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33 慌てる男

 今日も今日とて、夜になるとお茶のワゴンを押してやって来るのは、義娘(仮)のイリーナ嬢。


 もはや1年近く続いている習慣であり、来週彼女は17歳になる。


 この地獄と天国が混在する時間を仏の境地、達観した仙人の気分で過ごすのは勿論ジュリアンだ。


 こっち(ジュリアン)の気も知らないで毎晩やって来てはソファーで隣に座りぺったりとくっついては散々お喋りをし、挙句の果てには眠ってしまいジュリアンが彼女を部屋まで抱いて運ぶという嬉しいおまけ付き――苦行ともいう――である。


 しかし、イリーナを宝物の如く抱いて運んでいくジュリアンの姿は女物の艷やかなガウンを羽織っており、その美貌はどう見たって美しい淑女。


 ――例え心中は長い事、マテ!! を喰らった狼の如くであったとしても、である・・・



「お義母様、今日もお疲れ様でした。私が不甲斐ないばかりにお義母様にトーマス様のお相手をさせてしまい・・・」


「いいのよ、大丈夫だから。ちゃんと執事やメイドも同席してくれているんだし。間違いなんか起こりっこないから。それにイリーナの作法の時間だって本来足りないくらいなのだから」



 優しく微笑む義母ジュリーの顔は、まるで天使様のようである。


 ――例え心中は・・・以下同文。



「でも、私このままじゃあいけないんじゃ無いかと思って・・・」



 ソファーに座ると、手を膝に載せガウンをギュッと握ったまま俯くイリーナ。



「どうしたの?」


「お父様が、最近エリザベス先生とよく一緒に過ごしておられるのを見かけるのです・・・」


「あら、そうなのね」

『ヨシヨシ、エリザベスの奴、陛下の計画通り閣下を上手いこと口説き落とすのに成功したか?』



 ――因みにエリザベス・マーシャル伯爵令嬢が将軍閣下を口説く計画は陛下が勝手に考えた策であり、実の所将軍は蚊帳の外である。最初は困惑していた閣下だが、マーシャルの熱烈な『大好き』プロポーズ攻撃に最近絆されて来たようだ・・・



「お父様には、お義母様がいらっしゃるのに・・・。でもエリザベス様は、素敵な方だと私も知っているので、凄く複雑です」


「そう。エリザベスは私にとっても友人よ? 心配しなくても大丈夫よ」

『目立たねえ様にイチャつけって言っとくか。イリーナがいらん心配するからな・・・』



 ジュリアン、言ってることと頭の中はめちゃくちゃ別行動だ――



「それと・・・お義母様、私今悩んでいる事があるんです」


「あら? 何かしら」



 俯いていた顔を意を決したようにパッと上げたイリーナの灰色がかった水色の瞳は涙で潤んでいて、



「うッ・・・」



 思わず庇護欲以外の欲が頭を(もた)げそうになり怯むジュリアン・・・


 ソファーに座ったまま前屈みの姿勢でなんとかその場を凌ぎ、頭の中の想像だけで東方の秘術・座禅を組んで煩悩を追い払う・・・



 ――1人で忙しい男である。



「私、ひょっとしたら男性に対して愛情を持てないのかもしれないのです・・・」



「えええええぇ?!」

『なんだって―!!? オーマイガッ!?』




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