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異世界冒犬譚  作者: さくら
交わる旅路
52/126

3話

よろしくお願いします

「本当に聞こえたんだって!!」


シグルが突然大声を上げたので、その場にいた全員がそちらを一斉に見た。今は西日が差し込む時間で全員がリビングで夕食を食べている。今日の夕飯はパンと豆のスープだ。


「はいはい、シグルは怖がりだもんねぇ」


リプシーがからかうように言うとシグルが顔を真っ赤にしながら言い返す光景が繰り広げられている


「どうしたの?」


俺たちからすれば、シグルとリプシーのこのやりとりはまたかという感じなのだが、マニーズからすれば喧嘩しているように見えるらしく、場を取り持とうとシグルに事情を聞こうとしている


「夜に変な声が聞こえるんだよ! 本当だって!」


「声?」


「うん、なんか女の人の声がさ…… 聞こえるんだよ……」


わざとらしく声のトーンを落とすシグル


「ほんとシグルはおこちゃまよねぇ」


「そんな事言うならお前も下の部屋で寝てみろよ! 小便ちびってもしらないからな!」


「っな!? 失礼ね! そんなことするわけないでしょ!!」


「ははーん、さては怖いんだな? 心配すんなって、ちびってもシャール姉ちゃんやマニーズ姉ちゃんが優しくいいこいいこしてくれるって」


「じょ、上等じゃない!! そこまで言うなら行ってやるわよ! あんたこそ怖くて泣き出すんじゃないのぉ? 洞窟の時も足震えてたしぃ?」


「ちょ、ちょっと、喧嘩しないで」


「「マニーズお姉ちゃんも一緒に来てくれるよね!?」」


とばっちりを食らったマニーズが助けを求めるように俺を見る


結局、全員でその真相を確かめるという事になった





「こういう集まりでは恋の話をするのが良いと聞きます」


シュナイダーが口を開いたと思ったらわけのわからない事を言い出した


「「……っ!?」」


「宮廷の侍女から聞いたのです。夜、皆が寝静まった後にそういった話しをよくすると」


「シュ、シュナイダー。そういうのはまた今度の機会にしようか。今はほら。声が聞こえるって件について調査しないとだし」


「たしかに。話をしていては聞きそびれてしまいますね」


前の時もそうだったが、シュナイダーって天然なのか?


男部屋はロウソクの柔らかい光で照らされている。ベッドを女性陣が占領し、男性陣は床の上に座っている


「ここってなにか曰く付きとかそういうのはないですよね?」


シャールが恐る恐るといった様子でレオンに確かめる


「えっと、そういった話は特には聞いてないのですが」


「ですが?」


「元々ここはバルミルス男爵が住んでいた屋敷なのですが、なぜ廃墟になってしまったのかという話はしたことがありましたでしょうか?」


「いえ、聞いていませんね」


エルロッテが首を横に振る


「元々バルミルス男爵は有能な貴族で、ここを皇国から拝領した時は多くの期待を受けていました。ですが、ある時から男爵は自室に閉じこもるようになり、姿を見せることはなかったと聞きます。噂ではなんらかの実験をしていたとか」


「なるほど。きっと夜な夜な女性をさらって来て、地下で実験をしていたのかもしれませんね。女性の怨念が今もなお……」


感情たっぷりに喋るオミロの言葉にミルファはたまらずといった様子で目を瞑り両手で耳を塞ぐ


オミロ、楽しそうだな。でももうやめてあげて! ミルファのHPはゼロよ!?


