第84話 秋山七之丞
「してみると…、ここは大和でも伊賀でもない、ということでござるか。異世界…というのはよく分からぬが…」
うーん、どう説明してよいか、中々難しいなこれは。
地下1階層を連れ立って歩く俺たちは、現れる魔物をほとんど瞬時に斬り伏せながら地上を目指している。
地下1階層の魔物は俺のクールダウンの貴重な材料なのだが…、秋山どのも手が早くて中々満足に斃せなくなってしまった。
まあ、やめてくれとも言いづらいので仕方ないんだが。
「いやはや、社の巫女を抱いて寝たと思えば、目覚めてみればこの暗がり…。そこに音羽どのが来られるものだから、某はてっきりこれが噂に聞く伊賀衆の幻術かとばかり」
…巫女を、なるほどそれで裸だったのか。
というかこの人、巫女なんか抱くからバチがあたって追放されたんじゃないのか…?
「はて…神明の罰であれば、一人目の巫女でありそうなものだが…。そも、どの社の巫女がいけなかったのか? それを申さば尼僧も…」
あ、うん。それはもういいや。
そしてどうやら、秋山どのは俺のご先祖様の音羽氏を知っているらしい。
まあ、大和と伊賀は隣国だからな。
名前を聞くことくらいはあるのかも知れない。
…はたしてその音羽氏が、俺のご先祖様の音羽氏と本当に同一なのかは分からないが。
これについては何度考えても堂々巡りである。
ちなみに秋山どのには予備の小太刀も贈ろうと思ったのだが、帯を巻いていないので二本差しという訳にもいかなかった。
「自慢の一刀も真ん中に提げてござるが…。いかな名刀と申しても、これはおなごしか斬れぬゆえ…ハハハ!」
…なんかさっきまでと全然雰囲気が違うなこの人。
いやまあ、ピリピリしっぱなしよりはいいんだけどさ。
さて、そろそろ迷宮の出口だが…、これはちょうど地上から潜って来た探索者の一団とハチ合わせるな。
どうしようか、秋山どのに着せる予備の服なんて持ってないし…、本人が全然気にしてなさそうだからいいか。
というか、この気配はシーロたちだな。
ついでに土産を渡そうか…いや、まだ鑑定もしてないし、今は込み入ってるから後日にしよう。
「誰か来るよ…! 2人!」
女斥候のアニタの警告の声が聞こえる。
アニタは隊列の最後尾にいることが多いはずだが、さすがに良い索敵をしているな。
「俺だ。新たな漂人と出会って、今は地上を目指している」
「シュウか! お前また漂人を拾うとは…」
やがて姿が見えたシーロと声を交す。
シーロたちのパーティは6人フル構成なので、ここで長々と立ち話という訳にもいくまい。
迷宮内で6人を超える人間が集まった状態では、禁忌に触れてクラスの力が働かないおそれがあるのだ。
「ベリンダに頼まれた品は見つけたから、次に地上に出たらエリカに声をかけてくれ。と言っても、これから鑑定だからダメでも許せよ」
「おお、ありがたい。そうさせてもらおう。もちろん、ダメでも鑑定料は持たせてもらうぞ」
やはりシーロは義理堅い男だな。
パーティのリーダーというのは、こういう人物が相応しいのだろう。
まあ、俺には難しい話である。
そして、短く話を切り上げてすれ違う俺たちに、やっぱり目を輝かせたベリンダが話しかけてくる。
まあ、コイツがこのシチュエーションで黙っているわけもないとは思ったが…。
警官隊も迷宮の中までは来れないだろうしなぁ。
「…いい男を拾って来たじゃないか。フフフ…。刃渡りもまあまあだけどさ、特に切っ先がいい造りをしてるよ。…泣かされそうなカタチだねぇ」
…考えてみると、コイツは秋山どのと相性がいいのではなかろうか?
いやいや、どのみちシーロの目の前でする話でもない。
「音羽どの、彼らがその『探索者』というつわものでござるな?」
「そうだ。迷宮の魔物を斃して、魔石や財貨を得る仕事だ」
「おおよそ分かり申した。魔物を屠って銭を得て、その銭で遊女を買えばよいと。これは中々良き所に来たようでござるな!」
…遊女は好きにしたらいいし、別に間違ってはいないか。
まあ、地上に出たら漂人局の職員に引き継いで、たぶんボドワンのパーティに放り込まれるだろうから後はボドワンに任せよう。
…それと、秋山どのがエリカの眼に触れないようにウーゴに頼まないとな。
「シュウさん、その格好は…!?」
迷宮入り口に来てみるとやはりエリカと遭遇したのだが、階段下から上手い事ウーゴに声をかけて衣服を用意してもらえた。
すでに別の職員女性が秋山どのを連れて行ったので、俺は安心してエリカに相対する。
さあ、あとはエリカの叱責を回避すれば今回のミッションは完了だ。
いやその後もあるが、ともかく順番に作戦を進めていこう。
俺はエリカを抱きしめて、耳元でささやく。
「エリカ、俺はまたあらたな漂人を助けることができた…」
「それは…もちろんお手柄ですが、でも…!」
相殺しきれていないか…、ここは押していこう。
俺はエリカをいっそうつよく抱き締め、誠心を込めて語りかける。
「俺は傷も負っていないし、必ず帰ると言った通りだ…。エリカ、俺を信じられないか…?」
「…いえ、分かりました」
俺の言葉を聞いて、それまでむずかっていたエリカもようやく落ち着いてくれた。
これ、あと何回か使えるのでは…?
ともかくこれで懸案は片付いたし、後は東区だ。
しかし、俺がエリカの曲線に手を這わせると、またエリカは身をよじり始める。
「あの…、あの…」
なんだ、今日はやけに抵抗するな…?
秋山どののせいでクールダウンも今一つだし、本当に今日は我慢しがたいのだが…。
もじもじと身をよじるエリカは、やがて潤んだ瞳を上げて俺に訴えかけて来た。
「シュウさん…。1人目からこんなに凄くされちゃうと私…、とても10人も持たないです…」
…
…
…逆効果なんだよね、それ。
よし、いますぐ東区だ。
抑えられるかこんなもん。
…これが生きている証か。
押し寄せる熱情の奔流に追い詰められ忘我のうちに乱れ狂うエリカが、せり上げられ昇り詰めるたび俺にしがみついて背中に刻む、その幾筋もの幾筋もの幾筋もの赤い爪痕すらも、ピリピリとした甘い痛みをともなって、確かな生の実感を俺にもたらしていた。
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