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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
堪えきれない答えに応える章
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弑章 葬送

このままでいい。だって、何故なら、ヴァイスは未来がない。

遺物に理不尽に振り回されないよう、遺物を完全に過去のものにするという目的で動いているヴァイスには未来がない。過去を過去として区切るための刃を振り下ろすためにある。その刃にはヴァイス自身の首も含まれている。目的が達成されればヴァイスも存在理由を失う。

武具さえなければ魔力持ちが目覚めることもない。魔力の目覚めは武具との接触によるものだからだ。だからすべての武具を収集し葬る。

武具がなくなった暁には、自分たちも死のう。誰に強要されるでもなく捌尽はそう思っていた。歴史にしっかり線引きをして区切るのならば、過去を葬るヴァイスもまた過去の範疇に入る。過去を葬るのならその範疇に入っているヴァイスも葬らなければならない。

魔力持ちはすべて殺す。全滅させたら自分も死ぬ。そうして自分というものも終わらせてやる。やはり愛というものなどないのだと霜弑を罵って。壮大な実験に協力ありがとう、と突き放して捨ててやるのだ。

それがいつになるのかはわからないが、捌尽はその日が実験終了日だと決めていた。

「ずっと一緒だよ、僕の霜弑」

実験が終わる日までは。心の中でそう付け足した。


抱き合う恋人の紛い物を見て、リグラヴェーダは、あぁ、と笑った。

これだから人間は愛おしい。砂を掻く努力をする人間も好きだが、努力を諦め砂に埋もれていく人間の嘆きも愛おしい。ずるずると砂に埋もれて窒息しながら、いつか来るだろう終わりを夢見ている。なんと愛おしいことか。

終わるわけがない。世の中にいくつの武具があると思っている。世界はこの大陸だけではない。"大崩壊"により群島の塊となってしまった大陸も、極寒のまま未だ形の変わらない大陸も存在しているというのに。

せいぜいこの世代ではこの大陸中の武具を集めるのが精一杯。集まりきった頃に"灰色の賢者"が大陸外のことをちらつかせ、外の大陸に出ていくようにさせるだろう。終わりはしない。遺物は世界に散らばっている。

この世代で終わるほど数が少ないわけではないのだ。終わらないうちに次の世代が生まれてくる。そうしてヴァイスは受け継がれていく。歴史の終末に向かって。

いつまでも終わらないのだとリグラヴェーダは知っている。"大崩壊"よりはるか昔より存在する魔淫の女王は終末が来ないことを知っている。だが人間たちは終末が来ると信じて砂を掻いている。あぁ、なんと愛おしい。

愛おしくてたまらない。これだから人間は好きなのだ。頂点で完結してしまった女王は頂上から人間の努力を見下ろす。

人間の努力といえば、だ。そろそろあれも限界かもしれない。"零域"とやらの開発者である人間のことだ。

今まで看過されてきたそれが我々に近付きつつある。引きずり出される前に、引きずり出そうとする手を断ち切らなければならない。

リグラヴェーダ自身、あれにはもう飽いている。人間の努力などこの程度だと見切りをつけてしまっている。未練がないのなら処分は早めに。

からん、とベルが鳴った。

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