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技神聖典―刀と少女と神の抒情詩―  作者: 一響 之
十三章 瀉炎の編
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十三章 第45話 ただいま。

 目 が覚めると鼠色の天井があった。石材がむき出しになった、見覚えのある天井だ。

 そう、王立の治療院にある数少ない入院用病床。その上に広がる天井だ。


(また、ここか……)


 大抵の傷や病が短期間で治せるこの世界で、一泊以上を想定した入院施設というのは珍しい。その珍しい施設に俺は半年で三回も収容されている。ちょっとどうかと思う。


(しかも同じ部屋だな)


 勝手に発動する『暗視眼』の緑がかった視界に、覚えがある天井の傷が映り込んだ。トワリの反乱で死にかけたときと、全く同じ部屋を宛がわれているらしい。

 視線を左へ動かし、カーテン越しに淡白な光をもたらす窓を見やる。隙間から覗く空は室内と同じ暗さで、けれど差し込む月光は中々の明るさで。


(満月ほどじゃない……半月なら一週間くらいかな?)


 作戦の前後が新月だったはずだ。月の周期は二九日ほどなので、四半分と考えればそのくらいだろう。さすがに二十日以上眠っていて欠け行くところということは、ないと思いたい。


(……随分と、無理をしたな)


 心の底からそう思う。

 意識はしっかりしているが、手足の感覚が鈍く重い。体に大きな蛇でも巻き付いているような、怠い重さがのしかかっている。

 気配感知が働かないのも手伝って、なんだか思考だけが独りで先に目覚めてしまったような……そんな妙な感覚に陥りそうだ。


(まあ、気分は悪くないけど)


 凄惨な戦いだった。逆恨みで粘着され、出さなくていい被害を出してしまった。大切な少女たちを傷つけられた。せっせと築いた社会的地位もおそらくフッ飛んだことだろう。

 あげく長年待ち望んだアドニスとの決着を、あんな形で訳も分からないまま迎えることになって……。


(でも、面白い戦いではあったな)


 誰かに聞かれれば怒られそうだ。それでも俺は素直にそう思う。

 ダルザのことはもちろん嫌いだ。許すことなど到底不可能。だがあいつの披露した技術が面白かったのも事実。なにせ、あそこまで俺の知らない技術分野は初めてだった。


(スキルシステムへの直接的なアプローチ。ブランクだった俺には思いつきもしないモノだ……しかも強かった)


 執念だけでも、技術だけでも、俺をあそこまで追い込むことはできなかったはずだ。

 認めよう。あの男は大した技術者だった。


(どうせ戦うなら、もっと清々しくやり合いたかったな)


 惜しいのはそこだ。被害が出ないならもっと色々引き出して、存分に戦いたかった。

 ダルザだけではない。『鬼化』の力もそうだ。悪鬼には辛酸を舐めさせられたが、あれほど膨大なエネルギーを振り回して戦うのは……嗚呼、全くもって悪くなかった。


(いかんなぁ。悪い虫が疼き始めた)


 チロリと唇を舐める。

 今回の犠牲に憤る気持ちも、仲間に馳せる想いも、アドニスの最後への戸惑いも、嘘偽りなく俺の中に宿る本当の心だ。だがついつい笑み崩れそうになる壊れたヤツも、間違いなく俺の中にある心だった。


(また腕利きと立ち会いたいな。メルケ先生が生きていてくれたらなぁ。いや、いっそズティーユ卿を誘ってみようか……にしても体が重い)


 そんな風に頭の中でニチャニチャ考えながら、窓から視線を外す。そのまま右へ頭を振ったのは弾みというか、特に意識してのことではなかったのだが……鼻先が触れそうな近さに人の顔があった。


「……っ」


 驚きのあまり声を出しそうになり、ゴクンと飲み込む。


(び、びっくりしたーッ!!)


