表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第三部

※R指定

(文中に性的な表現が含まれておりますのでご注意下さい)




ネ・・・・ネボスケ

長・・・・長老

若・・・・若頭

チ・・・・チーフ

イ・・・・イブイブ

キ・・・・キリスト





チ 「ぐぎゃあぁぁああぁぁ!!」



恐怖のあまり、目をつぶってしまった僕の耳に、チーフのものと思われる断末魔のような声が聞こえてきた。目を開けて見てみると、そこには身体を切り裂かれたチーフと、その横になんと若頭が立っていたのだった。



若 「チーフさんよう、味な真似をしてくれるじゃねえか。おかげでさすがのオレも死にかけたぜ。」

チ 「うっ・・・・、なぜ、お前がここに?」

若 「貴様に制裁を与えるためだよ。死ね!」


チーフにとどめを刺す若頭。息絶えるチーフ。


ネ 「あのう、若頭、助けてくれてありがとうございます。」

若 「あん?」

ネ 「ひょっとして僕のテレパシーが通じて、助けに来てくれたんですか?」

若 「テレパシー?何のことだ。それに貴様を助けたわけじゃねえし。」

ネ 「え、じゃあほんとにただチーフを殺すためだけに来たんですか?」

若 「ああ、そうさ。それともうひとつ。」

ネ 「?」

若 「指輪だ。」

ネ 「!!」

若 「このやろうも指輪目当てで、抜け駆けしやがったんだろ?」

ネ 「そう言ってましたが・・・・。」

若 「こいつ、あほだな。例え指輪を持ってても、受精能力がなければ、玉姫様と融合することなんてできねえのに。」

ネ 「え、やはりそうなんですか?なら、アタッカーである若頭が指輪を手に入れても意味ないのでは・・・・。」

若 「そうさ。・・・・さっきまではな。」

ネ 「さっきまで?」

若 「ただでさえ我が部隊のセイシ達は消耗しきっていたのに、このくそが抜け駆けしやがったせいで、部隊の統率性まで失っちまったんだ。戦場はまさに修羅場と化した。」

ネ 「・・・・。」

若 「このオレも何度も死にかけたよ。生死の境をさまよい、それでも戦い続けていると・・・・身に付いたんだよ。このオレにも。」

ネ 「何がです?」

若 「受精能力だ。」

ネ 「そ、そんな?!受精能力はエッグゲッターだけが身に付けられるものなのではないのですか?」

若 「アタッカーセイシに受精能力が身に付くこともごくまれに起こり得るんだよ。」

ネ 「そんな・・・・。」

若 「受精能力が身に付いたとわかった時、オレは悟った。」

ネ 「・・・・。」

若 「アタッカーとしての最強のチカラと受精能力の両方を兼ね備えたオレは、『伝説のスーパーセイシ』なのだと。」

ネ 「伝説の・・・・スーパーセイシ・・・・。」

若 「つまり、玉姫様と融合を果たすのはオレしかいない、とな。」

ネ 「そんな、そんな・・・・。」

若 「どうだ、指輪を渡す気になったろう。」

ネ 「・・・・でも、若頭がいくら伝説のスーパーセイシであろうと、この指輪は長老が僕に託してくれたものなんです。それに鶴亀や他の死んでいったエッグゲッターのみんなの思いも、この指輪には詰まっているんです!」

若 「へっ。そうかよ。なら冥土の土産にもうひとつ面白い話をしてやるよ。セイシにはな、あらかじめ『男』として生まれるか、『女』として生まれるかっていうのが決まってるんだぜ。」

ネ 「なんだって?!」

若 「俗に言う『オトコセイシ』か『オンナセイシ』かってことだ。ちなみにオレはオンナセイシだ。貴様は見たところ、オトコセイシだな。」

ネ 「・・・・僕がオトコセイシ?」

若 「よおく想像してみやがれ。貴様のような軟弱なセイシが人間の男として生まれて、いったいどんな活躍ができるってんだ?あん?」

ネ 「そ、それは・・・・。」

若 「落ちこぼれのひきこもりで、ニートになるのが関の山だろうな。」

ネ 「!!」

若 「一方、アタッカーセイシ最強のオレはと言えば、社会でバリバリ活躍する強い人間の女になるに決まってんだ!」

ネ 「!!」

若 「これからは、強い女の時代だ。軟弱な男など誕生したところでクソの役にも立たねえんだよ。」

ネ 「うっ!」

若 「状況は変わったんだ!今ならきっと長老もこのオレに指輪を託していただろうさ。さあ、おしゃべりはここまでだ。うしろからは敵が迫っていやがる。さっさと死にな。」



僕は若頭の言葉に反論することができなかった。あろうことか納得してしまったのだ。もはや抵抗する気力も起きなかった。いや、抵抗したところで、相手はアタッカー最強の若頭。どうすることもできないだろう。僕がそんなあきらめの境地になっている時、ある異変が起きた。


