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断界の英雄  作者: 明太子
天断来臨
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爆ぜる静寂

静寂が、空間を張り詰めさせている。


誰も動かない。


響は一歩前に出たまま、鋭く睨みつけていた。

その背で、翠霞が周囲に意識を巡らせる。

蓮はわずかに位置をずらし、全体を見ていた。


正面に蝶に囲まれた女が、静かに立っている。

「……また負けに来たの」

低い声で感情は薄い。

「この前ので懲りたと思ったんだけどね」


だが――どこか、わずかに愉しんでいるようにも見えた。


響が鼻で笑う。

「随分と歓迎してくれるじゃない」


軽く肩を回す。

「でも悪いけど、引き返す気はないから」


蝶使いはわずかに目を細める。

「そう」


興味がないようでいて、視線は逸らさない。

その間にも、蝶はゆっくりと空間を満たしていく。


ふわり、ふわりと。

しかし音はない。

距離感が曖昧になる。


蓮の視線がわずかに揺れる。

「……なぁ」


小さく呟く。

「なんか多くね?」


響は一瞬だけ周囲を見る。

「は? 最初からこんなもんでしょ――」


言いかけて、止まる。

ほんのわずかの違和感。


翠霞が静かに口を開く。

「……下がった方がいいかもしれません」


視線は蝶に向いたまま。

その声は、いつもより低かった。


蝶使いが、ふっと息を漏らす。

「観察は悪くないわね」


ほんの少しだけ口元が緩む。

愉しむように。


響が舌打ちする。

「余裕ぶってんじゃないわよ」


一歩踏み出したその瞬間、

蝶使いの視線が、ほんの一瞬だけ揺れた。


別の方向へ。

しかしすぐに戻る。

まるで何事もなかったかのように。


蓮の目が細まる。

(今の……)

だが、考える間はない。


蝶使いが、静かに告げる。

「遅いのよ」


次の瞬間、空間が弾けた。

周囲に漂っていた蝶が、一斉に爆ぜる。

光が散り、音が遅れて叩きつける。


三人に衝撃が走る。

「――っ!!」


響が腕で顔を庇いながら叫ぶ。

「全員防御!!」


だが、視界はすでに崩れている。

爆発は止まらない。

連なり、広がり、逃げ場を奪う。


翠霞が地面を蹴る。

「離れてください!」

そう告げると霧が広がる。


だが、輪郭が揺らぎ、距離が狂う。


蓮が低く吐き捨てる。

「最初から仕込んでやがったか……」


煙の向こうにいる蝶使いは動かない。

ただ、こちらを見ている。

静かに、愉しむように。

「気づくのが遅い」


その声と同時に、再び蝶が集まり始める。


響が歯を食いしばる。

「……上等」


一歩踏み出す。

「やってやるわよ」


その背には、わずかな笑み。

怖がってはいない。

逃げる気もない。


翠霞が息を整え、蓮が視線を鋭くする。

戦いは、もう始まってしまったーー

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