◇8◇◇やらかしたって気にしない!
◇◇◇◇
ここ最近の食事メニューは、すべて僕が考えて厨房に指示している。
食文化の魔改造。
なんちゃって。
まずは……厨房内の改革から。
だってさ、生活動線って概念がまだ無いから。
勝手口に沢山の作業台やら水場に竈や石窯の位置がてんでバラバラ正にカオス。
必要になった時に空いていた場所に増設しただけってのが、判りまくり。
無駄に回数重ねて増築を続けた迷路みたいな。
厨房はスゴく広いけど、無駄スペースがてんこ盛り。
食材の貯蔵庫からの位置も悪いよね。
通路をぶつかりそうになりながら擦れ違うのが当たり前。
作業手順考えたら頭が痛くなりそう。
なので、厨房の模様替え敢行しました!
スッキリしたよ、ホントに!
詳しく図解を作って料理長に説明した。
ついでに作業の効率化する提案とかね。
それから、新しい調理器具の説明も勿論ね。
っていうか、ホントはそっちのがメインだったんだけど。
僕の心情的にはさ。
形状から材質の特性や調理の利点なんかもみっちり解説。
箇条書きの説明書付きでね!
勿論、図解も用意しましたとも!
城内の鍛冶場に、僕の説明書と図解を元に料理長がオーダーかけたんだって。
だって圧力鍋とかタジン鍋とか欲しいよね。
中華鍋にフライパンは基本でしょ?
っていうか、何で無かったのか判んないよね。
笊を作る職人に、本格的な蒸籠なんかも発注かけたし。
はぁ、製作方法まではよく知らないけどね!
専門の鍛冶師さん達が何とかするでしょ?
特許とか言われてもこの世界じゃあ関係ないもんね!
構造だけはそれこそ、特許製法として商品パンフレットにも載ってたから知ってたけど。
その利点も散々宣伝文句が踊ってたし。
作り方どうするか何て、その辺どうなるのかは知らないけど。
鍛冶師の皆さんは、魔法でどうにかするらしい。
まさしく力技だね!
それから当然調味料は充実させたいよね!
折角近くに貿易港在るんだからさ。
探せばそれなりに揃いそうじゃない?
んで、料理長に尋ねてがっくりきたよ。
使い方や特性、風味が全然理解らなくて、今までスルー。
仕入れなかった物がかなりあるそうだ。
『研究しろ!!』って怒鳴り付けたかったが、じっと我慢した。
ここは忍耐……。
僕は子供でムコウは大人、調理責任者。
う~ん、犇々と理不尽を感じる。
納得いかない。
けどね、いいもん!
僕は5歳の幼児。
そんでこの公爵家唯一のお嬢様!
ワガママ通すのがデフォなので!
ここは当然、全部お試しだよね~!
少量ずつ試してみれば使い勝手も判るでしょ?
そんな感じで!
ガッツリ厨房内は魔改造済みだよ!
作業がすっかりし易くなったから。
皆さん納得してくれました!
良かった良かった。
厨房の皆さんとは随分打ち解けられました。
皆さん真剣に学んでくれてます。
僕の指示する調理法を、隙無く順次修得してくれてます。
漸く向学心に火がついたって感じです。
ちなみに今朝のお題はパンケーキ。
ふわふわをいい加減食したい。
最近顎が少し痛いんだよね!
顎関節症は嫌だ。
……しっかり作って貰いました。
出てきたのはピンクがかった生地と緑がかった生地の2色のパンケーキ!
一瞬苺&抹茶パンケーキかと思う。
ピンクと緑の……。
……ふふふ、でも、これはトラップなんだよ。
この色の正体は卵の黄身の色だって(泣)
種類によって色と風味が違うんだってさ……。
知った時はガクリと肩が落ちたよ。まだまだ前世のレベルでの食生活は遠いのか……ふふふ。(泣)
その辺はサックリ諦める。
徐々に改善してくしか無いもんね……。
ま、気を取り直して!
久々のふわふわ食感堪能しよう!!
たっぷりのバター&蜂蜜もどきをかけて、召し上がれ!
