潜入③
原校長のオフィス。
センとミナは資料をいくつか取り出し、一枚一枚めくりながら内容を確認する。ミナは引き出しを開け、ついに探していたものを見つける――コンテストに関する書き込みのある書類だ。
ミナ
(小さく息を吐いて)
「やっと! よし。必要なものは揃った。あとは捕まらないようにするだけね。」
センはうなずく。
二人は壁に張り付きながらドアへ向かい、物音を立てないよう慎重に進む。センがそっとドアを開け、廊下の様子をうかがい――固まる。
セン
「藤本?西川?」
廊下には誰もいない。二人の姿はどこにもなく、静けさだけが不自然に広がっている。
ミナ
「まあ、こうなると思ってたけど。」
センは階段や近くの出口にちらりと目をやり、それからミナに顔を寄せる。
セン
「仕方ない。俺たちだけでやるしかないな。とりあえず、必要なものは手に入った。」
***
センとミナは、来たときと同じ非常階段を慎重に降りていく。
やがて教師用の廊下に戻り、最も危険な段階を乗り越えたことに、わずかに安堵する。
そのとき――階段の近くの扉が勢いよく開く。人影が現れる。
反応する間もなく、ミナは素早くセンを階段のくぼみへ押しやる。
センはよろめき、バランスを崩して倒れかけ、小さく声を漏らす。なんとか壁に手をつき、くぼみの影に身を隠す。
ミナはすぐに表情を整え、何事もなかったかのように廊下へ歩み出て――立ち止まる。
日野先生
「ミナ?」
日野はその場で固まる。彼女がそこにいることに驚き、心配と困惑が入り混じった表情を浮かべている。
ミナはにこやかな笑顔を作り、落ち着いた軽い口調で言う。
ミナ
「こんばんは、お父さん…」
センの目が大きく見開かれる。――父親…?
ミナは背後で器用に書類を隠し、指先に力を込めてしっかりと押さえる。
日野先生
「こんなところで何をしているんだ?」
ミナ
「えっと…元気にしてるかなって、ちょっと気になって…」
彼女は笑顔を整え、無邪気に見せようとする。
日野先生
「そうか…ちょうどよかった。話があったんだ。」
ミナはわずかに眉をひそめ、驚く。
ミナ
「本当?何の話?」
日野先生
「酒井センのことだ。」
同時に、ミナとセンの目が見開かれる。センはくぼみの中で身を小さくしながら、表情を険しくする。
ミナ
「…わかった。」
彼女は静かに息を吸い、動揺を表に出さないようにする。背中の後ろでは、書類をしっかり隠したまま、日野が再び部屋の中へ入っていく。
ミナは彼の後を追う直前、さりげなく書類を落とす――センが拾えるように。
***
ミナは父のオフィスに入る。部屋は散らかっている――書類の山は崩れ、紙が床に散乱し、隅には簡易ベッドが置かれている。
ミナは慎重に進むが、その表情には緊張が浮かんでいる。不意に家具にぶつかり、その上に置かれていた花瓶がぐらりと揺れる。
ミナ
「ご、ごめん!」
日野先生は素早く反応し、花瓶を寸前で受け止める。ほっと息をつく。
日野先生
「危ないところだったな…」
花瓶を元に戻し、その拍子にドアがわずかに開いたままになる。
日野先生
「お前が他の生徒とうまくやれていないのは知っている…だからこそ…同じような立場の相手と一緒にいる方が楽かもしれない、と思ったんだ。酒井センみたいなな。だから――あいつには近づくな。」
_
廊下では、センが静かに歩み寄り、落ちた書類を拾おうとする。その途中、半開きのドアのそばを通りかかり、日野の言葉を聞いて目を見開く。
ミナ
「どういうこと?」
日野先生
「あいつは信用できない。酒井は不安定だ…前の学校で、生徒を殺しかけたことがある。」
センはその場で凍りつく。動けない。息が浅くなる。
ミナは言葉を失う。
ミナ
「殺しかけた…?」
日野先生
「あの家は危険だ…だから、あいつには近づくな。いいな?」
そのとき、廊下に声が響く。
岩崎先生
「おい!待て!」
日野先生は慎重に廊下へ出る。ミナはドアの陰にしゃがみ込む。
廊下には岩崎先生が現れる。火のついていないタバコをくわえている。
日野先生
「岩崎!どうした!?」
岩崎先生
「また夜更かししてるガキどもだろうな!」
彼は何気なく床に落ちていた書類を拾い上げる。
岩崎先生
「ん?これは…コンテストの問題か…」
日野先生は一瞬ミナの方を疑うように見る。ミナはぎこちない笑みを返す。
日野先生
「ああ、それは…さっき落としてしまってな。原校長に確認を頼まれていたんだ。」
岩崎先生
(書類を返しながら)
「なんだ、そうか…てっきり問題でも起きたかと思ったぜ。」
そう言って去り、自分の部屋へと戻っていく。廊下は再び静寂に包まれる。
ミナはそっと顔を出し、周囲を確認する。センの姿はもうない。
日野先生
「いいか…もう部屋に戻りなさい。この話はまた明日だ。」
ミナは父の言葉に戸惑いながらも、本館を後にする。
***
外では、センが素早く茂みに身を潜める。近くを巡回する警備員たちから隠れるためだ。心臓が激しく鼓動する中、息を潜める。やがて警備員たちは気づかずに去っていき、ようやく息を吐く。
その瞬間、頭に浮かぶのは先ほどの言葉――
「生徒を殺しかけた…あの家は危険だ…」
センの視線は虚空に彷徨う。
――そのとき、閃光のような記憶がよぎる。
センは頭を抱える。
燃えさかる木の前に、太陽のように輝く子供の影。
セン
(小さくつぶやく)
「今の…何だ?」
ジョギングのときに見たあの大きな木の記憶が、鮮明によみがえる。歪んだ枝、葉の隙間から差し込む光――その光景が胸を締めつける。それが警告なのか、それとも呼びかけなのか、彼にはまだわからない。




