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02 彼女を救ったのは…。

婚約を破棄された悲しみからフィリアは部屋のベッドで一人泣いていた。今までいろんな不幸があったけれど、どれも一人でぐっと耐えてきた。しかし今回ばかりは立ち直れるのかどうか分からない。それくらい絶望していた。


フィリアはゆっくりとベッドから起き上がると、頬に流れる涙をぬぐった。そしておもむろに立ち上がり、向かったのは部屋のバルコニーだ。

手すりに手をかけ眼下の様子を確認する。フィリアの部屋はお屋敷の3階にある。下は芝生になっているが、ここから飛び降りたら命を断てるだろうか…。それくらいフィリアは憔悴しきっていた。


下から吹きあげてくる風にフィリアの金色の美しい長い髪が乱れる。一度思い切り息を吸って吐き出す。


もういい。もう全てを終わらせよう。18年間、十分に償ったではないか。前世の自分がしてきたことに対して相手がどれだけ傷付き悲しんだのか。前世の自分は女から男を奪う側だった。しかし、生まれ変わり、奪われる側になった。一度決まった大好きな人との婚約を破棄された今なら前世の自分の悪女ぶりがよく分かる。もう分かったから、この償いの人生を終わりにしてもいいだろうか…。


フィリアはついに覚悟を決めた。手すりを握り、上体をゆっくりと外側へ倒していく。徐々に両足が浮いてきて、このまま倒れていけば体を地面に落下させることができる。


ごめんなさい。前世の私に関わった全てのみなさん。ありがとう。今の私に関わってくれたすべてのみなさん。そして神様。フィリアはもう全てを償いました。どうかもう終わりにしてください。どうか………。心の中でそう願ったときだった。


「フィリア!!!」


突然、何かに腕を掴まれたかと思うと後ろに思いきり強く引っ張られた。瞬間、背中に温かいものを感じる。


「フィリア!お前、何をしようとしていた」


振り向くと見知った青年の顔がすぐ近くにあった。青年の長い脚の間にフィリアはすっぽりと収まり、太く逞しい腕はフィリアの腰にしっかりと巻き付いている。フィリアを前に抱くような形で二人はバルコニーの床に尻餅をついていた。


「ギルバート?」


ギルバート、と呼ばれた青年は大きくため息をつくと、フィリアの腰に回していた腕をほどいた。そして短い黒髪の頭をわしゃわしゃとかきむしりながら、フィリアに対して呆れた表情を見せる。


「お前、もしかして死ぬ気だったのか?」


ギルバートに問われてフィリアは何も答えられずに俯いた。それを自分の問いに対する肯定だととらえたギルバートはもう一度大きくため息をつくとゆっくり立ち上がった。そして、座り込むフィリアの両脇に手を入れるとぐいっと思いきり持ち上げる。そのままフィリアの膝の裏と肩に手を回すと、軽々と横抱きにしてしまった。


「ちょっと、ギルバート?」


突然、宙に持ち上げられたフィリアは訳が分からずに抗議の声をあげる。しかしそんなことはおかまいなく、ギルバートはフィリアを横抱きにしたままずんずんと歩き出し、部屋の中へ足を踏み入れる。そしてフィリアをふかふかのベッドの上に優しくそっとおろしたのだった。



****


ギルバート・イクスドールは名門貴族アクシュワード家に次ぐ名門イクスドール家の長男であり、フィリアがずっと片思いをしているサムの歳の離れた兄である。半年前に前の当主である父親が突然の病で命を落としたため当主についたばかりだった。


イクスドール家は王家の命により代々この街の治安を守ってきた貴族家でもあり、男は全て騎士となるべく育てられた。そして当主となったものは同時に街の守備隊の隊長を任される。ギルバートもまたイクスドール家の当主となった半年前に、守備隊の隊長の任に就いた。


イクスドール家の当主となり、28歳という年齢もあるので、彼の母親はギルバートには早く結婚をして家庭を持ってもらいたいと思っているのだが当の本人にはまったくその気がない。見合いの話はいくつも貰っているのだが、その全てを断ってしまうのだ。どうやら、嫁にしたい女性がいる、と周囲には漏らしているらしいのだが…。


サムとフィリアが幼馴染であるように、ギルバートもまたフィリアのことを幼い頃から知っていた。

名門貴族アクシュワード三姉妹といえばとても有名で、長女のリリアンはそれほど美人ではないが明るく優しく気の利く女性で、三女のミリーナもまた平凡な顔つきをしているが活発で気の強い女性だ。そしてその間に挟まれている二女のフィリアはおそらく国一番なのではないかと噂されるほどの美貌を持っていたが、性格は内向的で人見知りととても残念だった。


ギルバートとフィリアが初めて会ったのは貴族家のパーティーであり、ギルバートが15歳、フィリアは5歳だった。ギルバートの一目惚れだった。10も歳の離れた少女に一目惚れをするなんて自分でも信じられなかったが、フィリアはあのときからもうすでにとても可愛らしい少女だった。

流れるように美しい金色の髪、くりっとした大きな目は見つめるものを吸い込んでしまいそうなほど澄んだ青色の瞳を持ち、滑らかな白い肌は思わず触れてみたいとさえ思った。


話しかけてみればその華やかな容姿からは想像もできないほど内気な性格だった。年上のギルバートを前に緊張しているのか、頬をほんのりとピンク色に染めながら自分を見上げて話す姿がもうとにかく可愛かった。一瞬で心を持っていかれた。あれからどんなに素敵な女性を見てもフィリアを超す者は現れない。ギルバートはすっかりフィリアの美しさの虜になっていたのだ。




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