第31話 魔人との初遭遇・2
R15作品です。
読んでくださる皆様ありがとうございます!
第30話と今回の第31話…書いてて凄い楽しかっです!
そして今回の投稿で8万字突破しました!
もう少しで10万字です!
4月29日誤字修整しました。
吸血鬼ファセスの背後に転移した俺は黒刀・羅刹を強く握り締めて構える。
一瞬とも言える短い時間の中、吸血鬼ファセスを見て俺を見失ったままだと判断する。
大丈夫だ、いける。
そう判断した俺は覚悟を乗せた横薙の一閃を放った。
殺った……
そう確信した。
だが俺は目を疑った。
目の前で斬られたはずの吸血鬼ファセスは、切り口から血が流れない。
血ではなく赤い煙が迸って身体ごと消えてしまう。
何が起こった?
手応えはあった。
しかし、赤い煙が一箇所に集まって吸血鬼ファセスは何事も無かったかのように復活した。
「小僧だと油断したな。やるでは無いか」
吸血鬼ファセスが俺を見てそんな事を言う。
「今のはなんですか?」
黒刀・羅刹を正面に構えながら俺は返答を期待せず質問する。
少なからず動揺した俺が落ち着く時間を稼ぐ為に、深く考えずに口から出た質問だ。
「今のは吸血鬼族特有の魔法でな?斬撃系の攻撃などはほぼ全て先程のように無効化出来る」
意外にも答えてくれる。
それにしても斬撃無効化の魔法とか、なんてチートだよ。
黒刀・羅刹が無意味じゃないか。
「問答はもう良いな?」
そう言って吸血鬼ファセスはどこからともなく両手剣を召喚した。
斬撃系無効化で自分は剣を使うのかよ。
「ではいくぞ」
吸血鬼ファセスは剣を構えて猛スピードで俺の目の前まで移動する。
予想以上に速いスピードに俺は反応が遅れて、黒刀・羅刹でその剣を防ぐ選択をしてしまった。
ガッギィィン
片手を剣の横腹に添えて受けたその斬撃は黒刀・羅刹に阻まれる。
だが凄まじく重い。
俺は思わず「ぐっ」と力む声が漏れる。
俺は一度転移で距離を取る判断をした。
吸血鬼って何が弱点だったっけ?
俺の世界ではニンニクと十字架と銀の杭だったか?
ニンニクは今用意出来ないし、十字架も何の効果があるのか全くイメージ出来ない。
だから俺がイメージするのは銀の杭。
土魔法を応用して作った無数の銀の杭を吸血鬼ファセスに向かって弾丸のように飛ばす。
それを吸血鬼ファセスは何事も無いかのようにその身に受けて、また赤い煙になって復活する。
ちっ…やはり元の世界のイメージとは違う存在なのだろう。
これは魔法で殲滅するか。
俺は集中する。
イメージするのは炎の竜巻。
魔素を練って術式を構築し、思いっ切り魔素を通して飛ばす。
炎の竜巻は小さいながらも、吸血鬼ファセスに当たると一気に広がって巨大な炎の竜巻に育った。
これは流石にやったか?
「魔法もこれだけの才能を持つのか小僧…いやはや人族の子は恐ろしいな」
ああはい俺のセリフってフラグでしたね。
言っちゃダメなやつだった。
言わなくても何も変わらないんだろうけどさ。
炎の竜巻から無傷で吸血鬼ファセスが出て来る。
「我には魔法も基本的に効かぬよ」
なんだそれ。
吸血鬼って強過ぎないか?
魔人ってみんなこんななのか?
俺が焦りを感じていると吸血鬼ファセスがさらに喋りかける。
「吸血鬼族は魔人の中でも少し特別でな?魔族の中では人族の魔法騎士のような物で、その中でも吸血鬼族はエリートみたいなものよ」
なるほど。
つまり魔人の中でもかなり強い部類なのか。
それにしても余裕なのか、この吸血鬼ファセスはよく喋るよな。
どうやって倒せばいいのだろうか?
魔法もダメ黒刀・羅刹もダメ…何か弱点とか無いのか?
もう殴るか?
