金髪佐藤の情報
度重なる困惑と訓練で鈴木の腹が鳴る。
「まずは、食事を済ませようか。」
そう言って佐藤と名乗る女性は、鈴木の手を引き、席に着く。そうして、食事をしながら知っている限りの情報を話し始めた。
「あたしたちが元々この施設の生まれだっていうのはもう聞いた?」
「はい。正直まだ納得はできてませんが、もう諦めました。」
「それがいい。あたしもそうしたもの。」
妙に落ち着いた様子の佐藤に、鈴木は思わず質問する。
「佐藤さんはこの施設に連れてこられてどのくらいですか?」
「大体一年半かな。もうすぐ外に出される。」
「外に出されたらどうなるんですか?」
「あたしたちが成れなかった適性者と戦闘。」
「戦闘⁉何故⁉」
「なんか、能力向上のためとか言ってたよ。」
「人と戦って能力向上…。」
「それが一番確実なんだってさ。趣味悪いよねぇ。」
佐藤の口調は、終始変わらず、不気味なくらいに落ち着いていた。鈴木は、途中から食事の手が止まっているのに対し、佐藤は次々と目の前の食べ物を口へと運ぶ。
「…何で僕たちが…。この施設は能力者を作って何がしたいんだ…。」
ついには、鈴木の目から涙が落ちた。止めどなく流れる大粒の涙を佐藤は受け止め、自身の手に落ちる。すると、涙が蒸発する音が小さく響く。
「あたしたちも、何で能力者を作っているのかは知らない。でも、少なくともあたしは、自分の命を使って人の役に立てるならそうしたい。たとえ殺されるとわかってても、それで誰かが成長してくれるならそれが嬉しい。」
「佐藤さん…。」
底なしに優しい佐藤の発言を聴いた鈴木は、席を立ち上がり決意する。
「この施設の真相を暴きましょう!あなたのような優しい方が、人と戦わなければならない理由は何なのか、一緒に突き止めましょう!」
「気持ちは嬉しいけど、それは難しいんじゃないかな?」
「何故ですか!どうしてそんなことが言えるんですか!」
鈴木の語尾が強まり、佐藤に詰め寄ってしまう。
「あたしもね、同じことを考えた事あるの。」
「え?」
鈴木の動きが止まる。
「あたしも気になって何度も職員の人に訊いた。でも、教えてくれたのはさっき言ったことだけ。詳しいことは何も話してもらえなかった。脱走も考えたけど、この施設、あちこち暗くて全然周りが見えないの。」
気持ちが落ち着いたのか、鈴木が着席する。そして、佐藤は続ける。
「だからあたしは、色々諦めて誰かの成長のためだって考えるようにしたの。」
「佐藤さん…。」
「だから、鈴木くんの気持ちは嬉しいけど、今はあたしたち自身が成長する時間なんだよ。」
そう言った佐藤の顔は寂しげで、諦めたことが一目で伺える。
話を変えたくなったのか、佐藤は話題を振る。
「…鈴木くんは、ここに来る前は何してたの?」
「あ…会社員です。佐藤さんは?」
「あたしはフリーター。就活に失敗しちゃってバイト三昧。」
「そうなんですね…。そういえば、僕たちがいなくなった後の職場ってどうなるんでしょう⁉」
「確かに!あたしここに連れてこられたことに必死で全然気が付かなかった!」
「この後に職員さんに訊いて答えてくれるでしょうか…。」
「試してみよっか。」
「はい。」
明るい口調を取り戻した佐藤に呼応するように鈴木も自然と口角が上がるようになっていた。
食事を済ませたらしばらくは自由時間のため、二人は食堂で話し続けていた。
「この施設は、佐藤と鈴木以外にも第二の0号を探していると思いますか?」
「あるかもしれないね。例えば、佐々木とか。」
「ありそう…というか、職員さんたち、何て名前なんでしょう。名前を呼んでいるところを見たことないんですが。」
「あたしもない。あの人たち名前ないのかな?」
「こんな施設が存在してるぐらいですし、その可能性もあるんですよねぇ。」
「あのさ、」
「なんですか?」
「鈴木くんって何歳?」
