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北欧神話は語られない  作者: エイカ
最後の嘘
13/18

3

 神々の集う場所から少し離れたところで、一人でホズは座っていた。バルドルの危険がひとまず回避できたことで、ホズに何か命が下されることはなかった。身体を蝕んでいた呪いも解けたが、手放しで喜べる状況にはならなかった。一度抱いてしまった黒い感情を忘れることが出来なったのだ。

 そこにひょっこりと現れたロキが声を掛ける。明るく、いつもと変わりのないような様子だ。


「目の調子はどうだい?」

「良く見えるよ。君が変わりない美青年のままだってわかった」

「あはは、言ったろ? 僕は嘘をつかない主義なんだ」

「どの口が言うんだ」


 ホズが溜息を吐く。からかうつもりで言ったのだが、あまり意味はなかったようだ。


「……くだらない話だね」


 何処か楽しそうにホズは言う。


「うん」


 ロキも目を細めて同意した。


「ぼくね、君との他愛ない話をするの好きだったよ」

「うん」


 ホズは過去のことを語るような口ぶりだ。

 ロキから表情が消えた。


「ねぇ、ロキ」


 ホズはそう呼びかけると、ロキの手にそっと自分の手を重ねた。辛そうに表情を歪めて、ロキは何とか言葉を振り絞った。


「……うん」


 それだけを、なんとか。

 それがとても痛ましく、ホズは見ていられなかった。黙っていようと、騙されていようと思っていたのに、それがどうしても彼には出来なかった。たとえそれがロキを更に苦しめることになっても、ホズには出来なかったのだ。


「ルーンはかけなくて良いよ」

「……あ、」


 ホズの言葉にロキは目を見開き、何か言いかける。しかし、ホズがそれを許さなかった。


「黙って」

「――うん」


 ホズに遮られて、ロキは言葉を飲み込んだ。


「きみは悪くない。ロキ、これは僕の意思だ」

「……うん」

「お願い、ロキ。ぼくにやらせて」

「うん」


 やんわりとホズの手を外すとロキは素早くルーン魔法を発動させた。そして、その手でホズの目を覆う。

「――ごめん、ホズ」


 ロキは迷わない。

ホズの新しい目には仕掛けがあった。ロキの呪文一つで、ホズの意思を奪い操る魔法が組み込まれていたのだ。


「……最後まで嘘つきだ。君らしいよ、ロキ」


 遠のいていく意識の中、ホズは思った。

 暖かい魔法だと。


 悪くはない、眠りに付けるのは久々だと。静かに意識を手放した。ホズの記憶はそこで途切れたのである。

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