 エレナだった。首元まで掛布を被って、俺の肩に顎を添わせる形で眠っている。意識すれば確かにすぅすぅと、かすかな寝息も聞こえてくるではないか。


(どれだけ鈍ってるんだ、俺)


 密着されているのに気配を感じ取れず、呑気に戦いを振り返ってニヤついていたのでは……まあ、立ち合いは考え直した方がいいだろう。


「むにゃぁ」

「……ふふ」


 寝息に交じってなにか鳴き声を発するエレナ。かわいい。

 それにしたってボルボン司祭がよく許可したものだ。意識不明の入院患者のベッドで寝るだなんて、あの転がした方が早そうな薬医神の神官は看過しないと思うのだが。説得したのか、強引にねじ込んだのか、あるいはこっそり忍び込んだのか。


(それだけ心配かけたってことか……ごめんな)


 俺は感謝の思いとともに、言葉にならない幾つもの感情を抱いて、彼女の顔を覗き込む。

 閉じられた瞼の肌はきめ細かく、すっと通った鼻梁も無防備な唇も、見ているだけで胸が苦しくなるほどに愛おしい。戦いの高揚感とは違う意味で、ようやく生き残った実感が湧いてくる。


「エレナ」


 起こさないよう、できるだけ絞った息だけで恋人の名前を呼ぶ。そしてそっと掛布の中で腕を回し、少女を優しく抱きしめた。


「んぅ」


 シルクのように滑らかな肌が腕に吸い付くような感覚。柔らかく、女性として成熟に向かいつつある肉体。けれどその奥には冒険者らしい、しっかりと鍛えられた筋肉が感じられ……ん?

 違和感を覚えて停止する俺。両腕に抱いた少女の感触は安堵よりも劣情を煽るような生々しさで。

 慌ててそっと、あくまでそっと、腕を解きシーツをめくる。視界は肌色一色。豊満な胸の谷間が……。


(いや、なんで裸なんだよ!?)


 予想外の事態に叫ぶ。心の中で。

 声に出さなかった俺を誰か褒めてくれ。

 そして誰か説明してくれ。どういうことだ。どういうことなんだ!


(というかコレ……)


 そう、ここまで来てようやく気付く。体に纏わりつく重い倦怠感は戦いの後遺症ではない。物理的にエレナが絡まっているだけだ。全裸で。しかも俺まで全裸で。


(本当にどういうコト!!)


 最高潮に達する混乱。お構いなしに上がる心拍数と体温。


(落ち着け、落ち着け、奇数を数えろ。あれ、奇数だっけ?ゼロって偶数?)


 などと訳の分からないことを考えていると、隣の恋人がムズがるように身動ぎした。


「んぅ……あつぃ」


 寝言半分にそう言ってエレナは俺の腕を押し退けようとする。だがその意外な重さにまごついた後、ごそごそしているうちに覚醒してしまったのか、眠りの淵から浮上してきた。


「んむぅ……」


 ゆっくりと持ち上がる瞼。まだ焦点を結べない、とろんとした早苗色の目がこちらを視界に収める。それだけで俺の視線も彼女の瞳に吸い寄せられる。


「あー……アクセラちゃんだぁ」


 意識が大半寝ているような、脳の稼働率がゼロに近いとろけた口調。それでも状況を理解はしているようで、にへっと笑った彼女は俺に頬に手を伸ばしてきた。


「目ぇ、さめたんだね」

「……ん」

「ぐあい、どーおー?」

「たぶん、いい」

「そっかぁ……なら、よかったぁ」


 エレナはそう言いながら、輪郭を確かめるように俺の顔をむにむに触っていく。それが終わると今度は長く伸びた白髪へターゲットを変え、ぐっしゃぐっしゃと大味に撫で始める。


(犬の撫で方だ……)


