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異世界冒犬譚  作者: さくら
面影に君を想う
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2話

宜しくお願いします

 「息抜き……しましょ?」


突然のアイリスの提案にセレナは言葉が出なかった。いつものようにエイミーに呼ばれアイリスの自室でお茶をしていた所、何の前触れもなく言われたので目が点になった


「えっと……?」


セレナは戸惑いながら聞き返す


「たまには……息抜きもいいと思うの」


アイリスはパーティの場では流暢に話すのだが、プライベートな場ではそれが嘘のように喋る。恐らく染み付いた癖のようなものなのだろう


「息抜きと申しましても、いったいなにをされるのですか?」


「皇族の別荘……」


セントラルロート地方にシャフトカンマという村がある。首都シュレーダーから近く、そのロケーションから貴族達の別荘地として人気のある村だ。皇族もそこに別荘を持っているらしい


エイミーがアイリスの言葉を聞き詳しく説明してくれた


「そこに行かれるのですか?」


「……嫌?」


「お連れして頂けるなら喜んでお供致しますわ」


「エイミー……」


アイリスはエイミーに顔を向ける。エイミーは言葉を交わさずにその意図を察すると深々と礼をし、部屋を出て行った


「え……と、いつ向かわれるのでしょう?」


「今……から?」


「え!?」


セレナは余りの唐突さに驚いて声を上げてしまった


「大丈夫……その人も一緒」


なにが大丈夫なのだろうか?


助けを求めるようにセレナはエイムの顔を見るが、エイムは好きにしてくれと言わんばかりの表情で二人を見つめていた









 この世界に来て最初に訪れた町。セントラルロートの首都シュレーダーに出稼ぎに来た俺達は宿を取ると酒場で遅めの朝食を摂っていた


「後で武器屋行ってみようぜ!」


シグルは右手にパンを持ち、左手に持ったスープの皿を口に持っていく


「こら、シグル。行儀悪いよ」


マニーズがそれを咎めるが、いつものことなので本気で止めようとはしていない


「そんなお金ないよね?」


オミロはそう言いながら自分の杖を見る


「まあね。でもそろそろ買い換えたい所だよね」


リプシーも釣られるように腰の剣に手を当てた。三人の武器は旧バルミルス邸に移り住んだときにシュナイダーから渡されたものだ。それなりに使い込んでいる為、至る所に傷が付いているのだ


「師匠に自分の獲物はしっかりと使いこんで、手に馴染ませろって言われてるしなぁ」


自身の技量をあげるのも修行の一つだが、道具を使い込み、馴染ませるのも修行の一つなのだ


体の一部に成るまで使い込んでこそ、その武器の本領を発揮できる。どんなに性能の良い武器でも手に馴染んでいなければ思い通りに扱えない


「結構使い込んでるしね。そろそろ買い換えてもシュナイダーさんは怒らないんじゃないかな?」


「ほんと!?」


マニーズの言葉に子供達は目を輝かせる


「た、たぶんね」


「じゃあ、見に行こうよ!」


やはり誰しも新品には心浮かれるのだろう。シグルは急かすようにスープを飲み干す


「ほらほら、武器屋は逃げないから、落ち着いて食べなさい」


剣と魔法のファンタジーといえば武器だろう。男なら誰しもが憧れる物だ。できることなら俺も剣とか持ちたい。だが、犬である俺には持てないのだ。今はこの肉球が憎い


目の前に男のロマンがあるのに、何もできないとはこれ如何に


どうせ持てないのなら見る必要もない。というか気にいった武器があったら逆に悔しい


ふとミルファを見上げる。ミルファは特に武器を持っていないので俺と留守番してくれるだろう


「ミルファのも見ようか? なにかあったら危ないし、持っていてもいいかもね」


「え? 私?」


「うん、短剣か、杖かな? 一緒に探してみましょ?」


「うん!」


ちくしょう。俺の心の支えであるミルファにも裏切られた



今回の出稼ぎはマニーズと子供達で来ている。普段、俺には必ずシャールが一緒についてきてくれるのだが、カイラの件もあり報告の為に皇都へレオン達と一緒に行くことになったのだ


更にイベントは重なるらしくシャールの実家から呼び出しがあり、皇都へ報告後に一度実家に帰るらしい


それもあって、子供達の世話はマニーズが、俺の世話をミルファとセイファルがしてくれている。ユグラシル達もシャールにくっついてスタックフォードに一回戻るらしい


ユグラシル達は最初、俺も行くものだとばかり思っていたらしく、行かないと言った時の顔はまるで世界の終わりだとでも言わんばかりだった


それでも俺と別れてスタックフォードに戻ると言ったので、ちょっとびっくりした


いや、別にユグラシルは俺にべったりのはずとか、そこまで図に乗ってないよ?


『なんじゃ、外には出掛けんのか?』


俺の背中に寄りかかっているセイファルが話しかけてきた


セイファルは最近背が伸びた。祭壇も綺麗になり少量ながらも魔素が供給されるようになった為だろう。まあ、大きくなったといってもミルファよりちっちゃいんだが……お胸もね


『悪意を感じるのぅ』


ギロリと睨まれた俺は慌ててセイファルの胸元から視線を逸らす。さて武器屋に行こうか?





 武器屋へとやってきた俺達だが、シグルとオミロのテンションがやばすぎる。二人は先ほどから食い入るように武器を眺めている。お前らはショッピングに来た女の子か


「これなんかどう?」


マニーズは小さな短剣をミルファに渡す


「うーん……」


ミルファは短剣を手に取り振る仕草を見せるが、どうやらしっくりこないらしい


「ミルファにはこっちのが似合うんじゃないかなぁ?」


そう言いながらリプシーが杖をミルファに渡す


ちょっと待て、似合う似合わないで武器選んでいいのか? アクセサリーじゃないんだから……


渡された杖を胸元に引き寄せるミルファはそれなりに様になっていた。前言撤回だ。似合う似合わないは重要です。これぞエルフって感じだ


「ど、どうかな?」


ミルファは俺を見ながら恥ずかしそうに聞いてくる。可愛い。ぺろぺろしたい


『……』


ああっ!? シャールがいないと思って油断してたらセイファルがいた


(い、いいんじゃないかな)

「あぉん」


「カールも似合ってるってさ」


「うんっ! これにする!」


その後も子供達の装備を見て回り、結局、夕方ぐらいまで時間がかかってしまった。装備を一新した子供達は全員が様になっており、いっぱしの冒険者のようだった


「お金、大丈夫?」


全員の装備を一新したのだ。それなりのお金を使い込んだはずである。ミルファが心配そうにマニーズに聞く


「大丈夫だよ。ただ……明日からは頑張ってみんなに働いてもらわないとだけどね!」


「まかしといて!」


満足げなシグル達は力強く頷いた


よぅござんしたね。俺は何も買ってもらえてないけどね


「へへ……カール、頑張ろうね」


ミルファの屈託のない笑顔に俺は羨望の眼差しで答える事しかできなかった




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