第四話 絆
翌日。
「陽大ー! おはよー!!」
「おー、はよ」
いつも通りの朝がやってきた。今日も透き通るような青空だ。
透過病は先程告げたとおり、治療方法が不明の病である。つまり入院も必要ない、というか意味がないため、夢路も普段通りの生活を強いられた。見たところ体が透けているようでもないので、体調に問題はないのだろう。それにしても、体が透けるというのは本当なのだろうか。夢路が昨日言ったことを信じていない訳ではないが、どうにも現実味がない。透過病という病名があるのはなんとなく知っていたが、身近な人がその病気にかかったことはなかったため、半信半疑なのだ。
「なーに一人で考え込んでんの! ……あ、もしかして本当に体が透けるのかとか思ってたりする?」
「へあ!?」
「透けるんだなあーこれが!」
そんなことを言ってなぜか腕まくりを始めた夢路だが、自分の考えていることを一瞬で当てられた陽大は衝撃の表情を隠せないまま口を開いて固まっている。しかしその口をさらに大きく開かせる出来事が、直後、起こった。
「ほら、ね!」
言いながら夢路が腕まくりをして陽大に差し出してきた腕は、淡く透けて、制服の袖の裏地が見えていた。明らかに、透けている。腕の、肘から下の一部分だけ。
「これ、は」
「透けてるでしょ? ……なんか、気持ち悪いよね」
えへへ、と笑い、まくった袖を元に戻す。そんな夢路の悲しみは顔に表れて、今にも泣き出しそうだ。陽大はそんな夢路を、横から見つめる。陽大の顔からは、夢路の苦しみは比にならないと思いながらも辛いと思う気持ちが読み取れる。しかし陽大はそんな思いを消すために頭をぶんぶんと振り、夢路を見て、安心させるように言った。
「気持ち悪くなんかねーよ。それに言ったろ? たとえお前が消えても、みんながお前を忘れても、俺がお前を――」
「うんっ! 助けてくれるんだもんね!!」
陽大の言葉を遮って言い、顔を上げた夢路からは先程の悲しみの表情は跡形もなく消えていた。そんな満開の笑顔に陽大も「おう」と返し、学校への道を二人で歩いていく。
たくさんの複雑な感情を胸に秘め、陽大は青く澄み渡る空を見上げた。
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