気配を消して若頭の後ろに忍び寄る黒い影。そしてその黒い影は後ろから若頭の急所にナイフを突き刺した。



若 「うぐはぁっ・・・!!だ、誰だてめえ?!!」

長 「若頭、まだまだじゃのう。」


なんとその黒い影は長老だった。


ネ 「長老?!」

若 「ちょ、長老だと・・・・?!なぜだ!あんたみたいな老いぼれがあの修羅場と化した戦場で生き残れるはずが・・・・うっ・・・・。」

長 「ふっふっふ。なめてもらっては困るのう。」

若 「そ、それに気配を感じさせずにこのオレの後ろに回り込むなんて・・・・老いぼれになどできるわけがねえ・・・・のに。」

長 「自惚れ過ぎじゃぞ。若頭。」

若 「オレは最強のはず・・・・。」

長 「ふっふっふ。おぬしも聞いたことがあろう。『漆黒の暗殺セイシ』の噂を。」

若 「あん?ああ、聞いたことあるぜ。そいつに一度狙われて助かった者はいない・・・・と言われた程の伝説の最強アタッカーセイシだろ?」

長 「うむ、そうじゃ。」

若 「だがそいつは、とっくのとうに死んでるはずだが・・・・。」

長 「そいつは暗殺稼業から足を洗い、一度死んだと見せかけ、そののちブロッカーセイシへと転職。若者セイシの育成にその半生を捧げることになるんじゃ。」

若 「ブロッカーセイシへと転職だと・・・・?ま、まさか・・・・。」

長 「そう、そのまさかじゃ。」

若 「あ、あんたが漆黒の暗殺セイシだというのか?」

長 「現在最強セイシと呼ばれるおぬしの背後に回り込めるのは、わしぐらいのものじゃろう。そしてそれがわしが漆黒の暗殺セイシであったことを証明したと思うがの。」

若 「うぐはぁっ・・・・な、なんてこった・・・・。」

長 「全盛期に比べて体力はかなり落ちたが、これぐらいのことは朝飯前じゃ。」

若 「だが、なぜ?!なぜだ!!最強のこのオレが!玉姫様と融合することが最もふさわしいはずだ!!」

長 「・・・・おぬしは危険じゃ。人間になったら何をしでかすかわからん。わしの本能がそう言うとるんじゃ。」

若 「ふ、ふざけんなじじい・・・・。オレのような『できる女』がこれからの時代に最も必要な人材なんじゃねえか・・・・うっ・・・。」

長 「おしゃべりはここまでじゃ。死ね、若頭。」


若頭にとどめを刺す長老。息絶える若頭。


ネ 「・・・・。」

長 「ネボスケ、何をボサッとしておる?」

ネ 「え、は、はい?」

長 「後ろから敵が迫っておる。はよう、行くのじゃ。」

ネ 「長老はどうなさるのですか?」

長 「わしはもうだめじゃ。体力が底を尽きよった。それにわしは、そろそろ寿命のようじゃ。」

ネ 「でも、どうしてここに来てくださったんですか?」

長 「おぬしがテレパシーで呼んだんじゃろうが。」

ネ 「僕のテレパシーが?!・・・・通じたんですか。」

長 「もう一緒には行ってやれんが、子宮殿はすぐそこじゃ。大丈夫じゃろう。」

ネ 「・・・・長老、僕に指輪を託したのは間違えでしたよ。」

長 「む?何を言うのじゃ?」

ネ 「若頭が言っていたように、僕は強くもなく、何の取り柄もない、ただの軟弱なセイシです。」

長 「・・・・。」

ネ 「鶴亀のように、夢を思い描いているわけでもない。自分が何をしたいのかわからないんです。」

長 「・・・・。」

ネ 「それに、それに、僕は卑怯者なんです!だって、さっき、鶴亀と他のエッグゲッターたちを見捨てて、一人で逃げてきたんですから!!」

長 「もうわしは何も言わんぞ。」

ネ 「え?!」

