2話
宜しくお願いします
一階にある物置の隠し扉は綺麗に片付けられ、セイファルの祭壇へと続く階段は正式にこの屋敷の一部と認識された。祭壇付近はマニーズとエルロッテによって掃除されてはいたが、タウレ達が持参した神印などを配置したことでようやく祭壇らしくなった
『おおおぉ……妾の祭壇が輝きを取り戻したぞ!』
その様子をみて俺の首根っこを掴みながら興奮したように揺さぶるセイファルはとても嬉しそうだ。なによりである
そろそろやめてくれませんかね?
ネフティとマルゲーヌで祭壇の手入れを行い、タウレ、ホグツ、レイヴァンは屋敷の眼下に広がる廃屋の一つを修繕しに行っている
いずれは畑を作るので、屋敷よりは民家を直しそちらに住もうという事らしい
「だいぶ綺麗になりましたね」
一通りの作業が終わり、女性陣がリビングでお茶をしている
「セイファル様も喜んでくれているといいんだけどねぇ」
安心してくれ、想像以上に喜んでるから。綺麗になった祭壇が気に入ったらしく、セイファルはリビングにはいない
『これで僕らが面倒みなくていいね』
(悪かったな。変な事頼んじゃって)
『カールの頼みだからね』
『普通はやらないけど』
(あれだな。ミルファみたいにセイファルの依り代とかいればいいんだけどな)
『それは贅沢』
『贅沢はダメ』
どの口がそれを言うんだ
(やっぱあれか。エルフの方が依り代になりやすいとかあるのかな?)
「え?」
俺の言葉にシャールが反応する
「カールはエルフをなんだと思っているの? いくらエルフといえど依り代の素質なんてそうそうないわよ? ミルファが特別なだけだし、それにミルファは人間よ?」
(え?)
「え?」
(ミルファはエルフだろ?)
「え?」
(え?)
どうも話が噛み合っていない気がする
「カール? ミルファは人間よ?」
(え? だって耳とかシャールと一緒じゃん)
「え……?」
(え……?)
「耳……?」
俺とシャールの視線に気づいたミルファが慌てて耳を隠す
(あれ? え? 俺なんか余計な事言った?)
「ミルファ? あなたもしかして……」
驚いたような表情でシャールがミルファに近づく
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……」
ミルファは俯きながら声を震わせる
「どうしたの?」
その様子を見ていたマニーズがそっとミルファの背中に手をかけた
「わたし……」
「変性魔法をかけているのね」
その言葉に全員が驚きの目でミルファを見つめる
「み、みんなと違う耳だから、気持ち悪いって……」
いじめにでもあっていたのだろうか? いつの時代もいじめの原因は容姿だよな。可愛いのに
「私でも気付けないなんて……どこで習ったの?」
「昔、知らないおじさんに教えてもらった……」
「ど、どいうことなんだい?」
話についていけていないネフティが疑問を投げかける
「ミルファ……あなたエルフなのね?」
シャールの問いかけにミルファは無言で頷いた
変性魔法を解いたミルファの耳はシャールと同じように尖っていた。というか、俺にはさっきと何も変わっていないように見えるのだが、他のみんなの表情から察するに変性魔法とやらが解かれたのだろう
「シャールお姉ちゃんとエルロッテお姉ちゃんと同じだ!」
いいなーというような目でリプシーがミルファの顔をまじまじと見つめる
「可愛いじゃないか! そんな可愛らしい耳を気持ち悪いだなんて……今度そんな事言われたらおばちゃんに言うんだよ? おばちゃんが懲らしめてやるから」
ネフティとマルゲーヌはあらやだ奥さん状態だ
「変……じゃない?」
「ええ、ちっとも。それを言ったら私とお嬢様はど変態になってしまいます」
エルロッテ、そのフォローはどうかと思う。見ろ、シャールが微妙そうな顔してるぞ
「ハーフエルフなのね……」
どうやらミルファはエルフと人?の間にできた子供らしい。という事はハーフエルフだと依り代になりやすいとかあるのかな? つまり俺とエルフで子供ができたら依り代の素質があるとか……エルフのお嫁さんとか妄想が広がるわぁ
「……」
シャールの視線が痛い。まさか考えている事がばれたのだろうか?
戻ってきた男性陣がミルファの耳を見て驚きながらも、褒めちぎっていた。ミルファは顔を真っ赤にして照れていた。可愛い、正直ぺろぺろしたい
あ、やめて、そんな目で見ないで。シャール
「セイファル様の祭壇も整った事だし、後は奉納の儀か」
タウレの言葉にホグツ達が頷いている。奉納の儀とはなんだろうか。かしこみかしこみ〜とかやるのだろうか
「でも奉納の儀をやるとなると他の連中にもバレるんじゃないのかい?」
なにそれ
『奉納の儀とは妾に神印を捧げて加護を与えてもらう儀式じゃ。加護はそうそう授けられるわけではないからな。この場合は神印を捧げると宣言だけするだけじゃ。神印はそれぞれが妾の魔素で繋がっておる。新たに神印が祀られれば、他の神印にも少なからず反応はでる』
よくわからないが、ネットワーク的ななにかなのだろうか。というかバレると何か問題でもあるのだろうか?あれか皇国とかで監視されてるとかか?
「盗賊団の面倒な連中や暗殺団の連中に知られるのは避けたいところだね」
「ああ、バレた日には何事かと見に来るだろうし、碌な事にはならなそうだ」
マルゲーヌとホグツが頷きながら言った
なるほど、わざわざ知らせてやる必要もないが、その奉納の儀をしないと魔素の補充ができないとなると面倒だな
『あー、その件なんじゃが……』
セイファルが申し訳なさそうな声で話しかけてきた
(な、なに?)
『もう加護与えちゃった』
舌をぺろっと出して戯けるセイファルに殺意すら覚えた
森深くに作られた洞窟では数人の男が膝をつき祈りを捧げていた
数日に一度行われるこの集まりはかつての暗殺集団であった自らの誇りを忘れない為でもあり、いつかまたかつての栄光を取り戻す為の誓いの儀式でもあった。その想いがついに成就する
男達が祈りをし終えて顔を上げると奇跡が起こった。神印が淡く光ったのだ
「「おおお……」」
男達はどよめき、一人の男は涙を流す
「セイファル様のお導きだ。今こそかつての栄光を取り戻すべきだ!」
「うむ。皇国軍に送り込んだ仲間からの連絡を待って行動に移そう」
人知れぬ洞窟の中で誰にも知られず男達は歓喜の声を上げた




