2話
よろしくお願いします
シャールとエルロッテは意気揚々と執政がいる官邸へと出かけて行った。さすがに犬の俺はお留守番である
一人きりの部屋で何も考えずにボーっとできるのは久しぶりだ。俺は寝床で顎を布に乗せてウトウトとしていた
『くすくす』
『転んだ!』
一人じゃなかった。こいつらもいたんだった
(何見てんの?)
窓の付近ではしゃいでるユグラシルに何事かと尋ねる
『子供?』
『走ってるね』
ああ、外を走ってる子供が転んだのか
「……ぶ? たて……?」
ふと、耳に聞き覚えのある声が入ってきた
はて、誰の声だっただろうか?
気になった俺は窓へと近づきその声の主を確かめようとするが、届かないのを忘れていた
くそ! なんか気になる!
大して気にするほどのものでもなく、ちょっと覗いてみようぐらいの感覚だったのだが、それすらもできないとなると無性に気になり始める
(ちょっと見てくる!)
宿屋の前ぐらいに出る程度であれば大丈夫だろうと部屋の扉を鼻先で押し開け外に出た
『一緒にいく!』
『私も行く~』
ユグラシル達もそれに便乗し俺の背中にしがみつく。表に出ると、そこには両手で顔を隠し座り込んでいる子供と、それを気遣う少女…… いや少年がいた。一見、少女なのか少年なのか見間違うほどの美少年には見覚えがあった。レオンだ
「ほら、立てる? 大丈夫。あとで治してあげるから」
座り込んだ少年は涙を拭うと、差し出された手を取り立ち上がった
「よし、偉いぞ、それじゃ行こう。置いていかれちゃ……う? あれ?」
レオンがこちらに気が付いたようだ
「え……っと、カール?」
お、名前を憶えていてくれたようだ
「ワンちゃん!」
レオンがこちらに何かを言うよりも早く転んでいた少年がこちらに駆け寄ってきた
「かまない?」
俺の返答も待たずに頭を力いっぱい撫でられた
おおう。手加減しないのかよ
「オミロ! そんなに力を入れたらワンちゃんが苦しいよ!」
レオンがオミロを窘めつつも近づいてきた
「かわいー」
オミロと呼ばれた少年は華奢な体躯をしており、インテリっぽい風貌をしていた
「この子はカールって言うんだよ? 知り合いのお姉さんの友達なんだ」
「へー」
「そんなことよりオミロ。早くしないとシグルにまた怒られるよ?」
「あ! そうだ! よし! おいでカール!!」
え? なんで俺? と首を傾げる俺に期待するようなまなざしを向けるオミロ
どうすんの? とレオンを見るとどこか諦めたような顔で顔を背けられた
『行こう行こう!』
『おいで! カール!』
おいで! じぇねえよ! お前らもついてくんのかよ!
何時までもついて行こうとしない俺に見る見る悲し気な表情をするオミロ
結局、わけもわからずついていく羽目になった
「遅いぞ! オミロ! レオンも!」
二人の後をついて細い路地を何度も曲がり辿り着いたのは、四方を家の壁で囲まれた六畳程度の広場だった
広場では胸の前で腕組みをしている太目の少年と、心配そうにオミロを見ている二人の少女がいた
「シグル。ご、ごめんよ。転んじゃって」
「相変わらずどんくさいなシグルは。怪我したのか?」
「ちょ、ちょっと擦りむいただけだよ」
「そうか。傷は男の勲章だって父ちゃん言ってたからな! オミロも男らしくしろよ!」
シグルというのは絵に描いたガキ大将そのもののようだ
「オミロ。大丈夫?」
2人の少女がオミロに近づいた
「痛そう…… レオン」
「大丈夫だよ。ちゃんと治してあげるから。ほら」
レオンが膝に手をかざしなにやら呟くと、オミロの膝は見る見る治った。初めて見るが回復魔法ってやつだろうか。レオンって実はすごい子?
