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異世界冒犬譚  作者: さくら
君を照らす闇
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4話

宜しくお願いします

マスタは皇国軍の門を叩いて数ヶ月の新兵だ。元々皇国軍に入りたかったわけではなく、別の目的があった


マスタはジルベストル地方出身で、父と母は元暗殺団に所属していた。その為、幼い頃から闇の女神セイファルを信仰するのが当たり前だった。嫌々ながらも祈りを捧げていたのだが、ある時を境にマスタは敬虔なセイファル信者となる


 ある日、マスタは大人達の目を盗んで旧暗殺団本部に設置されているセイファル像を見に行ったのだ。そこは本来、限られたメンバーしか入れない場所であったが、マスタは自分に自信があった為、腕試し気分で乗り込んだ


結果として、誰にも気づかれずに忍び込んだマスタはそこで女神に一目惚れをした


本部の最深部に設置されたセイファル像はとても美しかった。松明の揺らめく明かりに照らされたセイファル像が優しく微笑んでいるかのようにすら見えた


その一件を境にマスタはセイファルへの祈りを自ら進んで行うようになったのだ


だが、そんなマスタに悲劇が訪れる。旧暗殺団本部に隠していたセイファル像が皇国に見つかり破壊されてしまったのだ。それを聞いたマスタは激昂した。その日以来、マスタにとっての皇国軍は倒すべき仇となったのだ


そんな中、マスタは暗殺団残党にスカウトされ、皇国軍に潜入することとなった


父と母はすでに暗殺団を辞め、店を構えていたので反対されたが、セイファルへの想いからマスタは家出同然で飛び出したのだ


 皇国軍に入り、与えられた任務はとある貴族の秘密を探ることだった。だが、状況が一転する。皇国軍から与えられたのは第二皇子レオンとその仲間達が拠点とする旧バルミルス邸付近の治安維持任務だった。皇都から離れてしまうので自分の任務に支障が出ると思ったマスタは、なんとかならないかと思案に暮れる。そんな折に予想だにしなかった噂話を聞いた


バルミルス邸にセイファルの祭壇があったという話だ


それを聞いたマスタはすぐに暗殺団残党に連絡を入れた。祭壇があるとなれば神印もあるはずだ。皇国軍により破壊された神印があれば暗殺団の復興も容易い


暗殺団残党も色めき立ち、神印を手に入れる為の作戦が立てられたのだ。都合のいい事にマスタはバルミルス邸に行く任務を与えられている






 バルミルス邸には自分を含めて二十一名の住民がいるようだった。民家が立ち並ぶ一角に野営準備をした後、自己紹介を兼ねて全員がリビングへと集まっている


かなり広いリビングではあったが、さすがに二十人も集まると狭く感じてしまう。マスタは集まった人物を品定めするように見回していた


「我々が来たからには治安の方はご安心ください」


マスタの上司であるホーケンスが胸を叩いた。内心、鼻で笑っているのだが、もちろん表面には出さない


「心強いですわ」


美しいエルフの少女がにっこりと微笑むと、ホーケンスは顔を赤くして鼻の下を伸ばしていた


この屋敷に住んでいるのはレオンとシュナイダー、エルフが三人と冒険者の少女、それと子供達が四人だった。そのいずれもが想像しているよりも手強そうだとマスタは驚く


ここに来るまでに第二皇子と共に来ている人達の話は聞いていた。女性と子供ばかりと聞いていたのだが、女性と言えどもその実力はかなりのものだとマスタは内心舌をまいていた。それどころか弱点ともいえるべき子供達ですら、それなりに戦えそうだったのだ。自分の子供自体に比べれば弱いものの、甘く見れば反撃されるだろう


更に驚いたのがタウレ達だった。歳がいった彼ら五人は農家だと言い笑っていたが、その佇まいをマスタは見逃さなかった


(こいつらかなりできる)


