鈴木の情報
施設の広場で鈴木を捕らえ、起きるのを待っていた三人。鈴木がどれだけ有益な情報を持っているのか、特異について知っていることを洗いざらい吐かせようと話し合っていた時、鈴木が目を覚ました。
「目ぇ、覚めたか。早速だが、あんた。なんで俺らを狙うんだ?」
金剛は、落ち着きながらもその声には憤りを感じられる。
「理由はこちらも知らないよ。」
鈴木は、思いのほかあっさりと口を割った。それどころか、自主的に施設の事を話し始めた。
「僕らも結局は下っ端、詳しい作戦の内容なんて知らされずに送り出されるんだよ。上の命令は絶対だし、逆らうわけにもいかないんだよ。」
聞けば何でも答えてくれそうな雰囲気を感じ、金剛は質問をする。
「なあ、施設の事どれだけ知ってる。」
「そこまで深くは知らないけど、知ってることなら全部話すよ。質問はその後でお願い。」
そう言って鈴木は、次々と施設関連の情報を話した。
鈴木が目を覚ました場所は、謎の小部屋だった。地に足着けているようだが、宙に浮いてるような気もする奇妙な感覚で、ふと足元に視線を送ると、無数の苔が生えていた。
「うわっ!なんだこれ。」
「目が覚めたか、F-8。お前の足元の苔は、お前自身が出したものだ。」
突然話し掛けてきた一人の女性は、鈴木の体質についての詳細を教えた。
「まず、今後どんなことを言われても、お前からの文句や質問は一切受け付けていない。」
「はい…。」
「いいか、お前は鈴木だ。足から苔を生やすことができる。その代わりに、自身の体の水分を代償にするため、あまり酷使するな。今は安定して水分を供給しているが、いずれお前は外に出て戦ってもらう。早い内に慣れておけ。」
そう言って女性は背を向ける。直後、鈴木の立っていた床が開き、苔を貫いて落下する。
「アアアアァァァ!!」
思わず絶叫してしまう。落下している穴は、底が見えない程の高さがあり、絶叫が反響している。
「足から苔っ!…。」
混乱していた頭に突如として、先ほど女性から知らされた体質の事を思い出し、大慌てで苔を生やす。
「た、助かったぁ~…。」
大量の苔を壁めがけて生やし、分厚く柔らかい床を作った。安心した鈴木は、その場に座り込む。
「50m。まあいい方だろう。」
よく見ると壁の方にはいくつも小窓があり、研究員らしき人が鈴木を見ていた。
「今、君の元に管を下ろした。早めに水分を補給しなさい。」
鈴木の頭上から一本の管が下りてきたため、取ろうとしたら、
「なんだこれ⁉」手が今にも干からびそうな状態だった。すると、管から水が流れ出し、急いで管を咥えて水を飲み込む。
「っああ。…妙な感じだ。喉が渇いていたわけじゃないのに、体から水分が無くなっていたなんて…。」
不思議に思っている様子の鈴木を置いて、研究員たちは話し掛ける。
「十分に飲んだらその管を引っ張れ。そしたら君を引き上げる。くれぐれも引き上げの最中に管を離さないように。」
「引っ張る?」
体の状態も良くなり、気分も落ち着いた鈴木は「ある程度飲んだしもういいか」と思い、管を引っ張ると、勢いよく引き上げられ、ほんの数秒で落ちる前の小部屋に到着した。
「あああ…怖かったぁ…。」
「お疲れ様。初めての割にはいい結果だね。」
疲弊している鈴木の元に現れたのは、穏やかな表情をした一人の女性で、最初に見た人とは別人のようだった。
「あの、ずっと気になってたんですけど、」
「はい、何でしょう。」
「僕、鈴木じゃなくて●●なんですけど…。」
「知ってますよ。でもあなたは鈴木さんです。」
疑問に思っていたことが意味不明な理由で払い除けられ、また質問する。
「どうゆう事ですか?というか、何で僕がここにいるのかもわからないんですが、説明してください。」
