が何言ったところで素直に聞きやしないだろうな」

「お二人とも、ありがとうございます」


なんか上手く嵌められたような気がしてならないが。

何やら盛り上がっている3人を尻目に、私は自分の席に戻って、手元のペンを意味もなく転がす。


そう言えば…この前もらったリボンの刺繍も百合の花だったな?


ばあやさんが何やら、うきうきとした様子で見せてくれたため、ひどく印象に残っている。

確かその時に言われたのだ。


「花言葉は…『純粋』『無垢』『威厳』」


私にピッタリだと言うのは…一体どう言う意味だったのだろうか?


あいにく、そんな可愛らしい女でないことは、私自身が理解している。

ましてや、このペンやあのリボンを渡して来たのはあの男だ。

そんなものと私が縁遠いことは、アイツが一番よく知っていることだろう。


ペンを高い位置で持ち上げ、そのまま背もたれにもたれかかる。


だからきっと、何の意味もないのだ。

このペンに描かれた紋様が…奴の家紋だと言うことにも。


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