表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第3章:海の上の町
12/65

第12話:海の怪との遭遇

 中央の船の部屋に戻ったアタシ達はシップジャーニーの一団がトゥーリバーに着くまで待機する事にした。どうせ海の上だし、出来る事もそんなにないだろうしなァ。

 そんな時、突然扉が叩かれた。

 レーメイが扉へと向かう。

「はーい!」

 扉を開けた先にいたのは先程出会ったペスカだった。

「あっ! ペスカさん!」

「どーも!」

 ペスカの奴さっきまであんなに対応に困ってたってのに、随分と早く対応出来てるな。しかし、いったいどうしたと言うんだ。この船はあいつの船じゃない筈だし。

「オイどうした。お前ェの船の方はいいのか?」

「私の船は今牽引してもらってるんだ! 普段は自分達で動かしてるんだけどね」

「いいのかそれ? 怒られるンじゃねェのか?」

「いいんだって! それよりも……」

 そう言うと、ペスカは扉の影から釣竿を引っ張り出した。

「提督から指令が出てるんだ。金策の方法を教えてやれって」

 あの婆さんが? まァ確かにオーレリアが持ってきた金にも限度はあるだろうからな。この辺でそういうのを教えてもらうのも悪くないかもしれねェ。

 レーメイが目を輝かせる。

「それが釣竿なんですね! 初めて見ました!」

「おっ! そう!? これはなぁ……」

 ペスカの奴、テンション上がってるのかもしれねェが、さっきまで使ってた敬語が無くなってるな。まァ、アタシ的にはどっちでもいいが。

 レーメイがこちらに振り向く。

「キセガワさん! やりましょう! 釣り!」

「ン……アタシは別に構わねェけど、オーレリアはどーする?」

「私はお二人に従います」

 特に異論は無いみてェだな。

 アタシは座っていた椅子から腰を上げ、他の奴らと共に部屋を出た。


 ペスカはアタシ達の先頭を歩き、船の後方へと移動していった。

 船の後方は大きく開けており、釣りをするには絶好の場所だった。

「よし! ここでやろう!」

「オイ待てよ。船動いてんぞ。魚に引っ掛けられないだろ」

「あっ……」

 オイオイオイオイオイ嘘だろこいつ……? そんな事にも気付いてなかったのかよ……。

「あれぇ……? 提督が頼んできたんだけどなぁ……」

 いや、別に今すぐに教えろって意味じゃなかったんだろ……。まァ、わざわざここまで来てくれたんだし、怒る必要も無いが。

「釣り、出来ないんですか?」

 レーメイが少し落ち込む。

 ペスカは申し訳なそうな顔をし、何とかこの状況を打開する方法を考えようとしている様に見える。

「別に今じゃなくてもいいだろ? 後でいい」

「いや、ホントごめん。申し訳ない……」

 ペスカはしょんぼりした様子で元来た道を戻ろうとしていた。

 しかし、それを遮る様に人影が飛び出してきた。

「ざまあないなペスカァ!」

「スバルか……」

 出てきたのはどうやらペスカの知り合いのようだった。

 ペスカと同じ様に胸元にサラシを巻いており、腰元には荒縄を巻きつけている。ペスカと比べると髪を随分雑に切っており、あまり手入れされていないように見える。こいつ、男……か?