 牧羊犬のように撫でられること数分。手を動かすことで少しずつ頭も働き始めたのか、視線がさっきより定まって来た。

 頃合いを見計らって俺は率直に問う。


「……これは、何事?」

「むぅ?んぁー、コレね……魔力ほじゅーちゅー」

「……?」


 何を言っているのか分からなかった。

 だが言われてみれば、エレナから魔力が流れ込んできているような。


「ふわぁ……」

「ん、起こしてごめん。明日にする?」


 眠そうに大あくびをする彼女だったが、俺の提案には首をはっきり横へ振った。


「むぅうん、いいよ。昨日の朝からずっとねてたし」


 重ねてよく分からない回答をするエレナ。

 彼女は俺に抱きついたまま体にぎゅっと力を入れて眠気を払う。


「んんーっ……はふぅ。うん、よく寝た!」


 緑の瞳から溶けたような印象は消え、代わりに優しさと切れ味のある知性が戻った。


「アクセラちゃん、おかえり」

「ん、ただいま」


 なんだかあんな激闘のあととは思えないほど穏やかなやり取りだ。俺たちはそのことに小さく笑い合い、軽く口づけを交わす。


「それで?」


 しばらく唇を振れ合わせ、鼻先をこすり合って時間を過ごしたあと、俺はわずかに顔を離して本題を振った。

 エレナもひとしきりじゃれ合って満足したのか、自分も焦点が上手く合う距離まで首を逸らして表情を改める。


「何から聞きたい?」

「この事後ってる状況から……って言いたいけど、色々あったでしょ?話しやすい順番でいいよ」

「分かった、じゃあ一応順番にいくね」


 そう言って彼女は手櫛で前髪をどけた。


「違法奴隷摘発作戦は概ね大成功だよ」

「あんなことがあったのに?」

「わたしとニカちゃんの担当以外、大番狂わせはなかったからね」


 とはいえ一切の狂いがなかったわけではないらしい。一部の奴隷商で想定していたより激しい抵抗が起こったようで、作戦の後半は王宮から追加の戦力を投入する羽目になったそうだ。


「第一フェーズの襲撃を賊の仕業にしたでしょう?あれが奴隷商を狙った義賊だって話にすり替わってて、あの日にその襲撃があるらしいって噂まで流れてたんだって。そのために用心棒を揃えてた店が多かったみたい」

「ダルザの工作だね」


 違法奴隷摘発作戦を利用して俺を釣り出し、苦境に立たせる。それがあのオネェの作戦だったわけで……となれば奴隷商ができるだけ衛兵や軍を釘付けにしてくれることが望ましい。

 そう考えたときに相応の実力を持った義賊による襲撃というシナリオは加減が丁度いいのだ。摘発があると聞けば逃げ出してしまっただろうが、個人や小規模なグループ相手に尻尾を巻くには、連中の商売は身動きが取りにくいからな。


「わたしは……まあ、ニカちゃんともども問題なし。詳しくはまた反省会がてら共有するね。二人とも後遺症とかトラウマとかはないから安心して」

「よかった。本当に、本当によかった」


 エレナの報告に俺は肺の中の空気を全て吐き切る勢いで安堵する。

 実際、かなり心配ではあったのだ。特にアレニカは相当惨い仕打ちを受けていた。精神的にもう戦えない状態に陥っていてもなんら不思議ではなかったのだ。


「エレナ、よく頑張ったね」

「あー、うん、まあ、そうだね、頑張ったよ、わたし」


 褒めてやったのに何故か目を泳がせるエレナ。

 俺が目を細めると、彼女はこちらが何か言うより先に「それでさ!」と話を戻した。


「それで、えー、あとは……正直報告できることがあんまりないんだよね、アハハ」

「怪しい……」

「怪しくない、怪しくない!ほら、五体満足だし!」


 彼女はそういって両腕と両足を絡ませて胸を押し付けてくる。

 あまりにも露骨な話題反らしに、折れあ深くため息を吐いた。


「ん、まあ、今はいい。事態の変化も……一週間ならそんな程度か」

「むぅ?わたし一週間って言ったっけ」

「月の満ち欠け」

「あー、なるほど。正解です」


 俺の王命違反や被害の責任は、とりあえず沙汰が決まっていないようだ。オルクス伯爵家としての功罪も確定しておらず、まだまだ物事は現場レベルを脱していないらしい。


「あと、その……アクセラちゃんのお父さんは」

「死んだ。最後は看取った」

「……そっか」


 エレナの眉間にしわがきゅっと寄る。

 俺とアドニスの関係がおよそ親子と呼べないものであることは彼女もよく理解しているはずだ。それでもビクターとの仲が良好な彼女にとって、父親との死別は悲しいことと映るようで。