一筋縄ではいかなそうな面子を前にマスタはどうやってここを攻略するかを一人悩んでいた





 治安維持の為という名目の元、マスタは隊長達と一緒に集落を見て回っていた。池の周りを歩きながら朽ちた民家を横目に見る


視界を阻むものは少なく、潜入には向いていないが、制圧は容易そうだった


屋敷に関しても、修繕されているのは東館だけなのでこちらも問題ないだろう。屋敷の中に入り、一通りの部屋を見終わると、一階の物置の前に連れてこられた


「もう一つ知っておいてもらいたい事があります」


レオンが扉の前でホーケンスに言う


「セイファルの祭壇の事ですかな?」


すでに噂は聞いている。ホーケンスは神妙な面持ちでレオンに尋ねると、レオンは無言で頷いた


「本来であれば、ここに祭壇があると言っておけばいいのですが……そういうわけにもいかなくなった事情があります。今から言う事は誰にも言わず、ここだけの話にしてください」


レオンは抽象的でとても優しい顔をしている。初めて会った時も人懐っこい表情で兵士達に接しており、終始兵士達はにこやかだった。だが、ここに来てレオンの表情が一変する


よほどの事なんだろうと全員が顔を引き締めレオンの言葉に頷いた


「この先にセイファル様の祭壇がありますが……それだけではありません」


神印があるのだ。すでに予想がついているマスタは表情を変えずにレオンの次の言葉を待つ


「この先にセイファル様の加護を授かった神印が安置されています」


その言葉にマスタは思わず声が出そうになった。辛うじて思いとどまり、動揺を顔に出さないように心がける


だが、加護を授かった神印とはどういうことだ。そんな事がありえるのだろうか


「お、お待ちくださいレオン様。加護とは……本気ですか?」


「ええ、本当です。だからこそ、ここの事は他言無用です」


「ならば何故それを我々に? あっ! なるほど、暗殺団の残党共に知られている可能性ってやつですね・・?」


「その通りです」


「なるほど。と言う事は、ここに残党共が押し寄せて来る可能性が高いと」


単なる神印であればそこまで警戒はしなくても良かった。だが、加護が与えられた神印となればその警戒度は一気に高まる


「見せて頂いても?」


もはや国宝級の物だ。そうそう見れる物ではない


「構いませんよ。ただ、大人一人通れる程度の通路なので、二人ずつ行きましょう」


マスタはまだ見ぬ加護を与えられた神印に胸の高まりを抑えきれずにいた





 『いつ見ても素晴らしいのぅ……のぅ? カールもそう思わんか?』


うっとりとした目で祭壇を見るセイファルは先ほどからずっとこの調子だ


(そうね)


『そうじゃろうそうじゃろう。本当にわかっておるか? そんなところにいないでもうちょっと前で見てもいいのじゃぞ?』


(そうね)


『妾が力を取り戻すのもそう遠く無い未来じゃのぅ』


(そうね)


『……今日は一緒に寝るか?』


(そうね)


……あ


適当に返事しているのがバレたと、とっさにセイファルの方を見ると、うつむき体を小刻みに揺らすセイファルがいた。やっちまった


『なんじゃその態度は! もうちょっと真面目に喜べ!』


むしろお前が喜びすぎなんじゃないかとツッコミたくなる


(悪い。ちょっと考え事を)


『妾より大切なものがあるとでもいうのか!?』


うわぁ。面倒くせぇ


(そ、そんなことないって!)


『本当か? 本当に妾の事が一番大切か?』


(うんうん)


『ふむ。それはそうじゃろうな!』


セイファルは満足そうに腕組みをして頷いている。こいつ面倒だな


『む? 誰か来たようじゃな』


セイファルの言葉と同時に俺は振り返り通路を見る


「あ、カール! こんなところに居たんだね」


レオンが兵士二人を伴って歩いてきた




 感動で言葉がでないとはこの事だった


初めてみる聖なる神印はまるでそこにセイファル自身がいるかのような存在感があった


込み上げる感情を抑え、マスタは暗殺団復興を一人確信していた



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