「だいたいお前は昔っから馬鹿なんだよな! こんな動いてる中釣りが出来るかっての!」

「う、うるさいなぁ……ちょっとしたミスじゃん」

「ちょっとしたミスゥ? 海で暮らすシップジャーニーにおいて、ちょっとしたミスは命取りって言われてんだろ?」

 何か分からねェが、あんまり仲は良くないみたいだな。

「オイ。喧嘩すんなら他所でやれよ」

「あぁ? いいのかよ? 今からオレが引き網漁のやり方教えてやろうと思ってたのによォ?」

 ああウゼェなァ……こういうガキは一番嫌いだ……。

「そうかそりゃいいな一人でやっててくれ」

「お、おいおいちょっと待てよ! 教えてやるって言ってんだろォ!?」

 アタシが立ち去ろうとするとスバルは道を塞ぐ様に止めてきた。

 この短時間でスゲェメンドクサイな……。

 すると、アタシ達の間にオーレリアが割って入ってきた。

「申し訳ございませんが、キセガワ様及びお嬢様の邪魔をするのであれば容赦は出来ません」

 ああクソ……余計メンドクサクなるだろうが……。

 アタシはオーレリアの肩を掴み、無理矢理前から退ける。

「お前ェは下がってろ。……まァ、あれだ。レーメイがどうしたいかだ」

 後ろにいるレーメイに視線を送る。

 レーメイはまた目を輝かせてる。

 もうこいつ新しい体験が出来るなら何でもいい感じか。

「やってみたいです! 引き網漁!」

 その言葉がエンジンを掛けたらしく、スバルはフンッと鼻を鳴らす。

「だろ!? ほらなペスカ! やっぱりオレの方が賢いんだ!」

「はいはいそうだねー……」

 どうもこの態度だと、普段から絡んでるっぽいな。

 いずれにせよ、アタシ達はスバルから引き網漁を見せてもらう事になった。



「おし! じゃあまずは網を投げるぜ!」

 そう言うとスバルは力強く網を放り投げた。こいつの態度は気に入らんが、投げ網漁の腕前は本物らしいな。そこだけは気に入った。

「見ましたか、キセガワさん! 今の凄いですね!」

「ン? ああ、まァそうだな」

 グイッと前へ出て興味深そうに眺めているレーメイを置いてアタシは一歩後ろに下がり、ペスカに話し掛けた。

「オイ。あいつは普段からお前ェに絡んでんのか?」

「うん。スバルとは幼馴染なんだよね。あいつ、私よりも胸小さいから嫉妬してんだよ」

 あいつ女なのか……言動からして男かと思ってたが……。

 しかし、胸の大きさねェ……いまいちアタシにはそれで悩む理由が分からねェな。別に小さくて死ぬ訳じゃあるめェし。

 そんな事を話していると、スバルがこちらに寄ってきた。

「おい! 聞こえたぞ! 違うって言ってんだろ!」

 聞こえてたか。

「いい加減認めなって。スバルとは古い仲だし隠しても分かるって」

「違うって!!」

「でも私と風呂入る時いつも恨めしそうに見てくるじゃん」

「~~~っ!」

 あーあーメンドクサイのが始まった。

 しかし、この網このままでいいのか? アタシはこういうのにあんまり詳しい訳じゃないが、目を離さない方がいいんじゃねェのか?

 そう思っているとオーレリアが船に繋げている網を掴んでいた。

「オイ、どうした?」

「……私の勘違いかもしれませんが、何か重たいです」

 試しにアタシも掴んでみると、明らかにおかしい重量が掛かっていた。

 どう考えてもこれは普通じゃねェぞ……!