「いいですよ。まず、何故あなたがここにいるのかの説明から。覚えてないでしょうけど、あなたはここの出身なんですよ。」
「は?」
困惑する鈴木を無視して女性は続ける。
「当時のあなたには適性がなく、そのまま里親に出された。そして、成長して大人になった今、もう一度ここに連れてきて、実験体になってもらってます。あなただけじゃなく、ここに収容されている全員が同じ境遇なんですよ。」
女性は終始笑顔で話しており、その様子に鈴木は恐怖した。
「次に、何であなたが鈴木さんなのかですが、あれ見えますか?」
女性が指した方向を見ると、巨大な岩のような物があり、そこから壁に向かって蔦が伸びている。
「あの岩みたいなのが鈴木0号です。私たちは第二の0号を求めて研究してるんです。」
「…。」
あまりに信用し難い現実離れした光景に、鈴木は言葉が出なかった。
「おい、下手に喋りすぎるなよ。」
そこに現れたのは、最初に見た女性。その女性が一枚のカードを壁に当てると、鈴木のいる小部屋の正面が開く。
「ついて来い、お前には訓練をしてもらう。」
「訓練⁉少しは休ませてくれませんか?」
「…あ?」
「何でもないです…。」
鋭い目つきで睨まれ、疲れを主張しても意味がないことを悟った。
部屋を出てからずっと真っ暗な廊下を歩かされ、僅かに見える女性の後を追って行くと、部屋に到着した。扉が開くと、何もない広い空間がそこにあった。
「今からこの部屋で訓練をしてもらう。内容は、ただ目の前に現れた障害を破壊し、攻撃を防ぐだけ。ただし、所定の位置から動くこと、手を使うことを禁ずる。」
そう言った女性は足早に部屋を出ていった。扉が閉まった瞬間、床に円が表示され、そこに立つと、ブザーが鳴った。直後、床や壁、天井からも引っ切り無しに物が飛んでくる。
破壊と防御に専念し続けていると、視界が揺らぎ始め、気が付いた時には、床が目の前にあった。
「三分二十八秒。今の君の活動限界だ。」
どこからか男性の声が聞こえてきた。それを聞いて起き上がろうと床に手を付けて気付いた。
「干からびてない。」
「お前が気絶している間に施してやったに決まっているだろう。」
あの女性の声が頭に響く。
「食事の時間だ。そこで待っていろ。」
床に表示されていた円が開き、穴を滑って行く。程なくして食堂に着き、緩衝材の上に落ちた。
机には既に料理が置かれており、周りに数十名といるが、皆黙々と食事をしている。
「ねえ君、新しい鈴木さん?」
「え?まあ、うん。」
声を掛けてきたのは、髪の長い金髪の女性だった。
「やっぱり!」
「何で分かったんですか?」
「足に苔着いてるよ。」
確認すると、確かに着いていた。滑ってくる途中、咄嗟に防御しようと試みた証拠が残っていた。
「あたし、佐藤。手から熱が出せるの。」
「鈴木です…。足から苔が生えます。」
「初めてだと困惑するよね。あたしがこの施設のあれこれ教えてあげる。」
親切か、恩を売りたいのか定かではないが、彼女の笑顔は、鈴木が起きてから見たどの光景よりも安心できた。しかし、それでも見てきた物が物のため、疑念を抱いてしまう。
「ありがたいですが、どうしてですか?あなたにメリット無いでしょう?」
「うん、無いよ。でも、新人は正しく教育するのが先輩の務めでしょうよ。」
胸を張って、誇らしげに先輩風を吹かせている佐藤という女性に、鈴木は会社の先輩との違いを大いに感じていた。
施設の広さ
基本的に地下へと伸びているため、横はそこまで広くない。B1は管理階層となっており、モニタールーム、食料庫、職員の休憩室等があり、佐藤と鈴木の収容はB2で行われている。
全体的に廊下は暗いが、実は遮光ガラスが使われているため、近づいて凝視すれば部屋の中を覗くことができなくはない。
ちなみに職員の年齢は、若くても30代後半。