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異世界冒犬譚  作者: さくら
星に願いを
27/126

4話

よろしくお願いします。

 最深部は今まで以上に開けた場所が広がっていた。その中心には祭壇のようなものがあり、数人の人間が膝を地面に付け祈るようなポーズを取っていた。一目でそれが異様だという事が見て取れる。俺たちは広場に入る手前からその光景を眺めているが、誰一人として声を発しようとしない。気づかれないように声をださないというのもあるが、それ以上にその光景が異様だったのだ


「こ、これは…… なにかの儀式ですか?」


シュナイダーが口を開いた


「この呪文。これが依頼の変な声の正体でしょうか?」


「恐らくは……」


シュナイダーとシャールが俺の頭の上で話合っている。顔を横に向けるとそこには青褪めたような顔のレオンがいた。背が低いから身を屈めると近いのだ。近い所で見るとその綺麗な顔立ちが一層綺麗に見える。女の子って言っても信じてしまいそうだ


肌の白さも相まって青褪め方が尋常ではないように感じる


だ、大丈夫か? 貧血か?

「くぅ~ん」


俺が心配そうに見つめるのに気が付いたレオンは無言で俺の頭に手を置いた


「レオン様? 顔色が優れないようですが……」


シュナイダーがレオンの異変に気付いて声をかけた


「あ、うん。大丈夫…… ではないかな」


「どうされました?」


「大変…… 気分が優れないのですか?」


シャールとエルロッテもそれに気づき声をかける


「シュナイダー。それにシャールさんとエルロッテさんも」


レオンは神妙な顔で三人に話し始めた


「気づかれる前にここを出ましょう。あれは我々だけでは対処しきれません」


「なにかご存じなのですか?」


「あれは、恐らくカイラ復活の儀式をしているのです」


その言葉に三人が目を見開き驚愕する


え? え? カイラってなに?


俺だけがついていけない


「ま、まさか…… そのような…… 止めなくては!」


「駄目だシュナイダー! 恐らく見えている以上の信者が奥に隠れてるはずだ。それにまだ儀式は始まって間もないはず。書物で読んだだけだけど、二十日間の儀式の上で復活させる気だ。今から皇都へ戻って軍を派遣しよう」


青褪めたシュナイダーが飛び出そうとするのをレオンが押しとどめる


よくわからないが、なんかやばい奴を復活させる儀式らしい。このまま四人と一匹で止めようにも見えている信者だけでも数十人。更に隠れている信者もいるとレオンは言う。だとすればいくらシャールの魔法とエルロッテ、シュナイダーの剣をもってしても倒しきれない可能性がある。俺とレオンは戦力外通告だろう


「シャール様。どうされますか?」


「レオン様の言う通りであればすぐにここを離れて皇都へ戻った方が賢明ですね」


シャールとエルロッテはレオンに同意した


「よし、気づかれる前にこの場を離れましょう」


「うがああああぁぁぁぁ……」


「「「「っ!?」」」」


話し込んでいたせいで誰もブロウガルの接近に気づかなかった。不意を突かれたとはいえ、所詮はブロウガル一体なので、シュナイダーが難なく切り伏せたのだが、問題はそこではなかった


「誰かいるのか!!!」


「侵入者だ! 捕らえろ!」


大きな音に祈りを捧げていた信者達が一斉にこちらを見て叫んだ


「まずい! 気づかれた!」


「逃げましょう!」


シュナイダーとレオンが走り出す


「シャール様!」


「エルロッテ! 急いで!」


続いてシャールとエルロッテも走り出す


俺は後方の音を気にしながら最後尾をついていく


「く、確かこっちから……」


最初の分かれ道でシュナイダーが左右を確認しながら呟く。その顔には焦りの色が伺える。来るときは気にならなかったのだが、この洞窟は脇道が多い。その為、行きはさほど難しくなかったが帰りが迷いやすいのだ。下手に道を間違えれば行き止まりになる


まあ、俺は覚えているんだが。元々日本にいたときも3Dダンジョン系のゲーム好きだったし、地図とか読むのも得意だったし


(そこは右!)


「右です!」


俺が先導しようとするとシャールが叫んだ


おお、シャールは覚えていたようだ。素晴らしい


四人と一匹はT字を右に曲がり走り抜けると、次の分かれ道が迫る。次は三叉路(さんさろ)になっているが、シャールが誘導してくれるはずと思いながら走るが、待てども指示がない


(そこは左だから!)


前を走りながら不安げに後ろを振り返るシュナイダーに通じないとはわかっていても心の中で叫ぶ


「左です!」


おいいいい! わかってるなら早く言ってよ!!


訴える様に横を走るシャールを見上げると、シャールもこちらを何か訴える様な目で見ていた


え? なに? 俺なんかした?


「また分かれ道だ!」


前を走るシュナイダーが叫ぶ。見覚えのある三叉路で真っすぐ来たはずだ。その先でレオン達と合流したはずだ


(真っすぐ行って後は道なり!)


「真っすぐ行って後は道なりのはずです!」


シャールの声に俺は顔を上げる。シャールも同様にこちらを見ている


これって言葉通じてる?