「どうしたんですか?」

「お前ェは下がってろ!!」

 近寄ろうとしたレーメイを止め、アタシは後ろで未だに言い争いをしている二人に声を上げる。

「オイ! 何かやべェぞ! どうにかしろ!!」

「スバル、何かヤバそうだよ」

「あっ! 何勝手に……!」

 スバルはこちらにドカドカと近寄ってきた。

「勝手に触るなよ! まずはオレが教えてそれから……!」

「そんなのはどーでもいい! とにかくヤベェんだよ!」

 アタシ達が何とか掴んでいた網は少しずつ海の方に引っ張られており、このままでは海に引きずり込まれそうだった。

 オーレリアは涼しげな顔をしているが、危険そうだった。

「な、何だよこれ……網がこんな引っ張られるなんて……」

「オイ! 急げって! 異常だぜこれは!」

「……キセガワ様。緊急事態です。私の本能がそう告げています」

 ついにオーレリアが危険信号を出しやがった。いよいよだなこれは……。

 アタシはオーレリアの腕を掴み、話し掛けた。

「いいかガキ。このまま横に跳ぶぞ。網は離せよ」

「はい。仰せのままに」

「お、おいちょっと待てよ!? ここで離したりしたら網が!」

 スバルは慌てているがそんなの知った事ではない。ここで引きずり込まれた方がヤバイ。

「行くぞ……せーっの!」

 アタシとオーレリアはその場から飛び退き、網から手を離した。

 その瞬間、網がピンと張り、船全体が大きく揺れた。どうやら、相当デカイ物が掛かっている様だ。

 中央にあるこの船が止まったためか、左右に並んでいた他の船からシップジャーニーの住人達が出てきた。

 スバルは商売道具を何としてでも放さないといった様に、網にしがみ付いていた。

「オイガキ! 危ねェから離れろ!」

「ふざけんな! 商売道具だぞ!? 離してたまるか!」

 止めに入りたいところだったが、下手に助けに入って網に巻き込まれる可能性があるため、近付けなかった。

 すると、先程まで静かに見守っていたペスカがスバルに近付いていく。

「オイ、お前ェも……!」

 そう言った瞬間、ペスカはスバルの頬を殴り、無理矢理引き剥がすと、アタシ達の所まで連れて来た。

「テメッ……何すんだよ!?」

「……スバル、今は我慢してよ」

 ペスカは懐に入れていたと思われるナイフを取り出し、船に繋げていた網の部分を切り落とした。

 網はそのまま海の奥に吸い込まれる様に消えていった。

「何ですかね今の!? 何だか凄い事になってましたけど!」

 レーメイは目の前で起こった初めての出来事に興奮しっぱなしだったが、アタシは情けない事に冷や汗が出ていた。

 正直、肝が縮んだ……。この世界の海にはこんな力のあるバケモンがいるのか……。あれは明らかに生き物の力だった。網の引きが強くなったり、弱くなったりしていた。

「スバル……さっきのさ……」

「黙れっ!」

 スバルの怒声が響く。

「分かってる……だから離したくなかったんだ……」

「何か知っておられるのですか?」

 オーレリアが尋ねる。

 空気の読めない奴だが、アタシが聞きにくい事を聞いてくれるって点じゃ、便利だな。

「昔、5年くらい前かな。今みたいに何かが網に引っ掛かった事があったんだ」

 スバルはその場で座り込んだまま俯いている。

「シップジャーニーの漁師達が総出でかかったんだけど、駄目だった」

「その時に、スバルの親父さんが海に引きずり込まれたんだ」

 ……そういう事か。漁の素人ではない筈のこいつがあそこまで粘るのはおかしいと思ったが……。

「それからスバルはずっと引き網漁に固執する様になった。元は私と同じ様に釣りをしてたのに」

 スバルが顔を上げる。その顔は怒りからか赤くなっていた。

「オレはあいつを必ず捕まえる……! 父さんが死んだのはあいつが居たからだ……! あいつはこれからも人を殺すかもしれない……だからオレがケジメをつける……」

 アタシは嫌な予感がした。

「オイお前ェ、まさか刺し違えるつもりじゃねェだろうな」

「……」

「答えねェのは肯定と受け取るぜ? あんまし馬鹿な真似はすんなよ」

 オーレリアが口を開く。

「私は漁についての知識を持っていませんが、自らの命を捨てる必要性を感じません」

 今度はレーメイが口を開く。

「そうですよ! もっと今ある命を大切にして下さい! 命は一つしかないんですよ!」

 たまにはこいつも良い事言うじゃねェか。

 しゃーねーな……ここまで関わっちまったし……。

「なァスバルとか言ったか? もし今度こういう事があったら、その時はアタシら全員であのバケモンを捕まえようぜ」

 スバルは驚いたような顔でこちらを見る。

「何言ってんだよ……」

「今言った通りだぜ? アタシもあのバケモンに興味が湧いちまった。実際に捕まえてこの目で見ないと気が済まん」

 オーレリアがジトッとした目で見る。

「……私には理解が出来ません」

「別に理解しなくていいぜ」

 アタシはオーレリアの腕を掴み、立ち上がらせる。

「私もキセガワさんと一緒に手伝います!」

 レーメイもあのバケモンが気になっている様で進んで協力してくれる様だ。

 アタシは座り込んだままのスバルに近付き手を伸ばす。

「起きな。いつまでも座ったままじゃケツが痛むだろ」

「……一人で起きれる」

 スバルはアタシの手を払い、立ち上がった。

「どうしても手伝うんだったら好きにしろよ。ただ、足手まといにはなんなよな」

 そう言うと、スバルはその場から去っていった。素直じゃねェガキだ。

「ごめん。スバルも悪い奴じゃないんだけどね」

「構やしねェよ。年頃のガキってのはメンドクサイもんだ」

「……ありがと。じゃあちょっと私は提督の所に行ってくるよ。さっきの船が止まった時の事説明しないと」

 そう言うとペスカは船の内部へと続く通路を走っていった。

 アタシは手摺にもたれる様にして海を眺める。

「戻られないのですか?」

「先戻ってろ。ちょっとここにいる」

 アタシはオーレリアとレーメイに部屋へと戻る様に言い、一人その場に残った。

 本当にゾッとする。この底の見えない海の中にあれだけの力を持った奴が身を潜めてるのか……。捕まえるのを手伝うとは言ったが、どうやればいいんだろうな……。アタシは喧嘩は得意な方だが、海では完全にアウェーだ。レーメイの魔法も海の中まで届くか分からない。オーレリアもアタシと同じで格闘専門ぽいし……。

 色々考えてみたものの、何も良い策が浮かばなかった。

 しかし、厄介な事に首突っ込んじまったな……目の前で起こらなきゃ関わらなかったんだがな……。

 とはいえ、言っちまったもんはやらなきゃならねェ。

 アタシは両手で頬を軽く叩き気合を入れ、二人が待つ部屋へ戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