付け合わせには温野菜サラダ。
そして、新作!
腸詰め燻製、ソーセージだね!
そう、燻製も存在してなかったんだよ!
でもね、これも僕が保存食として作らせた。
色んなチップ作らせて煙の風合いと素材の相性を確かめて。
ハムにベーコンにスモークした魚介類!
他にも色々お試し燻製作成中!!
今まではさ、魔法で保存する事が当たり前だったんだって。
基本的に平民でも普通に生活してるレベルでも、食糧保存用の魔道具位は標準装備。
冷蔵庫より優れモノ。
基本的に肉や魚も3ヶ月位は腐らないから。
葉野菜でも1ヶ月以上持つって……。
殺菌保存かよ!!
時間停止か!?
だから、保存食は余り発展してないみたい。
精々旅行者や行商人向けに、肉や魚介類や野菜やらの塩漬けとか乾物とか。
それくらいしかない。
侘しいよね。
瓶詰めや缶詰めも無い。
そう、お酢が無い原因でもあるよね。
ううう~!
いいもん!!
自家製にトライだよ!
因みに……ドライソーセージは軍用食として領軍の皆さんに喜ばれた。
そのまま食って良し(酒の肴にイイよね!)、刻んで料理に使えるし。
スープやシチューにもイイ出汁が出るしね。
軍船の中の食糧保存庫もスペースは限られるからこういった保存食は大好評。
まぁ、軍用って訳じゃ無かったんだけど。
保存食造りは、割と優先課題になっていた。
乾物も肉や魚介類のは在るけどそれだけ。
野菜のチップや、ドライフルーツは無かった。
勿論、鋭意制作中だよ!
干し芋なんかも!
まだまだ物足りないからね。
物欲……イヤ違うな。
これはある意味食欲。
食欲の嵐が暴風域入ってるね!
自家製チーズとかバターとか、ヨーグルトなんかの乳製品。
元のミルク(何のかは知らない)の臭みが出ない様に研究してる!
全部作ってみないと!
実験大好き!!
理系魂が燃えている!
異世界食材で大々的に実験中だよ!!
「「アルフェミナ、今朝のメニューも美味しいよ!」」
「レオン兄様とライアン兄様に気に入って頂けて嬉しいです」
ホントみんなに大好評だね……。
ルーフェウスは脇目もふらず一目散!
に夢中で食べてるよ。
フルーツヨーグルトに、後はお茶もつけて。
お父様もお母様も給仕に説明されながら、確かめるように一口一口味わって食べてる。
まだ改良の余地ありありだけどね。
ふふふ……後で厨房へダメ出ししに行かなきゃね~。
パンケーキの真髄は柔らかな口当たり!
卵の丁寧な泡立てが命なんだよ!
生地もサックリ混ぜなきゃだし、焼く時も手早く!
ふっ、まだまだだね!
あぁ、僕ってば小姑化してるなぁ!!
◇◇◇◇
お父様の許可が快く(?)下りたので、早速参りましょうか!
と、思ってたのに……ガッカリだよ!
薬草園の見学は案内役や受け入れの準備がある為、午後からになった。
別にそんなに仰々しくしなくても良いのにさ。
普段通りでさ。
くそぅ……。
という訳で!
午前中は部屋の中で身体を動かします!
気分転換~。
まず、部屋からエレナ以外追い出して。
外から見えない様にレースカーテンと薄手のカーテンの2枚を閉めて。
ほぼ、下着姿です!
スッキリ解放感!!
最初はエレナにも大仰な悲鳴を上げられ、渋い顔され、止めるように懇願されましたが。
ふふん、ワガママ娘の暴走がそう簡単に止まる訳ないでしょ?
まず足元は裸足。
膝丈のキャミソールにカボチャパンツ。
但しフリフリ……。
えぇ、下着までフリフリでしたよ!
邪魔くさい……。
……いいもん!
僕、今は女の子だしね!!
フリフリ万歳!
気にしたら敗けだ!
主に精神的な何かがガリガリ削れてしまう!!
意識を逸らすんだ!!