長 「わしはさっき、本能のままにゆけと言ったじゃろう?じゃからあとは、おぬしが決すればよい。人間になろうが、ここで朽ち果てようが、の。」



鶴亀たちを見捨てて一人逃げたことに対する後悔が今頃になって、僕の胸にこみ上げてきた。



ネ 「・・・・長老、ひとつ聞いていいですか?」

長 「なんじゃ?」

ネ 「さっきから、目から不思議な液体が溢れ出してきて止まらないのですが、これは何なんでしょう?」

長 「そ、それは、おぬし!!」

ネ 「生暖かいこの液体が止めどなく溢れてくる。僕は病気なんでしょうか?」

長 「それは『涙』というものじゃ。」

ネ 「涙・・・・?」

長 「そうじゃ。人間の世界で『最も尊い』とされておるものじゃ。わしも長年セイシをやっておるが、涙を流すセイシを見たのは、おぬしが初めてじゃ・・・・。いやはや。」

ネ 「僕はただ、自分の不甲斐なさに腹が立って、腹が立って・・・・。」

長 「やはりわしの目に狂いはなかった。おぬしは他の者を思いやる気持ちを持っておる。これはセイシの世界では奇跡的なことなのじゃ。」

ネ 「思いやる・・・・気持ち?」

長 「鶴亀たちもそれがわかっていたからこそ、おぬしに希望を託したのじゃよ。」

ネ 「鶴亀たちが・・・・?」

長 「さあ、ネボスケよ。迷わず行くのじゃ。行けばわかるぞい。」

ネ 「!」



僕はその時初めて『本能』というものを感覚的に理解できたような気がした。悩む必要などない。そう、選択肢は二つしかないのだ。『行きたい』か、『行きたくない』かだ。そして僕は、


行きたいのだ!

人間になりたいのだ!

人間になっていろいろなことをやってみたいのだ!!



ネ 「わかりました、長老。僕は、本能のままに行きます!そして必ず人間になってみせます!!」



僕は吹っ切れた気持ちでそう言い放ったが、その時長老は、すでに息絶えていた。・・・・悲しさと寂しさが胸にこみ上げてきたが、それをぐっとこらえ、長老に一礼をし、僕は再び前へ走り出した。


決して後ろを振り返ることなく。



BGM:「ロッキーのテーマ」



程なくして、僕は子宮殿らしき建造物に到着した。周囲にはそこかしこにセイシ達の亡骸が転がっていた。



ネ 「ついに来た。ここが子宮殿・・・・なのか?」



子宮殿らしき建造物の前に立つと、僕を迎え入れてくれるかのように扉が自然と開いた。そして僕が中に入ると、扉は自然と閉じた。中はとても広く、ひんやりとしていて、そして静寂に包まれていた。これまで通ってきた灼熱地獄や、戦場での乱れ飛ぶ怒号などが嘘であったかのように。


しばらく前へ進んでいくと、そこには先ほどより大きな扉がそびえ立っていた。そしてその大きな扉の前には一匹のセイシがたたずんでいた。



イ 「やっと来たのであるな。」

ネ 「君は?」

イ 「自分は23日にこのシーワールドに送り込まれたセイシの一匹である。そういう君は24日に送り込まれたセイシの一匹なんであろう?」

ネ 「はい、そうです。あれ、でも君らの部隊は僕らの部隊に滅ぼされたんじゃ?」

イ 「君らとの戦闘になる前に一部のエッグゲッター達は、先行して子宮殿に向かっていたのである。」

ネ 「そうだったんですか。考えることはみんな一緒かぁ。」

イ 「一緒であるとは?」

ネ 「君らの部隊を滅ぼした後、後方からさらに新たな敵セイシ部隊がやってきたんです。」

イ 「なんと!」

ネ 「もはや勝てる見込みが少ないと見て、僕らエッグゲッターのみを先にこの子宮殿に向かわせ、残りのアタッカーやブロッカー達は玉砕覚悟で敵セイシ部隊を食い止める、という作戦に出たのです。」

