35 動揺する乙女
イリーナの冷めっぷりは他にも続く。
「イリーナ様、ほらあれ。あの方が上級生の公爵の令息様ですわ」
渡り廊下で友人が向かい側からやって来る上級生を見て、イリーナの耳元で囁く。
美しい金髪に爽やかな笑顔の高身長の美丈夫が友人達と共に歩いている。
全員で頭を軽く下げて、上級生に挨拶をしながら通り過ぎる。
「やあ、お嬢さん達。こんにちは」
彼が4人に声をかけると
「どうも先輩」
そう言って、無表情になり踵を返すように去っていくイリーナ。
それをポカンと見送る上級生達。
後に残された3人が慌てて上級生達にお辞儀をするとイリーナを追いかけて来た。
「イリーナ様、どうしたんですの?」
「そうですわ?」
「急に歩いていくから驚きましたわ」
イリーナは渋顔になり、
「あの方に『お嬢さん』と声をかけられて嫌な方に初めてお会いした時を思い出しましたの」
トーマスを思い出して更に眉根を寄せて辟易とした顔をすると、3人は『ああ、あの方ですね・・・』と思い付きウンウンと頷いた。
「イリーナ様は婚約者様で嫌な思いをなさっておられますものね」
「本当に見た目だけは素敵な方ですのに・・・」
「男性をお嫌いになられたのでは? 皆が皆、あんなふうでは御座いませんわよ?」
そう友人達が口々に想いを口にする。
「理想の恋人像とか、理想の男性とかはいらっしゃいませんの?」
1人の友人がそう聞いた時、彼女の脳裏に浮かんだのは、森のように深い緑色の瞳で笑いかける、赤い騎士服を着た麗人・・・・
「い、いませんわ! そんな方!」
そう言ったイリーナの顔は冬の林檎のように赤くなっていた。
その後も何人かのイケメンを鑑賞させてくれた友人達には、
「私は男性に全く期待出来ないから、誰を見ても素敵だと思えないのだと思います」
そう淡々と云うと友人達に『なんてお可哀想にイリーナ様・・・』と涙ぐまれて大層同情されてしまった・・・
しかし同情されつつも、彼女の心の中にはミルクティーブロンドと緑の瞳の凛とした姿の騎士服を着た女性が佇んでいて、大いに動揺していたイリーナである。




