32 それからどした〜?
それからというもの週末になると時折カルザス家のタウンハウスにやって来るようになったトーマス伯爵子息。
傍目から見ると婚約者の家に甲斐甲斐しく足を運んでいるように見えるが、実際はジュリー目当てでやって来ているだけ。それが証拠に花に付けたカードもプレゼントも宛名は『女神のようなジュリー嬢へ』である。
コレだけならただの恋に一途な青年? なのかもしれないが、卒業間近の長期休暇中に彼が通う貴族家は他にも何件かあるらしく、皆美人で有名なご令嬢や妙齢の御婦人達らしい。
他にも酒場の女給や、雑貨屋の娘や芝居小屋の女優から、オペラの女性歌手に紳士御用達の娼館の売れっ子令嬢にまで。とにかく手広く多種多様な恋人を作るのが彼のステイタスのようだ。
いやはやなんとも見た目だけ王子様は実にお盛んである。
トーマス子息がプレゼントや花を購入する度に商人や店舗への細かい調査と、裏付けの書類がジュリアンの部下達によって山積みにされていく・・・流石は諜報部である。
部下達を完全に私物化しているように思われそうだが、国王陛下の肝入りとなった為公務となった。
まあ、妃殿下の事と、玉璽事件の事があるため内密の、ではあるが・・・
ぶっちゃけ陛下はジュリアンの事を憐れんで――面白がって? ―― 諜報部を使う許可を出した様な気もするが、この際なんでもいいから尻尾を確実に掴み、ぐうの音も出ないように婚約の白紙撤回に持っていきたいのは誰あろうジュリアンである。
将軍閣下が諜報部を使うのを渋ってジュリアンを身内として引き込もうとしたのは国家予算を自分に使うのは気が引けていのは分かっているが、『嫁』なんていうややこしい事をせずに最初っから予算組んで公務にすりゃあ良かったんだよ! と、思わざるを得ない状況ではある。
しかしそれがあったからこそイリーナに出会えたジュリアンは、まあそれが運命だったのだろうと前向きに考える事にした。
恋しいイリーナの自由の為にそして自分の自制心のタガが瓦解しないうちに・・・早急な解決を目指して彼も必死に頑張っているのである。
そして・・・
「今日も頑張りましょうね」
「エリザベス様、お待ちしておりました」
ジュリアンがトーマスの相手をしている間、家庭教師として選ばれイリーナの私室で貴族女性の作法を教えるのは、エリザベス・マーシャル伯爵令嬢。
例の女性近衛騎士隊の隊長である・・・
女性近衛の立場から王侯貴族女性のお側に侍る事により得た上位貴族の持てなし方法を教えるというお役目を陛下より直々に承りイリーナの自室へやって来る。
妃殿下の口入れで将軍の娘が貴族家に嫁ぐのだから、責任を持ってイリーナ嬢に上位貴族の教育をさせよというお達しが陛下より下されたのである。
勿論妃殿下は講師を派遣しようとしたのだが、陛下より待ったがかかる。
「女性近衛の隊長マーシャルを派遣せよ」
何故? 近衛のマーシャル? という妃殿下の戸惑いをよそに
「ハッ、陛下の御心のままに」
と、あっさり引き受けるエリザベス嬢。
そして、妃殿下の反対するまもなくあっさり1年以上溜まってしまっていた有給休暇をサッサと取って、客人として講師としてカイザル家に滞在する事になったエリザベス。
・・・要するに皆グルである。
泣いたのは妃殿下ではなく、女性近衛の副隊長だったというのは多分噂だ・・・