「よし! 全員そろったな! ん? なんだその犬」
シグルが俺に気が付いたようだ。その声でその場にいる全員が俺を見る
「かわいー!!」
「ワン……ちゃん……」
「カールって言うんだ! 僕が連れてきたんだよ!」
一斉に囲まれ頭を撫でられた
「この子はカールって言うんだ。前に助けてもらった事があるんだ」
レオンが俺に代わって紹介を始めてくれた
「すっごく賢い犬なんだよ。噛まないから撫でてごらん?」
一歩離れたところで俺を見ている少女にレオンが話しかける
犬が怖いのだろうか? 泣きそうな目をしているんだが・・
レオンに言われた少女は恐る恐ると言った表情で俺に近づき手を伸ばしてきたので、俺は鼻先で挨拶をする
「ひゃいっ! つ、冷たい」
クスクスと笑いながら手を引っ込めるが、すぐさま手を伸ばし俺を撫で始めた
どうやらこの子が最年少のようだ。可愛らしい少女でどこかおどおどしている
「この子はミルファっていうんだよ?」
レオンが紹介してくれた
「こっちがリプシー」
「よろしくね! カール!」
「それで、あそこで偉そうにしているのがシグルだよ」
「偉そうじゃない! 偉いんだ!」
シグルはフンッっと鼻息を立てながらふんぞり返る
可愛らしい最年少がミルファ、ちょっとお姉さんしていてどこか犬みたいに愛嬌のあるのがリプシー、あの太っちょがシグル。で、転んでたひょろいのがオミロ。後はレオンか
「おい! いつまでも犬と遊んでるな! 早く会議しようぜ!」
シグルの一声で全員が慌てて円陣を組む
「仲間じゃない奴は入っちゃだめだぞ!」
どうやら俺の事らしい、呼ばれてきたのに仲間はずれっていじめだろ
「カールは仲間でしょ!」
「そうだよ!」
「仲間だよ……」
「う、わ、わかったよ。でも新入りはそっちだからな」
皆から責められたシグルが入口を指さす。なるほど下座ってことね。こういうグループは新参者には厳しいのはお決まりだよな。俺もやった記憶あるわ。はずかしー
とりあえず、指定の位置に座って様子を伺う事にした
「よし、それじゃ会議をはじめるぞ。今日は悪の集団の秘密基地についてだ」
「前にレオンが懲らしめたやつらだね!」
「い、いや、僕が懲らしめたわけじゃ」
「悪の組織は皇国軍によって壊滅させられましたが、まだ残党が残ってるかもしれませんね」
「そうなの? 私怖い・・」
「大丈夫だ! その為の俺達、スターアビシオンだ! 俺達でとっちめてやるんだ!」
なんで誰も聞いてないのに顔を寄せあって内緒話風にするんだろうか? あと、声がどんどん大きくなってますよ?内緒にしなくていいの?
「ちょ、ちょっと待って! あぶない事はだめだよ?」
悪の組織とは以前、レオンと出会った洞窟のいかがわしい宗教団体の事だろうか?シグル達はその残党とやらを懲らしめに行くらしい。つまりはあの洞窟に行くってことか
雲行きの怪しさにレオンが慌て始める
「俺達に掛かれば悪の組織なんてへっちゃらだ! レオンは怖いのか? 臆病者は仲間にいらないぞ!」
「い、いやそうじゃなくて」
「まずは準備を整えよう。武器は俺が持ってくる。女は食料調達だ」
三人はシグルの話に食い入るように頷く。レオンは呆れながらどこか諦めているようだ
「オミロはいつも通り情報収集だ」
「まかせて!」
「よし! 出発は明日朝一番だ! 解散!」
「「「おー!」」」
掛け声とともに少年少女は駆けだしていく。残されたのは俺とレオンだ
「ど、どうしよう。止めないと危ないよね? カールぅ…… どうしよう」
泣きそうな顔でこちらを見つめてくるレオンだが、俺に聞かれても困ると顔を背けてみた




