第13話:狙われた提督
部屋へ戻ったアタシはベッドへと寝そべった。
あれだけの事があった後という事もあって、二人とは話す余裕が無かった。
そんな雰囲気を察してか、オーレリアもレーメイも空気を読んで黙ってしまっている。
いつもは何かとメンドクサイ奴らだが、いざ喋らなくなると悲しいものがある。
「悪い。ちょっと外の空気吸ってくる」
どうにも気分が落ち着かないアタシは一言告げた後、部屋を出て甲板に向かった。
この船は今までアタシが見た船の中で一番デカイと言ってもいい。それにかなり手の込んだ作りだし、頑丈そうだ。
アタシは軽く甲板を踏みつける。
甲板は小さく音を立てたものの、大した事は無いといった風だった。まァ、アタシとこの船とじゃ大きさが違いすぎるし当然か。
そんな事を思いながら遠くを眺めていると、10ほどからなる船団が見えた。
こちらとは違って、鉄などを使っている様に見える。
何となく眺めていたアタシだったが、突然こちらに向かってくる光が見えたかと思うと船が大きく揺れた。
あまりに突然の事だったため反応が遅れ、バランスを崩して倒れてしまった。
今のはいったい何だ……!?
アタシは急いで下へ降り、部屋へと戻った。
「キセガワさん!」
アタシが部屋に戻るなり、レーメイが声を上げる。
「今のって……」
「撃たれたみてェだな。ヴィアベルの婆さんはどうするつもりだ……?」
アタシ達が話していると、部屋にペスカが飛び込んできた。相当慌てている様子だ。
「皆! 何とも無い!?」
「ああ。問題ねェ。どこが撃ってきたんだ?」
「多分だけど、提督の古い馴染みだと思う……」
どういう事だ? 確かあの婆さんは昔はどこかの水軍の大将だったって話しだったが、その馴染みから攻撃されてるって事か?
「おかしくねェか? 古い馴染みを攻撃するなんてよ」
「私も理由は分かんないけど、とにかく何とかしないと!」
「ああ。婆さんは何て言ってる?」
「とにかく、逃げる事を優先しろって……」
あの婆さんの性格を考えると、他の人間を逃がして自分の乗ってる船だけで戦う気だな。
面白ェじゃねェか。折角だし付き合ってやるか。
「分かった。この二人の事任せるぞ」
アタシはペスカに二人を任せ様としたものの、二人は目で訴えかけてきた。どうやら、意地でも言う事聞く気はないらしい。
レーメイが口を開く。
「私も戦います! 魔法を使った方が戦いやすい筈です」
オーレリアはそれに続く。
「私はどこまでもお嬢様に付き従います」
確かに、接近戦になれば負けるつもりはねェが、遠距離戦ならレーメイはいた方がいいな。
「足手まといにはなるなよ。よしペスカ! 婆さんのとこに連れてけ!」
「うん! こっち!」
アタシ達はこの状況から脱するために、ペスカの後に付いていった。
案内された先には大きな部屋があり、そこにはヴィアベルの婆さんとこの船の一部の乗組員と思われる人間が揃っていた。
「婆さん!」
「来たかい。悪いねぇ巻き込んじまって」
「構わねェよ。それより指示を頼む。海での戦いならあんたの方が慣れてんだろ?」
ヴィアベルの婆さんはニヤリと笑うと顎を触る。
「やっぱり若い頃のあたしにそっくりだよ」
「作戦は簡単さ。あの船団に指示を出している船がある筈だ。それを集中して叩く」
シンプルで分かりやすい作戦だ。だが、どうやって見分けるって言うんだ?
