地下室
センはビーヴ村を歩いている。
一人の老婦人に近づく。
セン
「すみません……」
老婦人が顔を上げる。
セン
「ミナっていう女の子を
探してるんですけど……」
老婦人は数秒考える。
老婦人
「ごめんなさいね……
心当たりはないわ。」
センは軽く頭を下げる。
セン
「ありがとうございます。」
そのまま歩き出す。
少し先で、
一人の店主に声をかける。
セン
「すみません……
(間。)
ミナっていう女の子、
ご存じないですか?」
店主は首を横に振る。
セン
「日野って名前は……
聞いたことありませんか?」
店主
「いや、悪いね。
知らないな。」
センは再び歩き出す。
時間が過ぎていく。
夫婦に尋ねる。
郵便配達員にも。
子供を連れた母親にも。
返ってくる答えは、
いつも同じ。
申し訳なさそうな表情も、
いつも同じ。
太陽が少しずつ傾き始める。
センは道の真ん中で足を止める。
辺りを見回す。
そして――
ため息をつく。
***
夕暮れ。
孤児院は静まり返っている。
まだ明かりのついている窓が、
いくつかあるだけ。
少し離れた場所に、
一台の車が静かに停まる。
サムがエンジンを切る。
孤児院を見る。
そして、
エマを見る。
サム
「まさかとは思うけど……
(間。)
孤児院に忍び込むために来たんじゃないよな?」
エマは何食わぬ顔で微笑む。
エマ
「厳密に言えば……
私はここの元入所者だから。」
サムは数秒、
エマを見つめる。
サム
「なるほど。
(間。)
じゃあ、思い出込みの不法侵入か。」
エマは車を降りる。
エマ
「来る?」
サムはため息をつく。
サム
「俺……
本当に職業選びを間違えたな……」
二人は人目を避けながら、
門へ近づく。
サム
「一応聞くけど……
(間。)
ちゃんと作戦はあるんだよな?」
エマは小さく笑う。
エマ
「まあ……
一応ね。」
数秒後――
暗がりから、
リーさんが姿を現す。
門が静かに開く。
リーさんの口元には、
疲れた笑みが浮かんでいる。
リーさん
「これを後悔しなきゃいいんだが……」
エマが小さく笑う。
エマ
「ありがとうございます、リーさん。」
リーさん
「私は一緒には行けない。
(間。)
院長に、
二人を中へ入れたことがバレたら……
(さらに間。)
クビになる。」
エマは頷く。
エマ
「分かってます。」
リーさんはポケットから、
古びた鍵束を取り出す。
その中から一本を外す。
そして、
エマへ差し出す。
リーさん
「地下室の鍵だ……」
エマが鍵を受け取る。
二人の視線が重なる。
リーさん
「ほら……
(間。)
気が変わらないうちに行け。」
エマは感謝を込めて、
小さく頷く。
_
廊下は薄暗い。
エマは足音を立てないように進む。
サムが後ろで、
静かに扉を閉める。
二人は無言のまま進み、
階段へ辿り着く。
そして、
下へ降りていく。
サム
(小声で)
「で……そろそろ教えてくれないか?
(間。)
なんで地下室を見るためだけに、
警察の世話になる危険まで冒してるんだ?」
エマとサムは、
最初の扉の前に辿り着く。
エマ
「前の院長は……
公式にはここで死んだことになってる。」
ドアノブに手をかける。
サム
「自殺……だったよな?」
エマは頷く。
エマ
「でも、
一つだけ辻褄が合わないことがある。」
鍵を開ける。
地下は暗い。
弱々しい電球が、
廊下を照らしている。
エマ
「青山元院長は、
ネズミを病的なほど怖がってた。
(間。)
なのに、
この地下室はネズミだらけだった。
だから地下に降りるのは、
いつもリーさんだった。」
サムは考える。
サム
「じゃあ……
なんでわざわざここで自殺したんだ……?」
エマは頷く。
エマ
「そう。」
二人はさらに奥へ進む。
足音が、
静かな地下に響く。
サム
「それか……
別の場所で殺されて、
遺体だけここに運ばれたとか。」
エマはすぐに首を横に振る。
エマ
「無理よ。
あの頃、
孤児院には大勢の人がいた。
子供たちも。
職員も。
他のスタッフも。」
長い廊下を指す。
エマ
「大人一人の遺体を、
誰にも見られずに建物中を運べると思う?」
サム
「じゃあ……
ここで死んだ。」
エマはゆっくり頷く。
エマ
「私もそう思う。」
沈黙。
二人は、
重い金属製の扉の前に辿り着く。
エマが足を止める。
エマ
「つまり……
青山先生は、
自分の意思でここまで降りてきた。」
サムが眉をひそめる。
サム
「大嫌いだった場所に……
なんで?」
エマは扉を見つめる。
その眼差しが鋭くなる。
エマ
「それが本当の疑問よ。」
ドアノブに手をかける。
鍵を開ける。
そして――
ゆっくりと、
ドアノブを下げる。




