12.たおやかな永劫回帰
魔法をもっと学びたい、というリリーの背中を押したのはヴィントで、ロマネスト留学をリリーはとても喜んでいた。
心の狭い独占欲で後を追っても、嬉しそうに、ひたむきな純真でリリーは笑っていた。
リリーの魔力を追い、生徒会室まで駆けつければバタバタと折り重なって正体不明の大人……恐らくレジオンの部下が倒れている。
入り口には、この世の終わりから来た魔王みたいな顔をした後輩──アルドラが仁王立ちしていた。
「事情は分かりませんが、ちぎって投げました」
短気で直情的な後輩は意外な所で役に立つらしい。
拍子抜けしたヴィントは礼を言うと中に入る。
リリーの姿を認めるとヴィントは飛びついて思い切り抱きしめた。
「事情は分かりませんが、回復しておきました」
目元を両目で隠した後輩、ミュシャが言う。
こういうのは見てもいいやつですわ、とミュシャの両手をフィアナが外した。
髪を撫で、両手で頬を触り、肩に触れて顔を埋めまた抱きしめる。
大丈夫、大丈夫だよ、とリリーも抱きしめ返した。
「……わたくしのせいですわ……本当に申し訳ないです」
落ち込むフィアナをミュシャが気遣う。
リリーの肩から顔を上げたヴィントが言った。
「惑星エライユの住人は全部で十五人なんだ」
十五人!?
生徒会室に入ってきたアルドラも合わせて驚く。
「助け合いが鍵という事だ」
そう言って笑ったヴィントの笑顔は、不思議とネックレスを取り戻して笑っていた時のリリーの顔とそっくりだとフィアナは思った。
みんな、ありがとう、とリリーも笑った。
「あれ?フィアナさん、リリーさんと一緒じゃないの?」
廊下でクラスメイトたちがフィアナに寄る。
「ええ、まあ……しばらく二人きりが良いかと思いまして」
窓から中庭に立つリリーとヴィントが見える。
ふーん?と女生徒、
「最初は楽しかったけど、この虫段々気持ち悪くなってきた……どうしよ」
いっぱいいるし、段々増えてるよねと困惑の声を上げる生徒たち。
「リリーさんどうにかしてくれないかなあ?」
期待を込めた目で皆学年一の才女を見つめた。
「……どうしたら、皆、分かってくれるかな……」
中庭に佇んだリリーはヴィントと手を繋いだまま、自身の翼をぐいぐいヴィントの翼に押しつけた。
一見喧嘩でもしているようだが、お互いの翼を押し付けあって戯れあっているだけだ。
ぱさぱさと羽音を響かせながら背中の純白の翼を動かして言う。
「ヴィントだけでいいのに。愛してるって。血でも肉でも、溶け込んで一部になりたいくらい愛してるのに」
「……一部になられるのは困るが……」
苦笑してヴィントが言う。
「分かり合えない人もいるかもしれないが。これはもう、一生をかけて言い続けるしかないんじゃないか?」
「一生を?」
「一生を」
リリーはヴィントと向き合い、両手を繋ぐ。
「じゃあ、一生言おうかな」
「そうするか」
二人が一瞬ぱっと光ったように明滅すると、放たれた魔法が寄生虫を捉え消滅させた。
「何あれ…」
「嘘でしょ?」
教師たちに教わった魔法は、自身の体に魔法の術式を直接描き一時的に魔力を高める魔法だ。
確かに、描けとは言われたが…
外や外壁、教室内から廊下まで放たれた魔法は誘導弾のように正確に寄生虫を拾い上げ消滅させる。
「あれ、全身に描いてない…?」
「消費魔力量どうなってんの!?」
リリーのはためく髪から見える首筋やスカートから伸びる足、顔に至るまで。
ヴィントも同様、魔法が放たれる度に術式が一瞬光り全身に描かれている事を物語っている。
消費魔力量もとんでもないが、描く方も描く方だ。
「すごーい……流星みたい……」
感嘆の声を上げる生徒たち。
「あれお互いに描きあったのかな……」
全身……?まさか、と皆湧き立つ。
学校内隅から隅まで放たれた魔法が止むと寄生虫は一匹残らずいなくなっていた。
まるで世間話でもするかのように、寄生虫を滅した後も和やかに会話をしているように見えるリリーとヴィントをはー、と皆万感の思いで見つめた。
「あ、キスした」
誰かがぼそっと申告する。
おお、と皆乗り気で窓を見つめる。
「あ、わ、もうあの二人、あんな所で……!しかもあ、あ、あれ教師に見つかったら一発退学させられるタイプのキスですわ……!」
フィアナの声を皮切りに女子たちの歓喜の悲鳴がこだまする。
「はー……もう厄介ごとはゴメンだよねえ、疲れた疲れた。何の騒ぎ?」
ひょっこりやってきたクルカンを、先生は見ちゃダメー!!と一騒動起きたのは言うまでもない。
海に沈む尖塔の灯室で、いつも通りの日常が戻る。
「レジオンは療養の名目で故郷に帰るらしい。しばらくは腕すら上げられないと」
「生徒会長の不在、テストの延期……しばらく騒動は続きそう」
とはいうものの、リリーはそう興味なさそうにヴィントの胸元に頭を埋めた。
ロマネストの街内部の寄生虫の駆除ももう間も無く終わり、平穏を取り戻すだろう。
ヴィントはリリーの髪を指で梳って感触を愉しむ。
リリーは顔を上げてじっとヴィントを見つめて言った。
「もっと私に夢中になってもらいたいの」
そうだな……とヴィントは考える。
「今夜は帰りたくないって言ってみるか?」
「今夜は帰りたくなーい!」
間髪を容れずリリーは返答し思いきり抱きつき直した。
「寮の門限があるから帰りなさい」
「そこは帰さないでよ……」
二人は口付け、たおやかに笑いあいながらでももっと夢中になる、という確かな自信だけはあった。




