最終話「薬屋の看板娘」
山頂までは岩戸様のおかげであっという間に到着した。
けれど肝心の茎が金色に光るヤマトトウキが見つからない。
事前に薬園に行ってヤマトトウキの形は見てきたけど、それらしきものが見当たらない。
「嬢ちゃん、そっちはどうだ?」
「全然ダメです……見当たりません……」
必死に探すけど、見つからない。
やばい、ここに私がいられるのも下山を含めて考えると残り5分少々しかない。
あれ、あそこなんか光るものがある……。
私は木の根元のほうへと歩みを進めた。
近づくと確かにそれはヤマトトウキだった。しかも茎が金色に光っている。
「あ!あった!!」
しかし、木の根元の奥のほうにあり、私の手の長さと細さでは取れない。
うーんと手を伸ばしてみるもやっぱり届かない。
「あと少しなのに……残り3分しかない……」
すると、どこからともなく声が聞こえた。
「あれ、芽衣さんではありませんか?」
声の主を探すも見当たらない。
あれ……この経験どこかで……。
と思いながら、下をむくとそこにはネズミの小太郎様いた。
「小太郎様!!」
「やはり、芽衣さんでしたか。このような浄化山で何をされているのですか?」
私は早口で事情を説明する。
「なるほど、ヤマトトウキが取れないと。お任せくださいませ、私がとってきますので」
そういうと小太郎様は木の根の間をいとも簡単に潜り抜け、ヤマトトウキの場所まで到達した。
少々小さな身体ゆえに手こずっているが、見事ヤマトトウキを抜き、口に加えると来た木の根の間を戻ってきた。
「芽衣さん、こちらで大丈夫ですか?」
「ありがとうございます、小太郎様!!助かりました!!」
私は地面すれすれのほぼ土下座スタイルでお礼をいうと、小太郎様に別れを告げて下山した。
帰り道は確かに息が苦しくなり、時間がぎりぎりだったことがわかった。
「も、もどりました……」
「芽衣さん!!」
翡翠さんと雫様、いまりが出迎えてくれた。
「岩戸様、ありがとうございました」
「いや、嬢ちゃんのためならいつでも力を貸すよ、いつでも呼んでくれ」
そういって、岩戸様は去って行かれた。
「翡翠さん、これで間違いないでしょうか」
私は茎が金色に光るヤマトトウキを渡した。
制服に泥がついていて、たぶん帰ったらお母さんに叱られるだろうなとちょっと思った。
「はい、間違いありません。こちらがそのヤマトトウキです。薬を調合してまいりますので、少々お待ちください」
そういって奥の土間へと向かう翡翠さん。
すると、私の頬に何か布が充てられた。
「こんなに泥だらけになって……ありがとう。感謝しますよ」
ハンカチで頬を拭いてくれる雫様。
お姉さんは自分にはいないけれど、いたらこんな感じなのかなってちょっと思ったりした。
やがて、翡翠さんが薬を持って戻ってきた。
「雫様、こちらが心を癒す薬です」
雫様は丁寧に両手で受け取ると、会釈をしてお礼をいう。
「ありがとうございます。これで友人もよくなるといいのですが……」
「またもし何かお困りごとがあればいつでもいらしてください」
「ええ、そうさせてもらうわ。芽衣さん、本当にありがとう」
「いいえ、友人の方、よくなるといいですね」
「ええ、ありがとう。その気持ちも含めて友人に渡すわ」
こうして、雫様は帰っていかれた。
すると、翡翠さんが口を開く。
「芽衣さん、よく頑張りましたね」
目線を合わせるように少し屈むと、にこりと微笑んだ。
「ありがとうございます!」
このアルバイトは大変なことも多い。
神様は多種多様だし、不思議な薬も出てくる。
でも楽しい。たくさんの人と巡り合えて、役に立って、ありがとうって言われて……。
嬉しい。私はこの仕事を手伝えることを誇りに思う。
如月芽衣、16歳。
今日も元気に薬屋の看板娘やっております。
「いらっしゃいませ!!」
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