イ 「なるほど。つまり、君の後ろにいるセイシが、その新たな敵セイシの一匹というわけであるな?」

ネ 「え?」


後ろを振り向くと、そこには一匹のセイシが立っていた。


キ 「やあやあ、お二方。こんなとこでのんびりおしゃべりしちゃってるとこを見ると、まだ誰も玉姫様と融合を果たせていないというこったね。」

ネ 「君が後方からやってきた新たな敵セイシ部隊のセイシ・・・・。」

キ 「そういうお前さんは、オレらの前に立ちはだかった敵セイシ達の一匹というこったな。そんでそっちのセイシ君は?」

イ 「23日に送り込まれたセイシである。」

キ 「なるほどなるほど。つまり、異なるルーツから生まれた三匹のセイシが勢揃いしたってわけだ。」

ネ 「・・・・。」

キ 「とりあえず、自己紹介でもしとくかい?オレは25日、つまりクリスマスに送り込まれたセイシだ。名前はそうだな。『キリスト』とでも呼んじゃってくれ。」

ネ 「キリスト・・・・。」

イ 「自分は23日に送り込まれたセイシである。名は『イブイブ』とでも呼んでもらいたいのである。」

ネ 「僕は24日、つまりクリスマスイブに送り込まれたセイシです。名前は『ネボスケ』と言います。」

キ 「は?ネボスケ?なんで~?」

ネ 「寝坊したので、そう名付けられました。」

キ 「くっははは。ダサっ。てっきり、『イブ』とか『トゥエンティフォー』とかいう名前だと思ってたら、ネボスケって。」

ネ 「笑わないでください。」

キ 「おお、こりゃ失敬。」

イ 「名など、ただの記号にすぎないのである。」

キ 「そりゃそうだな。」

ネ 「あのう、先ほどからひとつ気になっていたのですが、」

キ 「ん?なんよ?」

ネ 「どうしてお二方とも、お一匹なんですか?」

キ 「うん?お前さんだってお一匹じゃねえか。」

ネ 「そうですが、僕の場合はちょっと事情があって、一匹になってしまったのです。」

イ 「その事情というのは、ひょっとして『仲間割れ』のことであるかな?」

ネ 「あ、そ、その通りですが・・・・。」

イ 「やはりそうであったか。君は、子宮殿へと続くあの道の名を知っているであろうか?」

ネ 「子宮殿前のあの最後の道のことですか?いえ、わかりませんが。」

イ 「あの道は、通称『仲間割れの道』と言われているのである。」

ネ 「仲間割れの・・・・道?」

イ 「そうである。セイシ達は子宮殿を前にすると、人間になりたいという欲望が最高潮になるのである。そして必然的に仲間割れが起こるのである。」

ネ 「イブイブさんの部隊でも仲間割れが?」

イ 「無論。ここまであんなに協力してお互いに頑張ってきた仲間達が結局最後は殺し合うことになるのである。」

ネ 「・・・・。」

イ 「戦闘能力を持たない我々エッグゲッターの殺し合いとは、実に醜いものなのである。自分はただそれを傍観していたのである。」

ネ 「止めようとは思わなかったのですか?」

イ 「もはや止めようがないであろう。それがセイシとしての本能なのであるから。結果、傍観していた自分が一匹だけ残り、あとは死んでしまったのである。」

イ 「そうだったのですか。キリストさんの部隊でも仲間割れが?」

キ 「ああ、確かに仲間割れは起こったさ。しかし、おかげさまでうちの部隊は生存数が多かったもんで、相当数のセイシ達が生き残ってこの子宮殿に到着したさ。」

ネ 「え、ではなんでキリストさんはお一匹なんですか?」

キ 「うん、それがさ、最初にオレが子宮殿に入ると、自然と扉が閉まっちまったんだ。それ以降、扉はウンともスンとも言わなかったってわけ。」

ネ 「じゃあ子宮殿の外には、」

キ 「ああ、うちのセイシ部隊が待ちぼうけ食ってるだろうな。」

ネ 「それで一匹で来たんですか。」

キ 「まあな。うちの部隊全員で入ることができていれば、今頃お前さんらをぶっ殺しーの、その扉を開けーの、玉姫様と融合しーのってスムーズに出来てたんだろうけどな。そううまくはいかんらしい。」

