2.空き地から自宅へ①
ギギッと首を戻し、央世は、アードに視線を戻す。
先程までアードを包んでいた淡い光は、いつの間にか収まっていた。
まるで造り物かのような美貌を湛えたアードが、央世の膝の上に——ちょこんと座っている。向かい合いだと、サイズの対比が凄まじい。
アードは、ずいぶんと小柄のようだ。エルフ……だからだろうか。
呆気にとられていたであろう央世が、ひとつ息を吐いた。そして——真顔になった。
「……で、だ。アード、だったか? 何で裸なんだ? てか、何で空から降ってくるんだよ、その……エルフがさ」
央世は、両手を小柄な少女の豊かな胸に押し付けるという、傍から見れば……実に事案な格好だ。
だが、一応は不可抗力なのである。そもそも、片方は押し付けられただけだ。そして現状、央世には外すことが出来なかった。
彼は諦めたのか、覚悟を決めたのか。とにかく疑問を口にしたのだった。
「ふむ……。それが知りたいのじゃな?」
アードは、紫の瞳をクッと半月に細めると、ニマッと不敵に口角を上げた。
状況よりも、境遇を訊かれたことが嬉しかった……ということではないのだろう。そもそもこの状況は、この蠱惑的な笑顔を作るエルフの仕業だ。
「それもだけど! いつまでくっついてんの!」
それを知ってか知らずか。茉莉がまたしても、真っ赤な顔で吠えた。だが、少しへっぴり腰で、遠巻きである。アードが、首を向けた。
「……ふむ。おなごや。少し、黙るのじゃ」
茉莉を見据え、目を細めたアードが、スッと手を伸ばし——声を発した。
「░░░░░░……」
その声は、二人には聞こえたが、何を言っているかは聞き取れない。全く耳馴染みのない、不思議な言語——いや、音だった。
「……ほぇ?! なにす……」
一瞬、ビクッと身体を跳ねさせた茉莉が、ピタリと止まる。生気でも抜かれたのか、目は虚ろ。口も半開きで、せっかくの美少女が、台無しの表情だ。まるで——催眠術でも掛けられたようである。
「な、なんだそりゃ?!」
そんなアードと茉莉を交互に見やり、央世の目が真ん丸になる。その驚きは隠せない。手も、胸から離せない。
「何って……? あー……こちらの世界では……なんじゃろ? 魔法……とでも言うのかのぅ?」
アードは小首を傾げながら、あっけらかんとしている。人差し指を頬に当てる仕草が、わざとらしく、あざとい。
「……ま、魔法ぉ?!」
央世は、目を見開いたまま、声を裏返らせた。アードの仕草を見てはいるのだろうが、それどころではないらしい。当然だ。突然魔法だとか言われても、理解不能だろう。
「そうじゃ」
アードは頷いてすぐ、空を見上げた。
「そうか……大魔法の儀式……失敗したようじゃな……」
そして、消え入るように呟いた。
「服、着ていたはずじゃがのぅ。あぁー……儀式用の祭服ぅ……。立派なものじゃったのにぃ……」
央世に視線を戻したアードが、両手で顔を覆い、およよ……と、明らかな泣き真似を披露した。ちらりと指の隙間から、央世を上目遣いに覗き込む。
だが、央世は固まっている。
「はぁ~……。まぁ、よいのじゃ。とにかく、旦那様がいてくれて助かったのじゃ! 素晴らしいのじゃー……この生命力……♡」
熱い吐息混じりに顔を上げたアードは、蕩けた表情だった。




