7話
宜しくお願いします。いつもこれしか言っていませんが・・
春の日差しが石畳を照らしだし、その反射光で大通りの風景は淡く揺らいだような感覚を与える。空には雲ひとつなく、心地よい風が肌に気持ちのいい刺激を与えてくれる
ここセントラルロートはマンダス大陸の中心に位置しており気候も穏やかだ。北側に行くと積雪も見られるのだが、セントラルロート地方の北側にはパニール山があり、そこを境に気候が北と南で違っている。北にあるノーデンゲルブ地方は年間で積雪があるが、南のセントラルロートは寒い季節でもそうそう積雪は見られない。ただし、雨量は多く時折スコールのような大雨に見舞われることも少なくない
遺跡から帰還した翌日の昼、三人は昨日と変わらず春の陽気が降り注ぐ町中で朝食を取っていた
「デルフィン、大丈夫?」
「ん? どうしたんだい? いきなり」
ネリーが遠慮がちにデルフィンに話しかける。昨日の様子もあり、心配しているのだろう
「ううん。なんでもない。それよりもこの後はどうするの?」
「そうだね。昨日で結構稼げたし、今日は少し羽を伸ばそうか。マニーズもそれでいいかい?」
「はい、私は大丈夫です」
「ネリーは?」
「そうね。たまにはゆっくり休むのも重要よね」
全員一致で今日は休みになったようだ
「デルフィンは何をするの?」
休み云々のやり取りで気まずい雰囲気が少し和らいだのだろうか?ネリーは明るい声で尋ねる
「そうだねぇ……装備の手入れをして……鍛冶屋とかにでも行って見ようかな」
「そっかぁ、マニーズは?」
「私は特に考えてないです」
「あはは、たまには何もしないっていうのもアリだよね。なんせ休みだし」
「そうだね」
和やかな朝食のひと時が終わるとその場で解散となった
部屋に戻った俺はマニーズがどうするのか気になったが、ひとまず寝床に戻りくるっと身を丸めて待ってみる
「さてと、なにしようかなぁ? 休みって言ってもなにすればいいのかわかんないや」
この世界に娯楽は少なそうだ
「うーん……あ、そうだ!」
なにか思いついたようだ
「カールの体洗ってあげるね!」
俺の世話かよ!
「ちょっと臭うもんね……」
俺の体に顔を近づけながらマニーズは呟いた
おおぅ……そうか、臭いますか
マニーズと一緒に露店を周り買い物をした後は宿屋の裏にある水浴び場で全身を洗われた
水浴び場は布で仕切られたスペースが二つほどある。女性用は室内にあるのだが、別にマニーズは脱がないのでこちらを使わせてもらっている。水を体に掛けられた後、見たことのない粉を体に振りまかれ、マッサージするように揉んでもらった。なにやら良い匂いがしてくるのだが・・石鹸の代わりだろうか?特に泡立っているようにも見えないが・・全身と顔周りを揉みほぐすように洗ってもらった後は、露店で買った木の枝の先になにやら綿が付いているもので口の中も洗ってくれた。どうやらこれが歯ブラシ代わりなのだろう。自分で歯は磨けないので気にはなってはいたのだ。マニーズの膝の上に乗せられ身をゆだねる
なかなか気持ちが良い
「カールは変な犬だね。嫌がると思ったのに」
全身揉みほぐされて気持ちよくなってるところに歯磨きのオプションとは中々いいサービスだな
「はい! 終わり!」
うとうととしていると突如終わりを告げられ降ろされてしまった
ふと振り返るとそこには俺の体についた水分で服がびしょびしょになったマニーズがいた
布のチェニック一枚を着ているだけで、水を含むとどうなるか・・胸・腰と服が体に吸い付くようにぴったりとしており、かなりセクシーなマニーズがいた
おおおおおお! こ、これはたまらん
興奮してしまう
「え!? きゃ! ちょっと! カール!」
興奮した俺はマニーズに飛びついてしまった
「ええぇ……」
マニーズの二の腕に上半身でしがみつき腰を振っている俺とそれを見てドン引きしているマニーズが居た
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「そうかい。カールは綺麗にしてもらったのか。どれどれ……うん、いい匂いだな」
「本当だ。でも、犬にもクカの実使うなんて初めて聞いたけど」
綺麗になった俺を抱き上げると、デルフィンとネリーは俺の体に顔を押し付けて匂いを嗅ぐ
やめて……クセになってしまいそうです
「私も初めてです。でもちょっと匂いが気になったから……」
「まぁね、ちょっと獣臭がね……犬だから仕方ないけど」
「二人は何をしてたんです?」
マニーズ以外の二人が何をしていたのかは俺も気にはなる
「私は中流地区に行って、本を読んでたよ」
図書館のようなものがあるのだろうか
「あたしは鍛冶屋行って……その後は兵舎行ってたよ。休みとはいえ、体を動かさないと鈍っちまうからね」
「デルフィンらしーね」