ネ 「僕らを殺すつもりだったんですか?」

キ 「当たり前ってやつ。敵なわけだし。でも一匹だから仕方なく、こうやって平和的に会話を重ねているってわけよ。」

イ 「キリストとやら、残念であったな。これは自分の推測であるが、この子宮殿には『定員制限』があるのであろうと思われるのである。」

キ 「定員制限だと?」

イ 「そうである。ここは玉姫様のおわす神聖なる子宮殿である。そこに大部隊を引き連れてドカドカと入ってこられては、玉姫様に迷惑千万なのである。」

キ 「まあ、言われてみれば、そうだな。」

イ 「よってこの子宮殿には定員制限システムが設けられているのであろう。そしてその定員数は、三匹ということなのであろう。」

キ 「そういうことかよ。まったく、勇気を出して一番最初に入っておいてよかったぜ。ふ~。」



キ 「それで本題に入るけどさ、オレとネボスケがここに来るまで、随分時間があったと思うが、イブイブは今まで何してたわけ?」

イ 「確かに時間はたっぷりとあったのである。そして、玉姫様と融合を果たせるのは自分なのだと確信していたのである。」

キ 「うん、それで?」

イ 「その大きな扉を開けようとしたのである。」

キ 「でっけえ扉だこと。」

イ 「そうしたら、開かないのである。」

ネ 「え?」

イ 「君らがここに来るまで相当な時間があったのである。ずーっと開ける努力をしていたのである。・・・・開かないのである。」

キ 「そうなのであるか。」

イ 「・・・・口調を真似してほしくないのである。」

キ 「あ~悪ぃ悪ぃ。え、でも開かねえってどういうことよ?ちょっとオレがやってみちゃうよ?」


全身全霊の力を込めて、扉を押すキリスト。


キ 「ふんぐぅぅう!!・・・・・ハアハア、こりゃびくともしねえな。おいネボスケ、お前さんもやってみな。」

ネ 「は、はい。」


全身全霊の力を込めて、扉を押すネボスケ。


ネ 「うにゅうぅぅぅう!!・・・・ハアハア、駄目です。まったく動く気配がありません。」

キ 「まさか、『引き戸だった』なんていうオチでもあるまいし、いったいどういうこったろな。」

イ 「おそらくこの扉の奥が『玉姫様の間』なのであろうが、この扉が開かなければどうにもならないのである。」

キ 「おいおい、まさかここまで来て門前払いってことはねえよな。」

イ 「いや、あり得ない話ではないのである。玉姫様は気まぐれなお方だと聞いたことがあるのである。」

ネ 「そ、そんな~。」

キ 「すべては玉姫様の御心次第ってわけね。どんなに苦労してここまでたどり着いたとしたって、何の意味もねえ。世知辛い世の中よ。」

ネ 「ちょっと待ってください!諦めるのはまだ早いですよ!」

イ 「自分はかれこれ、数時間以上も試行錯誤を繰り返したのである。それで駄目だったのである。つまり、この扉は今開かないということである。」

ネ 「それは・・・・、いや、でも・・・・。」

キ 「『セイシたる者、潔くあれ』って言うだろ。諦めが肝心なんだよ。」

ネ 「でも・・・・。」

キ 「よおし、オレは気持ちを切り替えるぞ。セイシの寿命は七日間と言うから、残りの人生をここでどう過ごすかをオレは考えるぜ!」

ネ 「キリストさん、切り替え早過ぎますよ。ちょっと待ってください。イブイブさん、さっきこの子宮殿の定員が三匹だと言ってましたよね?」

イ 「確かに言った。三匹目、つまりキリストが入って以降、入り口が開かないのであるから、定員は三匹であることが予想されるのである。」

ネ 「この三匹という人数に僕は意味があると思うんです。」

イ 「意味だと?」

ネ 「つまり、三匹でチカラを合わせて扉を開けるんじゃないかって。」

キ 「三匹で?」

イ 「チカラを合わせてだと?」

ネ 「そうです!」

キ 「ぷっ、くっははは!その発想はなかったぜ。ネボスケは面白いことを考えやがるな。」

イ 「ちょっと待つのである。味方同士ならいざ知らず、敵同士でチカラを合わせるなど、自分はご免被るのである。」

ネ 「なんでですか?!もはや、敵だ味方だと言っている時ではないでしょ!」

キ 「異なるルーツより生まれし三匹のセイシ達が、ここに来て協力し合うってわけか。くっははは。新しいね、それ。オレは好きよ、そういうの。」