ふぅ……。
石畳の床には、湯浴み用のバスマット。
身体小さいから…この大きさで足りる。
ストレッチ用のシート代わり。
充分念入りにストレッチを済ませて。
壁の装飾をバーに見立てて。
バレエの基礎レッスン。
バレエシューズは無いけどね。
あの、お相撲さん対応型の大きな鏡に身体を映してポーズも確認。
存外基礎だけは覚えているもんだ。
しつこくやらされたからかな?
とりあえず前世の母親に感謝かな。
美しい姿勢と優雅な仕草に、骨格を整える為。
前世じゃ兄弟全員が幼稚園から小学校卒業までは、母親の絶対命令で義務だった。
但し、トゥシューズは姉妹達に頑として履かせなかった。
爪先がキレイじゃ無くなるから、だって。
バレエを職業にするなら良いけど、教養だけなら履かせないってさ。
バレエの先生とケンカしてた!
因みに父親は結婚が決まってから社交ダンスをヤらされてた。
さすがにバレエは今更無理ってね。
父親が悲壮感たっぷりでギブアップして。
そして母親とのお話し合いの結果での妥協点。
せめて姿勢良くする事と、紳士なエスコートだけでもって。
母親の精魂込めた執念の魔改造により、父親はすっかり変わった。
元は猫背の草臥れたダサいオッサンが、見た目ダンディーの立派な紳士になってたね。
コミュ障の癖に!
サギだよ、ホント!!
たっぷり身体を動かして、自主レッスン。
昼食に間に合う様に、軽く沐浴してお着替え。
すっかり毎日の習慣だね!
エレナもさすがに諦めた風情だ。
ワガママが罷り通る!
なんてね。
少しは身体も軽くなったかな?
いや、油断大敵!
身体を動かす事に慣れてきただけかも……。
まだまだ子豚さんだよね!!
鏡をちゃんと視て再確認!!
ダイエットは自分への甘えが1番の落とし穴!
よし、臨戦態勢キープ!
目指せ、華奢な麗しの美少女!!
まぁ、それにエレナが弛くなったのも理由がある。
昨夜お母様に、姿勢や仕草が少し優雅になったって誉められたし。
悩んだ末に、実利をとることに決めたらしい。
それにしてもバレエシューズ作れないかな?
夏はまだしも、石畳では足が冷たくなっちゃうんだよ。
風邪引きそう。
あ、レッグウォーマーも欲しいかな。
作ろうかな?
毛糸ってこの世界じゃ存在してないかな?
いや、レース糸はあるよね。
レースはドレスにこれでもかって程ついてるし。
何か欲しいモノ増えてくな。
物欲の嵐到来かよ?
◇◇◇◇
昼食は涼しげに懐石もどき。
まぁ、完全和食とはいかないから、和洋折衷ってトコかな?
雰囲気は、さ。
生ハムに胡瓜(紫)と柑橘果汁を和えた前菜。
あの(・・)緑のトマトコンソメもどき。
川魚(赤)の塩焼き。
粘りのある芋(形は薩摩色はオレンジ味は里芋)と根菜の蒸し物。
夏野菜の天ぷら。
卵豆腐(黄色だ!)
笊うどんは醤油が無いからツユが……妥協でトマトコンソメ使って貰いました。
後はさくらんぼ味のソフトボール大のスモモもどきがデザート。
でも、やっぱり味覚日本人としてはね~。
醤油と味噌は鉄板で、ついでにお酢も欲しいよな~。
糀菌有ればな~。
自家製しちゃうんだけどな~。
後は胡椒とか……。
香辛料も足りなくて侘しいよね~。
唐辛子に生姜に山葵に……。
欲しいものは沢山ある!
まぁ、素材の味が濃いからさ。
出汁は誤魔化しが効いてるけどね~。
さて、午後の予定だ。
あぁ、気力がみなぎってきた!!
いっちゃん楽しみにしてた薬草園の見学だよ!
それについては、お父様にクドイ程注意を受けて念を押された。
うん、昼食の間ずぅ~っとね~~。
あれ?
ちょっと待って?
割合気軽に考えてたけど……。
……そんなに危険な植物があるの?