「作戦は分かったが、どうやってそれを見分ければいい?」
相変わらずヴィアベルの婆さんは笑っている。
「簡単さ。一番後ろに引っ込んでる奴だよ」
オーレリアが口を挟む。
「何故そう言い切れるのですか? 例外もあり得るのでは?」
「間違いないよ。あいつはいっつも後ろで指示を出して自分は前に出ない腰抜けだからねぇ」
ペスカが言ってた事は当たりっぽいな。相手はどうも知り合いみたいだ。
「婆さん。知ってる相手なんだな」
「そりゃあそうさ。あいつの戦い方は嫌と言うほど見てきたからねぇ」
船が大きく揺れる。どうやらまた当たったらしい。
「さて、じゃあ始めようか! 皆、頼んだよ!」
ヴィアベルの婆さんの発破と共に乗組員達が声を上げる。
さァ、アタシも行くか。
甲板に上がったアタシ達は貸してもらった望遠鏡を使い、敵の船団を確認していた。
実際に婆さんが言う通り、一隻だけ不自然に他の船に守られるように移動していた。
「敵船団、こちらに向けて接近中! 総員! 攻撃態勢!」
ヴォーゲが叫ぶ。流石はあの婆さんの息子だ。船員達は指示を聞き、一斉に動いた。
アタシは望遠鏡をレーメイに渡し、肩に手を置く。
「集中しろ。後ろの船には当てるなよ?」
「……はい!」
レーメイはやや緊張している様で手が震えていた。まァ無理も無い。もし船を沈めちまったら、間違いなく死者が出るしな。
だが、今はこいつを信じるしかない。
アタシは震えているレーメイの手を握る。
「いいか。マストを狙うんだ。あれを燃やして行動不能にしちまえばいい」
「マスト……マスト……」
「そうマストだ」
レーメイの額には汗が滲んでいる。出来ればこいつに危険な事はやらせたくないが、状況が状況だ。やらなきゃやられる。
目を閉じ、深呼吸したレーメイは目を見開き、口を開く。
「盟約を結びし火の精よ。我が前に立ちはだかる障害を取り除くべく、その業火を授けたまえ……」
その言葉を発した直後、レーメイの右手の平に炎が現れる。
流石に手を繋いだままじゃ危ないか。少し離れておこう。
「我が道に立ちはだかる者、いざ焼き払わん!!」
レーメイが薙ぐ様に手を動かすと、炎は龍の様なうねりを見せながら船団へと飛んでいった。
炎は見事にマストに着弾し、動きを止める事に成功した。
しかし、まだ他の船は残っている。
「てェーーーーっ!!」
ヴォーゲが大声を上げたかと思うと、アタシ達の乗っている船の横から砲弾が飛んでいった。
今まで気付かなかったな。この船大砲も付いてるのか。
発射された弾は数発着弾したものの、それで動きを止めるほどには至らなかった。
「オイレーメイ! 次頼む!」
「ちょ、ちょっと待ってください。あんなに大きいの撃ったの初めてで、ちょっと、魔力が……少し休憩しないと……」
オイオイオイオイ聞いてねェぞ。こいつ連発出来ねェのかよ……。
まずいな……何とかして接近戦に持ち込めればいいんだが……。
アタシが悩んでいると、オーレリアが口を開く。
「キセガワ様。お嬢様が復活するまでの間、私がやりましょう」
「オイ、お前ェはそういうのは出来ねェンだろ?」
「出来ないと言った事は一度もありません。今まで使っていなかっただけです」
そう言うと、オーレリアは右腕を前にピンと伸ばし、その先に敵船団を捉えた。
こいつ、何する気だ……?
「警戒度、高。優先して排除します」
突如、オーレリアの腕がバチバチと音を立て始め、電気の様な物を帯び始めた。
オーレリアは人差し指を相手に伸ばした。その様子はまるで銃を構えているかの様に見えた。
腕から発生する音はどんどん大きくなっていくいき、やがて、全ての電気が指先に集中した。
「発射」
ボソッと囁く様に呟いたオーレリアとは対照的に、電撃は凄まじい音を立て、敵船団へと飛んでいった。
敵船団に近付いた電撃は眩い光を放ち、ここからでもマトモに見る事が出来ないほどだった。
光が晴れ、敵船団の姿が見え始めた。
一見何も変わって無い様に見えたが、どの敵船も動かなくなっていた。
どうやら気絶させるだけの攻撃だった様だ。あれだけ仰々しい音や光が発生した割には優しい攻撃だった。
「今だ!! 寄せろっーー!!」
これをチャンスと見たヴォーゲは船員達に指示を出し、敵船団へと接近させた。
向こうは一切動きを見せなくなっており、完全に沈黙している様に見えた。
そのまま進み、敵の大将が乗っていると思われる船に横付けし、アタシ達は乗り込んだ。
大丈夫だとは思ったが、レーメイとオーレリアは一応ヴィアベルの船に置いてきた。
アタシは近くに倒れていた敵を捕まえ、頬を叩き、無理矢理覚醒させる。
「オイ! 起きろ!」
「う……あ……?」
「よう。寝るにはちょいと早い時間なんじゃねェか?」
「うっ!? うああっ……!」
アタシは騒ぎ始めた相手の顔に頭突きを食らわせる。
「ぶげっ!?」
「騒ぐな。聞きてェ事があるだけだ。単刀直入に聞くぞ。お前ェんとこの大将はどいつだ?」
男は少しの間目を泳がせていたが、最早無理だと悟ったのか倒れている一人の男を指差した。
その男は確かに他の奴らと比べると、かなり身なりが整っていた。
「なるほど、あいつか。ありがとよ」
腹に一発叩き込み、大将と思われる男の所へと近付く。すぐ近くにはヴォーゲも来ており、後はこいつを捕まえるだけだった。
「キセガワさん。そいつの体を起こしてください。私が縛ります」
「おう。頼むぞ」
言われた通りに大将の体を起こすと、ヴォーゲは手際よく簀巻きにしていった。
こいつ、随分と慣れてんな。
「おし、戻るか」
「はい」
アタシとヴォーゲは簀巻きにした大将を自分達の船へと運んでいった。
船に戻ったアタシはまず二人の下へ向かった。
レーメイは大分復活していたが、オーレリアはかなりの魔力とやらを消費したのかその場にへたり込んで動けなくなっていた。
「オイガキ。大丈夫か?」
「申し訳ございません。現在、歩行は困難です」
「しゃーねーなー……」
アタシはオーレリアを背中におぶり、レーメイを引き連れてヴィアベルの婆さんの所へ戻っていった。