イ 「自分は我が部隊の代表のつもりで、今ここに立っているのである。敵セイシ共とチカラを合わせるなど、死んでいった仲間達が許してくれるはずもないであろう。」

ネ 「イブイブさん!みんなの願いはなんでしたか?!」

イ 「願いだと?それは、人間になることに他ならないのである。」

ネ 「だったら!だったら、今僕らがすべきことは、お互いいがみ合うことじゃないはずです!」

イ 「ぬっ!」

ネ 「今僕らがすべきことは、なんとしてもこの扉を開けることです!」

キ 「『Yesterday's enemy is a friend today.』ってやっちゃな。どうよ、イブイブ、やるだけやってみねえか?」

イ 「うぬぅ・・・・。三匹でどうにかなるものとは思えぬが、悔いを残して朽ち果てるは、自分の望むところではない。やってみようではないか!」

ネ 「よーし、絶対に開けてやりましょう!」

キ 「よっしゃあ!いっちょ、かましてやるぜ!」

イ 「死んでいったみんな、自分に力を!」



ぐぉぉぉぉぉおおぉおぉぉぉ!!


三匹は持てるチカラをすべて使って、懸命に扉を押した。しかし、扉はびくともしなかった。



キ 「やっぱ、駄目かよ・・・・。」

イ 「我々は来るタイミングを間違えたのである。よって、この扉は今決して開かれないということである。」

ネ 「ハアハア・・・・。」

キ 「しゃあねえしゃあねえ。さあてと、残りの人生をどう過ごすかな~。」

ネ 「・・・・待ってください。」

イ 「まだ、何か言うのであるか?」

キ 「さすがに、諦め悪ぃぜ?」

ネ 「今のは、『扉を開けたい』という気持ちが足りていなかったんです。」

キ 「はあ?」

イ 「気持ちだと?気持ちでどうにかなる問題ではないであろう。」

ネ 「僕は子宮殿に来る前、殺されかけました。」

イ 「・・・・仲間割れであるな?」

ネ 「はい。その時、何度も心の中で叫びました。『誰か助けて!』と。」

キ 「それで、助けは来たのかよ?」

ネ 「はい。僕の気持ちが通じて、あるセイシが助けに来てくれました。そのおかげで僕は今ここにいます。」

イ 「それはつまり、テレパシー能力ということであるか?」

ネ 「おそらく、そうなんだと思います。」

イ 「テレパシーは本来、ブロッカーセイシ達が得意とする能力である。エッグゲッターである我々にできるとは到底思えないのであるが・・・・。」

ネ 「テレパシーなんて難しいことは僕にもよくわかりません。ただ、大切なのは『強く思うこと』だと思うのです。」

キ 「強く願えば、通じるってわけか。」

ネ 「さっきのは気持ちが足りていなかったのかもしれないです。」

イ 「気持ちが足りていないと言われてもな・・・・。我々はどうしたらいいのであるか?」

ネ 「僕らの願いは、この扉を開け、玉姫様とお会いし、そして人間になることです。」

キ 「そうだな。」

ネ 「その気持ちを中にいるであろう玉姫様に精一杯飛ばすんです!」

イ 「つまり、心の中で玉姫様へ向けて気持ちを精一杯伝えるということであるな?」

ネ 「そうです。そうすれば絶対に気持ちは通じるはずです!」

キ 「・・・・よし、こうなったらとことんお前さんに付き合ってやるよ。ただし、これが最後だ。これで駄目なら、ジ・エンドだ。」

ネ 「わかりました。」


キ 「よっしゃ!泣いても笑ってもこれが最後だ。てめえら、死ぬ気で押しやがれ!」

ネ 「そして、玉姫様に僕らの気持ちの強さを精一杯伝えてやりましょう!」

イ 「玉姫様ぁぁぁぁっ!!」



ぐおぉぉぉぉおおおぉぉぉおおぉっ!!


うんにゅぅぅぅううううぅううぅうぅ!!


ふんぐぅぅぅぅううぅぅうぅぅうううぅ!!



僕らは、扉を懸命に押しながら、心の中で『人間になりたい』という気持ちをまだ見ぬ玉姫様に向けて必死に念じ続けた。それは、決して相容れることのない異なるルーツより生まれし三セイシの気持ちがひとつになった瞬間でもあった。そしてその時!



キ 「!!」

イ 「!!」

ネ 「!!」



三匹は頭の中で、同時にある言葉を聞いたのだ。



? 「ウフフ。ア・ケ・タ・ゲ・ル。」



その言葉が聞こえた次の瞬間、今までびくともしなかったこの大きな扉が音を立てて開かれていった。




完結編へつづく




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