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「…返事を、聞かせて?僕はまだ、紗菜ちゃんの口から求婚の答えを聞いていないよ?…さっきは、承諾していないって言っていたけど…僕のことを、どう思っているの?僕の気持ちは、今言った通りだよ」


そう言うと、神様は耳を垂れて 少し不安そうに目を細めた。長いまつげが ふるふると震えて、まるで子犬みたいで…無性に、抱き締めて、いいこいいこしたくなる。



「私…神様のこと、好きだと、思います。まだハッキリとは言い切れないけど…神様と一緒にいると すごくドキドキするし、可愛いなって思うし、でも格好いいなっても思うし。えっと、なんて言ったらいいかわからないけど…こんな気持ち、初めてだから。だから、これが好きって気持ちなんだと、思…」



思います。って最後まで言い切れなかった。なぜかと言うと、神様に口を塞がれたから。手でじゃないよ。マウストゥーマウスだよ。これが世に言うキスですな。サバサバ系女子だった私は、気づいたら男子に異性だと思われていなかったせいで、これがめでたくもファーストキス。思っていたより、柔らかいね、唇。て言うか、おいおい心臓ヤバいぞ。バクバクがバックんバックんになっちゃったぞ。鼓動が激しすぎて逆流しないか心配になる激しさだぞ。ついでに顔暑いし(真っ赤だから)苦しくなってきたし。長いなこれ!息とか どうしたらいいの?口は今密閉されてて呼吸は不可能!それに今さらだけど私目を開けたままだけど閉じた方がよかったの?神様は目を閉じてるみたいだけど、閉じるのも今さらのような、もったいないような…

ああダメだ苦しい、神様離してくださいな。


神様の胸をとん、と押すと。

唇が離れた瞬間に、濡れた音がして、めちゃくちゃ恥ずかしかった。



でもそれよりも。



「ぜえぜえ、はあっ、ちょっと、すみませ…はあはあ、あー死ぬかと、思った…」



ごめんなさい神様。サバサバ系女子の私は、ラブシーンが続かないらしい。


「ごめんね、つい嬉しくて止まらなくなってしまって…」



優しく背中を擦ってくれる神様。いやいやこちらこそ。多分すごくいいムードだったんだろうけど、私のこの激しい深呼吸のせいで、全力疾走のゴール直後みたいな雰囲気になってしまったね。ラブラブムードから、体育会系の青春スポ根劇場のように…反省してます。



「でも、よかった。紗菜ちゃんが、僕に応えてくれて…」


嬉しさと安堵をにじませた声に、私も呼吸を落ち着かせながらも、こっそり喜んだ。うわ、これ両思いってやつなんだな…うわ、嬉しいけど恥ずかしいな。



「もし、否と言われたら、この学校消しちゃうところだったよ」








…え。


私の深呼吸が、一瞬止まった。あれ、今おかしなことが聞こえたな。け、消す…?


「僕、いつ嫁様に会いに行こうかって ずっと考えていたんだ。でも、なかなか こっちに来れなくてね…せっかく ちょこれいとをくれるって嫁様が言ってくれたのに…でも、丁度よかったよ。人間の方から呼び出してくれたからね…」


あ、猿渡がね。こっくりさんやったからね。


「これでも、焦っていたんだ。神社に来るたびに、犬と雪の気配が強くなっていったから。もし今日、会えなかったら嫁様をさらってこようかなって思ってたんだ」


あれ、それっていわゆる神隠し?ねえ神様、それ、人間じゃなくても やっちゃいけないことだと思うな。


「でも、会えてよかった。それに、僕の嫁様になってくれて、本当に嬉しい…」


あ、あれ?尻尾の締め付け、きつくなってない?それにさ、足に巻き付いてたのが、腰から肩まで登ってきたよ?


「ちょこれいと、ありがとう。僕の、だよね…僕だけのために用意してくれたんだよね?」


「うん、そりゃあ、もちろん…」


輝く笑顔がまぶしい。なのに、さっきから妙に背中がぞわぞわするのは何でだろ。



「ありがとう。…嫁様が贈ってくれたもの、大切にするね。僕だけのものだもの。…嫁様も、僕だけのものだよね?」




…うん?質問の意図がわからないよ。神様。


「嫁様は、僕だけのもの。だから嫁様は僕だけに与えて、僕からしか与えられてはいけないよね?」




おや、おかしいなあ。背中のざわざわプラス冷や汗がだらだら垂れてきたんだけど…





「だから、彼らにこれを与えたのは、何かの間違いだったんだよね?」


言って、神様がパチンと指を鳴らすと。


私たちの頭上に、見覚えのあるブレスレットと洒落っ気のない箱が現れた。


「それ、犬飼君と深雪ちゃんにあげたやつ…!」


「…駄目だよ。嫁様は優しいから、他のものに与えたのかもしれないけれど…人外は人間と違って、好意を持ったものからしか、受け取らないし、何も与えない。お伽噺の悪魔が貰うのは代償であって、与えられるものとは、訳が違うんだ」


与えるとか、代償とか…ちんぷんかんぷんだよ神様。それよりも尻尾、そろそろ離しませんか。

尻尾、解放して?って目で訴えるけど、神様は私の頭を撫でて、笑うだけ。


「僕らは、自分が認めたものから与えられたものは、何があっても大切にするよ。でも、勝手に贈られたものや認めたもの以外から貰ったもの(代償)は、壊れようが奪われようが全く構いやしないよ…今頃、彼は地獄で吠えて暴れているかもね。嫁様から“与えられた”ものを、僕が奪ったから。…雪女も なくなったことに気づいたけれど、僕に支配されているから、泣く泣く手放したってところかな…奪ったのが僕じゃなければ、氷づけにされて、その身を粉々に砕かれていたかも知れないね」




鈍い私でも、何となく、神様の言っていることがわかってきた…犬飼君と、深雪ちゃん、私のこと、大切に思っていてくれたんだ…




「嫁様、思わせぶりなことを してはいけないよ?人外は人間が思っているよりも、純粋だから…でも、今回だけは許してあげる。間 違 い は誰にでもあること、だものね?」



肩にまで絡まる尻尾の上から、神様が私を そっと抱き締める。


「嫁様は僕のもの。僕は嫁様のもの…僕らを邪魔するものがいたら、みんな消してあげるからね…絶対に、離さない。…僕達は死ぬまで一緒だよ」



優しく抱き締められているはずなのに、私は足から頭の先まで、見えない鎖でギリギリと絡め取られているような感覚を覚えた。



頭上のブレスレットと箱が青い焔で焼かれるのを眺めながら。



あらら、私 選択 間違ったんじゃね?と密かに心の奥で思った。













うん?これって一応、ハッピーエンドなの?



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