「大丈夫だよ」


 俺はシーツの中から手を出して、ハニーブロンドのクセ毛を優しく撫でた。

 アドニスはその生涯の最後を父として飾ったが、俺に娘の役割をするだけの時間は残してくれなかった。そのことがいいことなのか、悪いことなのかは分からない。分からないが……それが事実だった。


(悲しいと言うより、やるせないな)


 そんな言葉を飲み込んで、俺はエレナに続きを訪ねる。


「遺体は?」

「今は冥界神殿の王都本殿に安置してもらってる。お葬式のこととか、なんにも決まってないからさ」


 冥界神殿なら遺体を腐敗しないよう保存することが可能だ。

 一応は貴族ということで、何を言わなくともそういう対応が受けられたようだ。


「葬式か。そういうことも考えないとね」


 ビクターやトレイスにも相談しないといけない。

 やることは山積みだ。


「ん、大体わかった。ありがと……それで、この状況の説明は?」


 少し遠回りをして元の話題へ。

 入院は三度目だが、前回も前々回も、目が覚めた時点で俺は服を着ていた。全裸の恋人による添い寝も、サービスには含まれていなかったと記憶しているが。


「あ、これはね……」

「主の寝込みを襲ってるトコ?」

「なわけないでしょ!?」


 べし。伸びて来た指先が額を弾く。


「意識不明の入院患者にそんなことしないよ!」

「意識不明の入院患者でなければするみたいな」

「バカばっかり言ってると帰るよ!」


 そう言いつつ顔が赤いのは何なんでしょうね。

 言及したら窮鼠に噛まれる間抜けな猫になりそうなので、俺はそっと口を噤んで彼女に説明を任せた。


「コホン。まず現状なんだけど、戦闘が終わって支援部隊が来たとき、もうアクセラちゃんは身体的にほとんど無傷だったんだよね。無傷っていうか、自己再生しきってたっていうか」

「ん」


 それは覚えがある。


「でも消耗が激しくて、休眠状態になってたみたい。今日まで一度も目を覚まさなかったし、先生がスキルで確認してもバイタルが凄く低い状態で安定してるって言ってたよ。たぶんだけど、鬼力の枯渇が問題だったんじゃないかな?」


 鬼力は生命活動により生産される変革のためのエネルギーだが、同時に生命活動で消費されるリソースでもある。その収支がプラスマイナスのどちらに偏るかで発揮される性質が変わるらしいのだが……そうか、枯渇すると休眠状態になるのか。


「消費のサイクルをできるだけ抑えて、生産に徹してたカンジだったね」

「魔力欠乏と同じか」


 魔法は周囲の外的魔力を内的魔力で動かして発動させるが、内的魔力が枯渇し魔力欠乏の状態になると大体の人間がぶっ倒れる。これは生きる上で必要な最低限の魔力を温存しつつ、一定ラインまで魔力回復に徹するという肉体の防衛機構だ。

 少し回復したからといってすぐ使っていたら、またすぐ枯渇に至るので、それを防ぐための仕様だと思われている。神が設計したのか、自然とそのようになったのかは知らないが。


「と同じことが鬼力にも言えるんじゃないかなって。あるいは傷ついた体が治ったあとに丈夫になること自体、鬼力が必要になるのかも?」

「ん、なるほど」


 筋肉はトレーニングで傷ついたあと、再生する過程でより強靭になっていく。この段階で鬼力が使われているというのは大いにあり得る話だ。

 実際、鬼力の適性が高かったという前世の俺はトレーニングの効果が他の人間より高かった。


(面白い考察かもしれないな)


 筋肉が再生する際に必要とする鬼力すら賄えない。このことをトリガーとして体を休眠状態に移行させる仕組みがあるとすれば……何かしら医学の分野で使えそうな知見だ。


(例えば体温が一定以下になると体は自動的に仮死状態になる。そういう防御的な仕組みが解明できれば、重傷者の延命にも役立つかもしれない)


