31 言い訳する(見た目だけは)王子様
「だってイリーナ。私は君の婚約者だろう?」
「ええ・・・(ボソッ)一応ね」
「婚約者の誕生日パーティーに出席するのは貴族なら当然じゃないか」
胸を張って威張るトーマス。
「私に招待状が届いて居なかった事は気がついたが、平民だった君の事だ。知らなくて当然だ。寛大な私は気にしないよ」
「はぁ・・・」
「婚約者として当然の義務を果たした私に感謝したまえ」
「はぁ?」
寛大で気にしないんだから、別に感謝しなくてもいいんじゃんか、と呆けるイリーナ。
「ところでジュリー嬢は、花を受け取ってくれたかな?」
と、ソワソワし始めるトーマス。
「わざわざ王都で1番の花屋に朝採れの薔薇を注文したんだよ。気に入ってくれるといいんだが」
駄目だコイツ――
イリーナも壁に擬態するメイドも皆埴輪みたいな顔になった・・・
「お呼びとお聞きしましたが、ご令息?」
目が点になるイリーナ達がいる客室のドアが開く。
真っ赤な騎士服を着たジュリーである。
「執事から、ご令息が私に御用があるという事を、お聞きしましたので参上致しましたが?」
コテンと首を傾げる彼女―― ホントは彼だが・・・――は不思議そうな顔をする。
「イリーナと水入らずのほうが良かったのでは?」
笑い出したいのを堪えて壁の擬態が解けそうなメイドと、ジュリーの後ろで吹き出しそうになるのを堪えて鳩尾を押さえる執事・・・・そして呆然とするイリーナを他所に、疾風の如くソファーから移動するとジュリーの足元に跪くトーマス。
「まあ、ご令息。其のような事をされましては、ご衣装が汚れましてよ」
困った顔で秀麗な眉を下げて頬を押さえるジュリー。
それを見上げるトーマスの顔は紅潮し目は潤んでいて、まるで恋する乙女のようである。
ジュリーの本当の性別を知る者は、笑いを堪えるコトをこの上もなく強要された。