俺とシャールの道案内もあり、追いつかれることなく洞窟を後にした



*********************************************



 皇都に戻るとレオンとシュナイダーは慌てるように俺達と別れ兵舎の方へと走っていった。結局何者なのかがわからなかったけど、恐らくは皇国軍のお偉いさんの息子とかなんじゃないだろうか


俺たちは宿屋に戻り、事の報告をしたのだが、内容が内容なだけに報酬に関してはひとまずお預けの状態だ。今回この依頼を発行したのは皇国の大臣みたいな人らしく、そこに報告を出して結果待ちとの事だ


洞窟から全速力で逃げ帰ったこともあり、今は部屋の中で休憩しているのだが……


シャールが無言でこちらを見つめているので、なんだかとても気まずい


洞窟から逃げる時に俺の考えていることを分かっていたかのようにも思えたのだが、どうもそうでもないような気がする。というのも、皇都に戻ってから何度も話しかけているのだが、反応がないのだ


なんか条件でもあるのだろうか? ピンチの時じゃないと通じないとか? 実はあの時俺の中のすごい力が目覚めたとかそういうのだったらいいなぁ


異世界に転生して犬ってなんなのよ。いや、今更ではあるんだが、もっとこう…… なんか違ってもよかったんじゃないだろうか? 美しい女神様から勇者の力を授かるとかさ


それが犬よ? 特別な力があるならまだしもただの犬はないだろ。嗅覚とか運動神経は人間だった時より格段に良いけどさ


などと愚痴っていると、ふと目の前が暗くなったので顔を上げてみる



近っ!?



俺の鼻先に触れるかどうかの距離にシャールの美しい顔があった


「うーん、気のせいだったのかしら?」


「どうされました?」


シャールが俺を持ち上げるのを見て、エルロッテが顔だけをこちらに向ける。走ったせいで汗まみれになった体を拭いていたようだ


というか、上半身裸じゃん!


残念なことに背中を向けているので美しき霊峰は拝めない


「逃げている時に声が聞こえたのよ」


「声…… ですか?」


「ええ、男性の声だったわ。帰る道を示してくれていたわ」


「そういえば、シャール様は的確に道を示されておりましたね。さすがはシャール様と感嘆していたのですが、その男性の声の導きなのですか?」


「ええ、私もさすがに全部の道は覚えていないわ。最初と最後は分かっていたけど……」


「それが、カールだと言う事ですか?」


「うーん、そうだと思ったんだけど…… 今、こうして心を通わせようとしてるのだけれど、まったくわからないのよね」


「ユグラシル様のご加護なのではないですか?」


ユグラシルはセルンの神々の一柱で星と自然を司る。エルフ達の信仰の対象でもある


「そうなのかしら? 若い青年の声のような気がしたのだけれど…… ユグラシル様ってお若いのかしら?」


「え? いえ、それは…… どうなんでしょう?」


エルロッテは服を着るとこちらへと近づきシャールに抱かれている俺を撫でる


「ですが、カールは賢いですね。レオン様達の時といいまるで状況をちゃんと理解しているかのようでした」


「そう! それ! ちょっと犬にしては賢すぎると思わない? 私達の言葉を理解してたりして……」


「さすがにそれは……」


「そうだ! ちょっと試してみましょうよ」


そういうとシャールは俺を床に降ろし、カバンの中を漁り始めた。しばらくすると手に何かを持ってこちらへと戻ると床にそれを置いた。赤い宝石と青い宝石のようだ


「良い? カール? 今から私が質問するから「はい」の時は青い宝石を触ってみて。「いいえ」の時は赤い宝石よ?」


おお、そういうことか


「シャール様?」


可哀そうな人を見るような目つきでエルロッテはシャールの行動を見守る


「いくわよ? カール。あなたは私達の言葉を理解している?」


俺は床に置かれた青い宝石の上に前足を置いた


「「っ!?」」


二人は顔を見合わせ今起きた出来事に驚愕する


「た、たまたまではないでしょうか? お手と間違えたとか」


震える様にエルロッテが否定する


失礼な。ほれ、もっと質問してみ


「じゃ、じゃあ。あなたの名前はクリス?」


今度は赤い宝石に前足を乗せた


「「っっ!!??」」


再び顔を見合わせる二人


「お、お待ちください! え? え? り、理解しているのですか?」


「お、落ち着いてエルロッテ! まだわからないわ。た、た、たまたまかもしれないし」


「そ、そうですよね…… で、では、私から質問してみてもいいでしょうか?」


エルロッテの言葉にシャールが頷いた


「ごほん。えー、カール? あなたの飼い主はシャール様ですか? それと先ほど出会った二人組は女性でしたか?」


おおう、連続かい


俺は迷わずに青い宝石に足をかけ、続けてその足を赤に乗せた


「こ、これは…… し、信じられません」


「待って! 落ち着いて!」


いや、お前が落ち着けシャール


「あ、あなたは何者なの? 本当に犬なの?」


シャールがおびえる様にこちらを見つめる


あ、やばいか? よく考えたら言葉を理解している犬なんて気持ち悪がられるだけだっただろうか?


やってしまった感はあるが俺は青い宝石に前足を乗せた


その状況を二人は無言のまま見つめ、そして沈黙が部屋を支配した



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