邂逅
世界は、灰色で冷たい光に包まれていた。
朝が早すぎるせいか、太陽はまだ霧を突き破るのをためらっている。
黒い車の後部座席に、ひとりの少年が座っている。
――殺人犯の息子。
それが、彼の名前だった。
灰色の瞳が、痛みを帯びた光を宿している。
窓の外を見ているはずなのに――その視線は景色を捉えていない。
見つめているのは、自分の内側にある“空白”。
逃げ場はない。
今日から、すべてが始まる。
そのとき――
対向車線からトラックが飛び出す。
クラクションが、静寂を引き裂く。
――
音が、変わる。
叫び声。
原慧は目を覚ます。
四十を過ぎた男。
息が荒い。
全身が汗に濡れている。
数秒、動けない。
朝の光の中で、彼の体に刻まれた傷が浮かび上がる。
胸から背にかけて――無数の古い傷跡。
深く、いびつに。
いくつかは、まだ完全に塞がっていない。
慧は顔を手で覆い、夢の残滓を振り払う。
視線が、机へと落ちる。
整いすぎている。
冷たい空間。
そして、その中央――
一枚の写真立て。
笑顔の女性。
ガラスの上には、子どもの落書き。
星。ハート。不格好な太陽。
――コンコン。
扉を叩く音。
信夫
「慧、準備できてるか?」
原は小さくうなずく。
信夫
「大丈夫か?」
原慧
「……ああ。ただの悪夢だ」
信夫はそれ以上何も言わず、部屋を出ていく。
原はしばらく、その写真を見つめたまま動かない。
静寂。
そして――
原慧
(かすかに)
「一。」
***
車の中で、少年は目を閉じる。
一瞬、鋭い痛みが頭を走る。
運転手がバックミラー越しに、不安そうな視線を送る。
ボイスオーバー(原 慧)
「二。」
***
原慧は、校舎の廊下を歩いている。
生徒たちは話し、笑い、行き交う――
だが、その音は彼には届かない。
人が、避ける。
無意識に。
彼の視線は、まっすぐ前だけを見ている。
ボイスオーバー(原 慧)
「三。」
***
運転手が黒い車のドアを開ける。
少年が降りる。
顔を上げる。
目の前には、巨大な建物。
威圧的で――異様なほど監視が行き届いている。
カメラ。
鉄柵。
沈黙。
美しく整えられた――牢獄。
ボイスオーバー(原 慧)
「四。」
少年は階段を上る。
重厚な扉の上に掲げられた文字。
――鏡ヶ丘高等学校。
入口には、屈強な男。
警備責任者、黒沢。
わずかに頭を下げる。
黒沢
「ようこそお越しくださいました。」
少年は冷えた視線を返す。
距離を測るような、無関心な眼差し。
そのまま中へ入る。
ボイスオーバー(原 慧)
「五。」
ホールは広い。
光に満ちている。
だが――
整いすぎている。
静かすぎる。
何かが、おかしい。
ボイスオーバー(原 慧)
「六。」
足音。
階段の上から。
ゆっくりと。
正確に。
ひとつの影が降りてくる。
男。
背筋はまっすぐ。
視線は鋭く、暗い。
原 慧。
ホールの中、彼の正面にはひとりの少年が立っている。
十七歳――復讐の対象。
灰色の瞳。どこか気だるげで。
ボルドーの髪が額にかかる。
感情を閉ざした、整いすぎた顔。
視線が、ぶつかる。
時間が、止まる。
啓は階段の途中で足を止める。
沈黙。
そして――
かすかな笑み。
冷たい。鋭い。
原 慧
「ようやくお会いできましたね……酒井セン。」
ボイスオーバー(原 慧)
「七……」