他愛もない話が続き、何事も無く時間だけが過ぎていく。子供たちは気がつけば寝てしまっていた


「特にはなにも聞こえませんね」


「そうね。風の音とかを勘違いしたのかもしれないわね」


エルロッテとシャールも若干眠そうだ


「もう、だいぶ遅いですし、今日はこの辺にして寝ましょうか?」


レオンの提案に全員が頷くと、子供たちをベッドに寝かせ、マニーズがミルファを、エルロッテがリプシーを抱き二階へと戻る


ここの屋敷の階段は段差が低くしてあるため、俺でも上り下りができる親切設計だ


かなり眠かった俺は我先にと階段に足を掛ける


「え?」


ふと後ろでシャールが声をあげた


「どうかしましたか?」


エルロッテが怪訝な表情で振り向く


「あ、いえ、ごめんなさい。なんでもないわ」


おいおい、ビビらせんなよ


呆れながらも後ろを振り返る。エルロッテがリプシーを抱きかかえ、その後ろにはロウソクを持ったシャール。そして更に後ろにはミルファを抱きかかえ青ざめた表情のマニーズがいた


「こ、声……」


振り絞るような声でマニーズが言うと何事かとシャールとエルロッテが近づくので、俺も恐る恐ると近づいた


《独りは寂しい…… 誰か…… 誰か…… いないの?》


三人と一匹は顔を見合わせると、示し合わせたように階段を一斉に駆け上がり、部屋へと飛び込んだ


「き、き、き、きき、き……」


シャールはもはや口が聞けない様子だ。なにが言いたいんだ


「き、聞こえました! 女性の声で! 寂しいと!」


「いや!!!! やめて!!!」


シャールは耳を塞ぎその場に座り込んでしまう


「どうしたのぉ?」


リプシーとミルファが何事かと目をこすりながら目を覚ます


「マニーズお姉ちゃん?」


そこには立ったまま気絶するという類稀なる特技を披露したマニーズがいた





一夜明け、目の下にクマを作った女性陣と何も知らずに呑気に目覚めて来た男性陣がリビングに集合した


「ど、どうされたのですか?」


シュナイダーが心配そうに話しかける


「……んです」


「え?」


「聞こえたんです! 女性の声が!!!」


男性陣は顔を見合わせる。シグルは何かを言いかけたが、シャールの様子を見て言葉を飲み込んだ


「この屋敷にはなにかいます。浴室の方から『独りは寂しい』って……」


シャール、その顔はやばいだろ


「探しましょう」


「え!?」


エルロッテの提案に全員が目を見開く


「真相を突き止めないことには夜を迎えられません!!」


こうして、一斉捜査が始まった


女性の声が浴室の方から聞こえたのと、シグル達の証言から隠された地下室があるのではないかということで、隠し扉を探すことになった


だが、そもそもそんなものがあればリフォーム時に大工が見つけてるはずである。案の定、なんの発見もないまま、昼が過ぎ、さらに日が傾く時間になっても何も見つかることはなかった。子供達はさすがに飽きたのか、シュナイダーと共に庭でなにかをやっている。俺はレオンと一緒に物置の整理に来た。女性陣は浴室の壁や床を叩いて隠し扉を見つけるのに必死のようだ


「たしかこのへんに…… 寸胴をしまいこんでたはずなんだけどなぁ」


レオンは夕飯で使う鍋を探しているらしい。リビングの奥、浴室の向かいにはトイレを挟んで物置が二つある。先日、俺とミルファ、それからオミロが閉じこもったのは奥の物置で、あちらには装備やらスコップやら外でつかう道具が置いてある。対して手前の物置には日常で使う物がしまってある


中には見た事があるものや、日本では見かけない物もあるので俺も興味津々に眺めている


何気なく見ていると、ふと違和感を覚えた。なにかはわからないが何かが違うような気がする


「あっちの物置なのかなぁ?」


はて? なんだろうと考えているとレオンはもう一方の物置に行くようだ。違和感が気になりつつもレオンについていった


反対の物置でも目当ての物が見つからなかったレオンは肩を落としながら、再度手前の物置部屋へと戻る


そこで違和感の正体に気がついた。こちらの物置が若干奥行きが狭いのだ


たまたまだろうか? と思いつつも奥の壁へと行き、前足でカリカリと引っ掻いてみる


明らかに音が軽く、響く音がする


これビンゴじゃね?


「カール? どうかした?」


レオンの問いかけを無視するようにシャール達がいる浴室へと駆け出した



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