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ホズだった身体がふらつき、ロキが腕で支えた。目は開いているが、虚ろに前だけを見据えている。「立て」とロキが小声で言うと命令通りに動いた。
策略どおりの結果だというのに、ロキの瞳は冷たく青に染まっている。
頭を振り余計な感情を押し殺す。薄く笑みを浮かべ、いつも通りの軽薄そうな雰囲気を作り出す。大きく息を吸って、声を出した。
「どうして君は仲間に加わらないの?」
周りに聞える程の大きな声だった。その様子に気づいてバルドルを囲む神の中にもロキ達の方を振り向いた者もいた。
「みんな楽しくバルドルに石やナイフを投げて遊んでいるのに」
「ぼくは、目が見えないから」
ホズが口を開く。それはホズであってホズではない。
ロキはホズではなくなった者に構わず話しかける。先ほど返事しか言わなかった口と同じものとは思えないくらい、流暢に。身振り手振りを使って大げさに振る舞う。
そのうちロキの周りに一柱、二柱と集まりだした。注目を集めたところで、懐にゆっくりと手を入れた。
「じゃあコレをお使い」
美しく装飾された木の枝がホズに差し出された。ホズの手に、しっかりと握らせて、彼の耳元でそっと囁く。
「さぁ、僕が方向を教えてあげよう」
ゆっくりと後ろからホズの手をとり、バルドルの方へ向ける。
空から一滴、二滴と水滴が零れ落ちてきた。バルドルを避け、一柱だけが濡れることなくその場に立つ。
雨脚が次第に強まり、風も吹き荒ぶ。群衆がホズとバルドルまでの道を開けるために二つに割れた。バルドルが顔を持ち上げる。ホズに気がつくと体を向けて両腕を広げて見せた。
ホズが枝を投げた。
真っすぐとバルドルの心臓を目掛ける。
バルドルの足が一瞬、地から離れた。
その枝は一度も勢いを弱めることなく、バルドルを貫いた。
バルドルは衝撃に目を大きく見開き、重力に従って地へと吸い寄せられた。心臓がうるさく鳴り響き、焼けるような熱さに脂汗が流れる。恐る恐る胸に手で触れると、真っ赤に染まった。それが自分の血だと気がつくと、なぜかバルドルの表情から緊張が少し緩んだ。
「これが痛み、というものなのか」
ホズが投げた枝はヤドリキだった。万物の中で、唯一フリッグが約束を交わせなかった物だ。それをロキは知っていた。
「バルドル!」
誰かの声があがった。遠巻きに見ていた群衆が異変に気がつきバルドルを取り囲む。
ロキは、血が滲むほど拳を握り、その光景を目に焼きつけていた。
こうして、神々は希望の光を失ったのである。