まっさか~~~?
冷や汗タラリだよ。
不用意に近付くと、命の保証は出来無い植物もあるって……。
マジですか!?
ガクブルですよっ!!
……異世界は前世の常識通用しないトコロあるからな。
うん、しっかり気を付けます!
案内役の言う通り、素直に従おう。
死にたくないし。
怪我もしたくない。
うん……。
大人しくしとくよ、ちゃんと!!
◇◇◇◇
そして昼食後。
目一杯脅されて、ちょっと意気消沈しちゃったけど。
『行かない』って選択肢は無いもんね。
好奇心が勝つよ!
僕は探求心だけは旺盛な無謀な理系だもん。
余り気が進まなそうなエレナに連れられて、ようやく薬草園の入り口へやって来た。
因みにお母様は不参加表明。
やっぱり女の人は……普通嫌がるモノばっかりあるらしいね~。
お兄様方は家庭教師の授業があるから。
泣く泣く不参加。
随分ごねて抵抗してたけどね~。
仕方ないでしょ?
将来の為にサボりは許されないよ。
しっかり勉強してね!
ルーフェウスもね~。
随分と駄々捏ねてたけど、危ないからパスね!
あの子は注意散漫なトコがあるから……。
落ち着いて行動出来るまで、危険地帯は出入り禁止だよね。
何をやるか判らない、予測不能な子はアブナイよね。
しっかり言い聞かせてお留守番です!!
入り口には案内役だろう薬師さんが待っていてくれた。
おぉ、黒ローブ姿だ!
蔓草の紋章が縁取られた黒ローブだよ。
国家資格を持つ正式な薬師の証明だ。
後は首に、紋章の入ったタグを下げてる。
身分証になるので、間違っても盗まれない様に服の内側にね。
大体30代前半位のオジサンだ。
眉間に皺寄せて不機嫌そう。
愛想は無いな~。
大事だよ、愛想って!
印象がガラリと変わるもんね。
あ、目の下にクマさんが居座ってる。
そういや、疫病対策で大変だったんだよね~。
手入れもロクに出来なかったんだろう、青みがかったボサボサの黒髪が目にかかってる。
黒かと思っていたら目の色は藍色みたいだ。
う~ん、でもホント…悪いけど陰気そうだよ。
忙しかったトコロ手間取らせてゴメンだけど。
気持ち申し訳ないかなぁ……。
そんなコトを思って目の前に立ち止まると、丁寧に僕に頭を下げて挨拶してくれた。
「お嬢様、お待ちしておりました」
「お手数おかけします。今日は案内をよろしくお願いします」
こちらもきっちり、ドレスをつまんで軽く膝を曲げて淑女の挨拶!
感謝しなきゃだから、こっちも丁寧にね!!
あ、しまった。
初対面で固まらせた。
5歳幼女がこんなにしっかり受け答えしたらね~。
引かれたかな?
ヘンな目で視られるのはやだな~。
オジサンは軽く咳払いをして、ローブの内側から鍵束を取り出した。
立ち直ったらしい。
「薬師長のグラムと申します。中には危険な植物もございますので、必ず指示に従って下さい」
「はい、承知しました。お父様にも重ね々ね注意されております」
エレナはホント嫌そうについてくる。
無理についてくる必要は無いんだけどな~。
でも、僕を1人で送り出すのはどうにも沽券に関わるらしい。
でも、楽しみ!!
やっと薬草園だよ!
ワクワクしちゃうね!!
心の中で手に汗握る。
どんなのがあるんだろ?あ~、早く見たい!!
『鑑定』使いまくってガッツリ見てまわるぞ!!
どうせ、初見の知らないモノばかりだし。
効能と用法も覚えよう。
薬草の中には、ハーブみたいに料理にも使える種類のがあるかも知れないし。
あぁ、楽しみだよ!
テンションあがる!!
それにしても……どんどん自重を無くす主人公。
自分の快適な人生の為には……!
どんな事も気にしない!
大丈夫かなぁ?
覗いてくれてありがとうございますm(_ _)m
12/31改稿しました。