それなら効いたりしないだろうか。
「殴られたりするとダメージはあるんですか?」
試しに聞いてみる。
このお喋り魔人ならば答えてくれそうだ。
「それはダメージがあるな。しかし小僧…ククッ…お主が我と殴り合いでもするのか?」
吸血鬼ファセスは嘲笑いながらそんな事を言う。
そりゃ8歳のこんなチビが20歳前後の見た目の男と、命を賭けた殴り合いをするなんて話を聞いたら誰だって笑うよな。
俺だってきっと笑う。
でもやる。
「ああそうだよ!!」
ダメージが入るならやってやろうじゃねえか。
8歳の俺が殴り合いで大人のような吸血鬼ファセスを殴り殺してやんよ!
俺は後の事を師匠に任せて切り札を使う。
「限定解除!!!」
周囲の魔素をごっそりと吸収して、俺は魔闘衣も作り出す。
魔闘衣は今回腕に集中させて纏わせてある。
その姿を見た吸血鬼ファセスはあんぐりと口を開いて驚愕していた。
「小僧…その力はなんだ?お主は龍人族の子なのか?」
やはり龍人族は俺と似たような事をやるのだろうか?
まあでも俺は…
「人間だよ!!」
ドッゴン!!
「ぐぼらっっっ!!」
俺は転移して吸血鬼ファセスの懐に飛び込み、腹を思いっ切り殴ってやった。
まさに渾身のボディーブロー。
吸血鬼ファセスは避ける事も防ぐ事もせずにモロに受けてぶっ飛んでいく。
地面を跳ねながらやがて木に激突して止まった吸血鬼ファセスは、ゆっくりと立ち上がった。
「がはっ…ヒュー…ヒュー……お…お主……名は…なんと言ったか…?」
血を吐いてさながら満身創痍の吸血鬼ファセスはそんな事を口にする。
「ハヤト・ヴァーチ…男だからな?」
俺はそう答えた。
「………ぐっ……そうで…あったな…ハヤト・ヴァーチよ……此度はお主の…勝ちだ……吸血鬼族のファセスに勝った事を…誇るが良い……」
ん?
まだ勝負はついてないと思うのだが。
吸血鬼ファセスもダメージは受けているようだが、まだ戦えそうだ。
そこで師匠が俺に叫ぶ。
「畳み掛けなさい!!逃げられるわよ!!!」
逃げる?
魔人って逃げるのか?
そんな事を考えていた時、吸血鬼ファセスに動きがあった。
足元から徐々に無数の蝙蝠に変わって空に飛んでいくのだ。
「…ハヤト・ヴァーチよ……また会おう…その時はもう…油断なぞせぬからな?」
そう言って吸血鬼ファセスは全身が無数の蝙蝠となって、空に消えていった。
…………逃げた。
これだけやって逃げるってありか?
師匠が歩いて近付いてくる。
とりあえず俺は魔闘化を全て解除する。
ぐっ…流石に全力戦闘では短い時間でも結構ダメージがあるよなこれ。
もっと戦いが長引いたら俺もやばかったかもしれない。
「とりあえずお疲れ様…まあ逃しちゃったけど、初めての魔人との戦闘だしね。良くやったわ」
そう言って師匠は俺の頭を撫でる。
「それにしても…吸血鬼相手にどうするのか見てたら…ぷっ……まさか殴り合いを…選ぶとはね?ぷっ…あはははは」
師匠が笑いを堪えきれないかのように大爆笑する。
そんなに可笑しい事なのだろうか?
「普通はどうやって戦うんですか?」
「あはははは…あ〜笑ったわ〜。そうね〜斬った時とか赤い煙になるじゃない?」
「はい」
「あれって魔法も何も使えない状態の吸血鬼の身体なんだけど、その煙を燃やしたりするのが一般的かしらね〜」
な…なるほど……俺はどうして思い付かなかったのだろうか。
「それをこの子は……ぷっ…くっ…ひーっ…お腹痛いぃ」
そんなに笑わなくてもいいだろうに。
知らなかったんだから仕方が無いだろう?
俺が少しむくれていると師匠が頭をぽんぽんしてくる。
「ごめんごめん。でも本当に良くやったわ。あの吸血鬼が言ってたように君は誇っていい。私との模擬戦でも使ったあの魔法も使ったんだし、今日はもうゆっくり休みましょうか」
そう言って師匠はいつものように地下室を作り出した。
中に入った俺はムスッとしながら寝転がる。
でも…そうか。
俺は勝ったんだよな。
そう自覚した時、俺は自然と笑っていた。
この日はゆっくりと今日の魔人との初戦闘を思い出しながら過ごした。
そして夜も更けて俺は寝る事にする。
明日からまた魔物の間引きが始まるのだから。
明日も19時更新となります。
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