9 即興イグザミネーション
初夏のある日。
私はアーケルからお誘いを受けていた。——宮廷の魔術試験場へ来て欲しいと。
手紙で「君は魔術に興味があるかな?」と問われたので素直にあると(口頭で)答えたら、そこへ来るよう(文字が浮かび上がって)連絡が来たのだ。今回は返答を受け付けるタイプの魔術の手紙だったようです。手紙が返事をして驚きました。
というか、電話みたいな連絡機とかないのかな。今まではあまり不便だと思わなかったのだけれど、アーケルと婚約してから私は手紙を待つのが少しもどかしく感じていた。
……それが彼の狙いだったのなら、なんという策士、という感じか。
別に、彼は欠かさず手紙をくれるし急用は魔術の手紙を飛ばすから、彼自体には不便はないのだろうけれど。
やっぱり、電話というかスマホの便利さを知っている私は「返事は今すぐ欲しいんだけどなぁ」と思ってしまう事がある。それに、時期がズレるから流行りの話とかもあんまり会話にできないというか。
それはともかく、私は彼からデートのお誘いを受けたのだ。魔術試験場だけど。
彼の事だから『何か知りたい事があるんだろうなぁ』という気持ちで臨みたいと思います。
×
宮廷の魔術実験場は、通常は魔術師達が新たな魔術を試すための場所らしい。だが「魔術試験場は借りた人が自由に使えるのだから、借りた人がどう使おうと問題はない」と彼は主張していた。
彼はきっと、私の持つ力……例えば転生者としての力などを探るつもりなのだろう。だけれど。私自身は自分がどのような力を持っているのかなんて、さっぱり分からない。何か『恐ろしい力の塊を持っている』ような感覚はあるのだけれど——きっと彼はそれの正体を探るつもりなのだ。
私自身も、何か分かるのならば、その力の正体を知りたいとは思っている。それが、世界を滅ぼすような力でなければ良いんだけど。
それも含めて私はアーケルの手紙に書かれた「特別な時間」の意味を考えて、どきどきしながら宮廷の魔術実験場に向かう。彼が何を考えているのか、そして何をするつもりなのか、好奇心と少しの不安を感じていた。
「アーケル、何か私について知りたい事でもあるの? ……それとも、私の中に世界を滅ぼす力があるとか?」
私が実験場に到着すると、アーケルは笑顔で迎えた。うっ、笑顔が眩しい……っ!
「さすがはレオーネ。察しが良いね。でも君の力はおそらく世界を滅ぼすような、そんな大げさなものではないよ。ただ、君の持つ力について少し試してみたいだけだ」
「私の……力?」
やっぱり、私には何かしら大きな力があるらしい。自覚していた通りだ。ただ、それをどう扱えば良いのかは分からなかったけれど。
「そう。君がどこまで自分の力を把握しているか、確認したいんだ。大丈夫。今日行うのは、学園で習うような、魔術の基礎だけだ」
そう言って、アーケルは「怖くないよ」と両腕を拡げる。彼の言い方なのか態度なのか、私はなんだか安心していた。
そういえば、アーケルは幼い頃から魔術に傾倒している天才魔術師なのだ。きっと、私が不安になるようなこともないはず。そんな気がした。
実験場は広く、中央に大きな魔術陣が描かれている。壁には書物や魔術の道具が整然と並べられ、天井からは魔力を感じる結晶が光を放っている。
「ここでは、君にいくつかの簡単な魔術を試してもらう。君が持つ素質を見るためだ。さ、こちらにおいで」
私は少し戸惑いながらも、アーケルの言葉に従った。彼に近付くと、アーケルは「失礼、触るよ」と短く断り、私の背に手を回した。背中を支えられているようだ。思いの外大きい手に、なぜか余計に緊張を感じる。
「まずは、君の手のひらから光を出してみて。心を静めて、自然に流れる魔力を感じてごらん」
彼は最初に、私に基礎的な光の魔術を教えることにしたようだ。でも光の魔術……は学園では習わなかったような。
私は目を閉じ、深呼吸をした。私はアーケルの指示に従い、心の中で光をイメージする。そうすると、不思議と自然に私の手のひらから小さな光が浮かび上がった。
「わ、光が……!」
「素晴らしい、レオーネ。君には確かに聖属性の魔力がある。それを使う才能もね」
アーケルは私の成功に満足そうに頷いた。
「聖……属性?」
「そうだとも。学園で習うものは風、火、水、土の4属性の基礎と応用だけだ。君が光を出した時……それが火由来のものだったならばまだ、普通の人だと言えたのだけれどね」
その目線はどこか冷ややかだった。だけどそれは、私に対する視線ではない気がした。
「では次。ここに種の入った鉢があるだろう? これを発芽させて欲しい」
「発芽?」
次に、彼は私に少し難易度の高い魔術——植物の育成を行うよう指示する。私は初め戸惑ったが、アーケルの指導の下、私は種を自分の意志で発芽させることができた。
「ふむ。やはり、育成もできるようだね」
「これは……本当に私がやったの?」
「ああ、君自身の力だ。君はただそれを自覚していなかっただけ」
アーケルはその後、私にいくつかの魔術を試させ、私の能力がどこまで及ぶかを確かめた。私は驚くべきことにほとんどの魔術に素早く適応し、成功させた。
「君はただの人ではなく、非常に強力な魔力を持つ存在だ。それに君の魂には、……聖女の素質が眠っている」
彼の言葉に、私は混乱している。
「聖女……? 私が?」
「それはまだ覚醒していない可能性もあるが、君にはその素質がある。そしてそれがどんな影響を宮廷に与えるか、僕達は共に知っておく必要がある」
アーケルは私の手を取って、真剣な目で見つめた。
「君が自分の力を知ることは、君自身を守るためにも重要だ。そして僕も君を守るために、より深く理解する必要がある」
私とアーケルの二人は魔術実験場で、私の力について探る時間を過ごす。アーケルは私に魔術の基礎から応用までを丁寧に教え、私の魔力の源泉や運用方法について語ってくれた。
「これからは、君が自分の力に自信を持ち、正しく使うことが大切だ。そして、僕はそのサポートをする」
私はアーケルの言葉に感謝しながらも、自分が持つ力とそれがもたらす責任に戸惑っていた。だけれどアーケルが傍にいるという安心感からか、私は少しずつ自分の力を理解し始めたように思える。
「アーケル、ありがとうございます。私、もっと頑張ります。これからも教えてくださいね」
「もちろん。僕たちは一緒に、この力をどう使うかを探っていこう」
その日の魔術実験場での時間は、私にとって自分自身について深く考えるきっかけとなった。
そしてアーケルとの絆をさらに強める時間となった、気がする。私達は、この新たな発見がどんな未来を切り開くのかを共に楽しみにしながら実験場を後にした。
「——ああ、無論。防音やあらゆる防除に関連する魔術をすでに展開済みだったから、君の力が他人に気付かれる事はない。安心したまえ」
「それ、全部が終わった後に言われても……って感じなんですが。……でも、ありがとうございます。安心しました」
「君が『転生者』であることを隠しているのなら、君の持つ力についても隠しておく必要があるだろう、と考えたまでだ。……君が公開しても良いと感じた時には、僕は君の安全性を保証する役割くらいは買って出る事ができるからね。それまでは、君の秘密については口外しないと誓うよ。……契約を結んだって良い」
「分かりました。私も、アーケルの言葉を信じます。私の安全性の保証、ちゃんとしてくださいね」




