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32.狂気の餌食

『はやぶさ』

「『おおわし』、本艇に向けて接近」

全滅した左舷の見張り員に変わって見張りに付いていた海曹が報告した。

「接近?この状況でか?見張り、探照灯は使用できたか?」

艇長代行の機関長は見張り員に聞いた。

「探照灯、使用可能」

見張りが短く答えた。

「よし、発光信号送れ。こちらの状況を伝えるんだ」

「了解」

見張り員は船務長と発光信号の内容の確認を始めた。

「航海長」

機関長が航海長に声を掛けた。

「どうしました?」

「『おおわし』は本艇の救助に来た可能性がある。とりあえず負傷者が自力で移動できるか確認したい」

「はぁ」

イマイチ機関長の言いたい事がわからなかった。

「状況的に本艇は戦闘も航行も不可能だ。自分としては離艦許可をとるつもりだ」

「本気ですか?」

「ああ、向こうと連絡が取れて次第、それを司令に伝えるつもりだ。それで負傷者状態を確認したい」

「解りました。田島」

航海長は部下を呼んだ。

「ああ、忘れていた。救命筏は使用できるかの確認も頼む」

「はい。水原、阿久津、お前達も来い」

航海長がもう一人呼んだ。


『寧波』

『はやぶさ』でこの様なやり取りが行われている時、『寧波』政治委員の荘彰令は自身の立場を呪っていた。

(クソ、なんでこんな目に、ホントなら今頃上海で楽しんでいる筈だってのにこんな任務に駆り出されて、挙句に頭がイカレたガキの世話なんて)

不機嫌さを一切隠さずに自身の席に座っていた為にCICの空気はただでさえ最悪な物がされに悪くなっていた。

「政治委員、艦橋より報告。『温州』が指定された距離に入ります」

艦長が荘から出てくる空気をあえて読まずに荘に話し掛けた。

「よし、まず発光信号と通信で呼び掛けを、それで反応がなかったらスピーカーに切り替えてくれ」

「了解。信号、通信用意しろ」

彼らがコンタクトの用意を進めていた時、レーダー員と声がCICに響いた。

「『温州』より小型目標が分離!!ミサイルと思われる」

一同は一瞬、凍り付いたが艦長は速やかに怒鳴った。

「対空戦闘用意!!温州とのデータリンク解除!!対水上、準備しろ」

こう言った後に艦長は政治委員には聞こえるぐらいの声で呟いた。

「ここまでトチ狂っていたか……」

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