 俺の分野ではないが、こうした発見の積み重ねが意外な領域での技術を花開かせるものだ。覚えておいて損はない。


「でもこの状況の説明になってない」

「まだそこまで行ってないもん」


 ぶすくれたエレナにまた鼻の頭をぺしっとされた。


「観察してたらさ、魔力が戻る端から消費されていくのね?で色々実験して」

「色々実験ってなに」

「まあ、色々な実験だよ。うん」


 一体この娘、昏睡状態の俺でなにをしていたのやら。


「それで!色々な実験の結果、たぶん魔力を消費して鬼力を補充してるんだろうなってトコまで推測がついたの」

「ん、すごい」


 勢いで乗り切ろうとする彼女にもう少し詳しく聞いてみると、どうやら鬼力を使える人間のサンプルとして「黄金剣」のオーウェンが手伝ってくれたそうだ。

 彼が率いるAランクパーティ「金蘭の探索隊」は「魔の森」への遠征に出かけたばかりだったが、王都の危急を聞きつけて戻ってきたらしい。そこをエレナに掴まってあれこれ手伝わされていたと。


(あとでお礼をしておかないと……)


 ラナ仕込みの侍女であるエレナがその辺を疎かにしているとは思えないが、相手は貴族ではなく冒険者だ。俺自身が何かしら恩に報いるべきだ。


(鬼力のデータは欲しいし)


 などという打算は一旦胸の内に仕舞って。


「それでエレナが魔力を補充してた?」

「そういうこと!」


 シレっと言っているが、とんでもない高等テクニックである。

 内部魔力は個人個人で波長が違うというか、特性が異なるのである。魔力ポーションを飲んでも、外部魔力を吸収しても、自在に操れる内部魔力にするためには自身の特性に染め上げる必要がある。

 既に個人の色に染まった内部魔力を他人に流し込んで、もう一度染め直して回復させるというのは……もうほとんど曲芸だ。


「ところがどっこい、わたしの魔眼ならそれが簡単にできちゃうのです」


 俺が驚嘆を露わにしていると、エレナがふんすと胸を張った。

 大きな果実が掛布の下で押し当てられ、俺の体温がまた薄っすら上がる。

 こういうのは押し当てられるより、不意に当たる方がなんか意識するよな。


「んんっ……共有と調律の魔眼、破格の性能だね」

「うん、使い勝手いいよ」


 使い勝手がいいなどというものではない。

 外部魔力を内部魔力にする手間を省いて支配し、他人の内部魔力にまで影響を及ぼせる魔眼だ。しかも魔力を繋いで意思疎通や視界の共有までできるのだから、恐ろしい能力である。


「狙撃もニカちゃんが目をやられてたから、わたしの目で狙って撃ってもらったしね」

「無茶苦茶……でも、よくやった。あれには助けられた」

「でしょ!」

 

 これまではエレナとアレニカで魔眼の開発を行っていたが、そろそろ俺もちゃんと混ざって連携を構築していかないといけないな。


「とりあえず今のところ、話せるのはそんなトコだけど。何かある?」

「ん、大丈夫」


 俺は頷き、エレナの肩に手をかける。それからベッドの上で身を滑らせ、体の大きな恋人に抱き寄った。


「アクセラちゃん?」

「いつも通りだ」


 ほっと息を吐く。

 他愛のない会話。年頃の少女が二人で繰り広げるには理屈っぽくて、少しむっと鉄の臭いがする。それを包み込む慣れ親しんだ体温と鼓動。


「ん、いつも通り」


 陳腐なほどにありふれた俺とエレナの空気感。それがどこか久しぶりに感じられ、このところ心乱されてばかりだったのだなと、改めて思う。


「なんかちょっと、雰囲気変わったね」

「そう?」

「うん」


 腕の中でエレナがくすりと笑う。


「なんだか昔のアクセラちゃんみたいな雰囲気。でも、もっと暖かい。悪くないと思うよ」

「……そっか」


 悪くない。その言葉に俺も小さく笑って、彼女の額に口づけを落とした。


「ただいま、エレナ」

「もう、どしたの?」

「長かったなって、そう思っただけ」


 困ったように笑うエレナの髪を撫でながら、俺はゆっくりと二度寝に落ちていった 。


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