今日の出来事をお互い報告しながら三人は夕食を楽しんでいる。今日は豆のスープとパンに鹿の肉だ。先日の報酬で三人の懐も温かくなったようで奮発したようだ。いつもはウサギの肉なのに
「明日はどうする?」
ネリーが明日の予定を二人に尋ねる
「依頼みて考えようか。続けて緊急受けるまでもないけど良いのがあれば……ね」
「そうですね」
デルフィンの提案にマニーズも頷く
「じゃあ、明日からは活動再開ってことだね」
三人は頷き休日の話に花を咲かせながら食事を続けた
「ふぅ、さっぱりした」
デルフィンが部屋に入り呟いた
「おかえりなさい。私も入ってきますね」
「おう。ネリーがまだいるよ」
「はい」
この宿屋の風呂場は男女それぞれ二つずつだ。いつもデルフィンとネリーが先に体を洗いに行く。デルフィンはやはりというか帰ってくるのが早い。対してネリーはいつも遅い。風呂に浸かるとかではないのだが……いつも遅い
念入りに洗っているのだろう……ネリーはいつもローブのような服を着ているので体のラインは分かりづらいが、ああ見えて結構良い物を持っている。素晴らしい
いや、そうでなくて
デルフィンと入れ違いにマニーズが体を洗いに行くのを俺は寝床で丸まって見つめる
「ふぅ……」
デルフィンはベッドに腰かけ一点をじっと見つめている
どうかしたのだろうかと気にしてみると、あの剣を見ているようだ
先日の件もあり気になった俺はデルフィンをじっと観察した
「ただいまぁ」
その時、ネリーが丁度帰ってきた
まるで電気を浴びたようにびくっと体を震わせたデルフィンは目を見開いてネリーを見つめる
「え……? ど、どうしたの?」
唐突なデルフィンの行動にネリーが訝し気に尋ねる
「あ、いや、なんでもない。すまない」
朝と夜の食事の時はなんともなかったが、やはりデルフィンはあの剣に思うところがあるようだ。まるで魅入られているような怖さを感じる
特に何事もなかったように談笑し始める二人を尻目に俺はマニーズの帰りを待つ
帰ってきたマニーズを含めた三人は今後の事など他愛もない話をし眠りについた
視界がぼやける
ここはどこだろうか
あたしはさっきまでネリーとマニーズと話をしてそのあと寝たはずだ。それなのになぜ見知らぬ家にいるのだろうか? これは夢?
「お父さん! 今日も畑するの? 私も手伝う!」
ああ、そうだ、今日は私の娘と一緒に麦の収穫をする予定だった
「ああ、コルトも手伝ってくれ」
「デリン。私も後で手伝いに行くわ」
愛するベレッタが台所から声をかけてくれた。そんな何気ない日々、何気ない幸せ
「よし、それじゃあ、先に二人で畑に行こう」
「うん! 帰りにまたあのお花欲しい!」
「花? ああ、昨日採った白い花か。よし、畑が終わったら父さんも手伝ってやろう」
「やったぁ!」
何時までも続くこの幸せは何としても守らねば・・
「良かったじゃないか! ワルド!」
なんて素晴らしい日なのだろう。あのワルドとウーリーが結婚するなんて!
「……ああ」
どうしたのだろうか? ワルドの顔が暗い
「なにかあったのか?」
「実はウーリーの両親に反対されていてね。なんとか説得したいんだ。それで相談に来たんだ」
「そうだったのか。何でも言えよ! 俺で良ければ手伝うさ」
「本当か!? ……実はとある遺跡に眠る伝説の剣があるんだ。それを取りにいきたい。それを持ち帰ればきっと認めてもらえる」
「そんな……デリン。危険な事はしないで」
ワルドの頼みにベレッタは反対のようだ。だが、親友が訪ねて来てくれたのに見過ごすわけにはいかない?それにワルドと一緒なら危険はないだろう
「大丈夫、ベレッタ。ちゃんと戻ってくるよ」
「でも……」
「ベレッタ。デリンは必ず俺が守る。どうか信じて欲しい」
「……ベレッタ。私からもお願い……」
「・・・わかったわ。でも! 必ず無事に帰ってきて」
ワルドとウーリーの説得もあり、ベレッタは納得してくれた
「当たり前だ。コルトの誕生日も近いしな」
三日後はコルトの誕生日だ。今年は去年失敗した丸焼きを今度こそ成功させなくては
なぜ、こうなった
痛い痛い痛い痛い
死にたくない
ワルドとウーリーが結婚するって
その為に手伝って欲しいって
この遺跡に伝説の剣があるって
ワルドは戦友だ、仲間だ
なのになんでワルドが俺を殺そうとしてるんだ?
「無様だな。デリン」
「ワルド……なんでこんな事を……ぐっ!」
「お前が悪いんだぜ? ベレッタを俺から奪ったお前が!」
ようやく見つけたと思った伝説の剣でワルドは俺を切る。痛みと友の突然の行動に俺は混乱する
帰らなくては帰るんだ帰りたい
そうだ、ベレッタが待っている。愛しい妻が
コルトに畑を手伝ってもらうんだ……あの子は不器用だが何にでも真剣に取り組む
帰るんだ帰るんだ帰るんだ帰るんだ帰りたい
——ッドス!
俺の胸から剣が飛び出している
なんだこれは? こんなの知らない、こんなのありえない
あああああああぁぁぁ!!! いやだ! いやだ! 死にたくない!




