第14話:黒と白
広間へ移動すると、ヴィアベルの婆さんや他の乗組員、そしてアタシ達が捕まえた敵の大将がいた。
「あんたらも来たかい。部屋に居てもいいんだよ?」
「今更かよ。もう関わっちまったんだ。この件には最後まで付き合うぜ」
ヴォーゲが敵の大将に尋ねる。
「何故私達を狙った?」
「……私達の、名誉のためだ」
ヴィアベルの婆さんが鼻で笑う。
「ハッ。あんた、まだあの時の事言ってんのかい?」
「まだ、だと? あの時の貴方の判断でどれだけ不名誉を被った人間がいたか……」
「……馬鹿馬鹿しいねぇ。命あっての物種だろ?」
どうやらこの二人は昔一緒に戦った事があるらしいな。
「オイ。アタシらにも分かる様に話してくれねェか」
「こいつはバフラム・ダハーカって言ってね。昔水軍に居た時に一緒に戦った仲なんだよ」
「だろうな。そんな気がしてた」
「おや、そうかい?」
バフラムが口を開く。
「そうですね……貴方は戦友だった。そして師でもあった。あの時の貴方は本当に恐ろしい強さだった……」
「それだけの実力が必要だったのさ。じゃないと、守るものも守れない」
「だからこそ……私には納得出来ないのです。何故貴方があの時、敵に背を向けて逃げる事を選んだのか……」
そういやァ、この婆さん……この戦いが起こった時も他の奴らに逃げる様に言ってたな。
まァ……何となく想像はつくが……。
「……それが分からない様なら、いつまで経っても成長しないよバフラム」
「見くびらないで頂きたい。分かってはいるのです。ですが……納得が出来ないのです。貴方があの選択をした事で多くの兵士達が生き残れた。だが、その反面、彼らは臆病者として人々から蔑まれた」
ヴィアベルの婆さんが目を閉じる。
「そうだろうね……。そうなるだろうさ」
「分かっていたのなら何故!?」
「あたしにはね……あいつらを無意味に死なせる選択は出来なかった。あそこで逃げれば確実に負ける事も分かってた。でもそれ以上に……あいつらはあたしの部下であり、家族なんだ」
アタシにはこの人が、ヴィアベルの婆さんがシップジャーニーの人間から好かれている理由がここで分かった。
この人は自分の部下達の事を心から大切に思ってるんだ。可能な限り、生きていて欲しいと思ってるんだ。
『母なる海』とはよく言うが、この人はシップジャーニーの人間にとって母なんだな。
バフラムが口を開く。
「やはり分からない……師匠……貴方とは分かり合えない……」
「……そうかい。別にいいさ。……おいヴォーゲ。解放してやりな」
ヴォーゲは酷く驚いている様だった。
「母さん!? こいつは私達に攻撃を仕掛けてきたのですよ!? ここで解放するなど……」
「いいからやりな。……こいつは船での戦い方は知っていても、自分の体を使って戦うやり方は知らないんだ」
それを聞いたヴォーゲは渋々といった表情でバフラムの縄を解いた。
「……後悔する事になりますよ。師匠」
「悪いがね、あたしは過去は振り返らない質なんだ。今を生きるので精一杯だよ」
バフラムはよろよろと立ち上がると乗組員達に連れられ、外に出て行った。
重苦しい雰囲気が漂う中、ヴィアベルの婆さんがこちらに笑顔を向ける。
「悪かったねぇ。レーメイもオーレリアもきつかっただろ?」
「い、いえいえ! 少しはお役に立てたのなら幸いです!」
こいつ、ホントに礼儀正しいな。誰が仕込んだのか知らねェが、相当優秀な奴だろうな。
オーレリアはアタシにおぶられたまま、弱々しく返事をする。
「い、え……これしきの事は……何とも、ありま、せん」
「オイ無理すんなよ。……悪いな婆さん。相当消耗してるみたいでよ」
「構やしないさ。むしろ巻き込んじまったのはあたしの責任だ。何か礼をしたいんだがね」
「じゃあこいつらが言ってる『黎明』とかいう魔術道具を見つける手伝いを続けてくれ。アタシもさっさと終わらせたいんだ」
ヴィアベルの婆さんは力強く笑う。
「ハハハ!! そう言うと思ったよ! あんたみたいな子は人に借りを作るのがあんまり好きじゃないんだろう?」
「そうだな。メンドくせェしな」
「分かったよ。このまま手伝えばいいんだろ? 見つけ次第教えてやるよ」
「おう。頼んだぜ」
軽く握手を交わしたアタシは自分達の部屋へと戻る事にした。
その途中に甲板を通ると、元の船に戻され、遠くへと去っていくバフラム達の船が見えた。
マストを燃やされた船や動けなくなっている船は他の船に牽引されていた。
多分だが、あいつとはまた戦う事になる。そんな予感がする。
アタシ達が部屋に戻ってしばらくすると、船は動き出した。
窓から外を見ると、ヴィアベルの婆さんの指示で逃げていた他の船も次々と戻ってきていた。
いったい今までどこに行っていたのか検討も付かないが、これだけ早く情報が回ってる辺りは流石と言うしかない。
アタシはオーレリアをベッドに寝かせ、その横に座った。
「オイ大丈夫かよ。お前ェらしくもねェな」
「申し訳、ございません……復旧には、もうしばらく……掛かりそう、です」
「そーかよ。じゃあ治るまでゆっくり寝てな」
オーレリアと話し終えると、レーメイが口を開いた。
「あの人、どうしてヴィアベルさんのやった事が納得出来ないんでしょうか?」
「あ? お前ェさっきの話聞いてただろ?」
「聞いてましたけど……やっぱり私には分かりませんよ。少しでも沢山の人の命を救うのがそんなにおかしな事でしょうか?」
……こいつはまだそこまで社会というものを経験してないから、そういう事が言えるんだろうな。
こいつの言う事も最もだ。救える人間は一人でも多い方がいい。そうに決まってる。
でも、それで納得しない奴らがいるんだよなァ……自分らはぬくぬくと守られてるだけなのに、一丁前に文句を言う奴が……。
まァ、そいつらの言い分も分からない訳じゃねェンだけどな……。
「おかしくはねェさ。でもな、バフラムの言う事も、分からなくはねェ」
「どうしてですか!? おかしくないなら、どうして!」
「世の中はな、お前ェが思ってるよりもずっと複雑なんだよ。黒か白かじゃ決められねェ……グレーな所もあるんだよ」
「ど、どういう事ですか……?」
レーメイは混乱している様だった。
説明してやるのも一つの道かもしれねェが、ここは言わないでおこう。
こう言うのは誰かから教えてもらうよりも、自分の目で見て知った方がいい。
……それから答えを出しゃあいい。
「自分で考えな」
アタシは自分のベッドに横になり、レーメイに背を向ける。
「じ、自分でって……!」
「お前ェの意見も間違いじゃねェから安心しろ。だからといって、正しいかは分かんねェけどな……」
アタシがそう言うと、レーメイはもうその事について聞いてこなくなった。
正直な話、アタシにも上手く説明出来る自信が無い。
アタシだって、他から見れば、何でもかんでも暴力で解決しようとするヤバイ女だ。
でも……それでもアタシは自分の正しいと思えることをしたい……。
アタシは隣で目を開けたまま横になっているオーレリアを視界に納めながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。