「突然ですね。」
「いいじゃん教えてよ。」
「29です。」
「うっそ!敬語だから年下かと思ってた。」
「僕佐藤さんより年上なんですか?」
「あたし31。」
「年下で合ってるじゃないですか。」
「合ってるよ。あたしの方が年下かと思った?」
「そりゃ思いましたよ。あの口ぶりなんですから。」
「やった。引っかかってくれた~。」
和やかな時間を引き剝がすように、食堂にアナウンスが流れてきた。
〈自由時間終了。速やかに部屋に戻るように。〉
「それじゃあ、またね。」
「はい。また今度。」
食堂に残っていた者が次々と各自の部屋に戻るため、食堂を後にしようとする中、鈴木は戸惑っていた。
「あれ、僕どこに行けば…。」
「鈴木はこっちだ。」
「あ、ありがとうございます。」
その場にいたおそらく同じ鈴木であろう人物が部屋の場所を教えてくれた。
「その後は、二年間みっちりと訓練して、あんたら四人の事知らされて、本来別の適性者のとこに行く予定だったのが、急遽変更になって、今あんたらに拘束されている状態だ。」
話し終わった鈴木は、「いつでも質問していいぞ」と言わんばかりの態度を示した。
真っ先に質問したのは金剛だった。
「なあ、その佐藤って人はどうなったんだ?」
「死んだとだけ知らされた。」
呆気なく人の死を話す鈴木に戸惑いながら、次は瓜生が訊いた。
「あなたたちの特異には弱点とかないの?」
「特異?ああ、あるよ。僕ら鈴木は、体の水分を使って足から苔を出す。だから、拘束するなら足をどうにかしないと逃げられちゃうよ?」
直後、焦った瓜生が鈴木の両足の底を合わせ、金のワイヤーで固定した。
「そうそうそんな感じ。それで、佐藤は体温を使って手から熱を出す。だから、熱を出してる間に体にダメージが入ると致命的なんだよ。」
あまりに素直に話しすぎる鈴木に疑問を持った水面が質問する。
「鈴木さんは何でそんなに情報をくれるんですか?」
「僕も施設に不満を持ってるからね。それに、やっと●●さんに会えそうなんだ。抵抗する意味がない。施設側は常に水分を供給してくるし、適性者との戦闘ぐらいでしか僕ら”名無し”には死の自由がない。」
鈴木が妙に痩せ細っていた理由を察した四人の中で、一際怒りを露わにした金剛がまた質問する。
「俺らの事は監視しておきながら、あんたらは監視がないのか?」
「ああ、施設を出られてから全くない。何せ僕らの能力は、訓練し始めた時から底が知れているからね。でも、居場所は常に見られている。だから下手に自殺もできないんだよね。」
金剛は拳を強く握りしめて、歯を食いしばって、眉間にしわを寄せていた。
「瓜生。刃物くれないか。なるべく鋭利で切れ味の良いやつ。」
「金剛くん…。まさか…。」
「ああそうだ…。こいつを殺す…。」
そう言って瓜生は、黙って金の包丁を作った。それは非常に薄く、掠っただけでも大怪我をしそうなくらい鋭い刃をしていた。
瓜生と水面は金剛と鈴木に背を向け、きつく目を瞑り、事が終わるのを待った。
金剛は、包丁を鈴木の首めがけて思いきり横に振った。初めて人の首を刎ねたというのに、そこに一切の音がなかった。ただ、首が転げ落ちた際の鈍い音と金剛の手から落ちた包丁の金属音のみが聞こえた。
金剛には一滴たりとも返り血が付かず、人を殺めたという罪悪感のみが残っていた。しかし、鈴木の顔は眠っているように穏やかな表情だった。金剛がそれに気付くことはない。
佐藤と鈴木
被験体の数は同じだが、壊死することなく目覚めることができる数には違いがある。
佐藤の場合、かつては全体の約三割程度が目覚めていたが、現在では約二割程度まで減少。
鈴木の場合、かつては全体の約一割程度しか目覚めなかったが、現在では一割五分程度まで上昇。
金髪佐藤は特異を酷使した結果、低体温症となり、手が爛れた状態で死亡した。




