襲来
「空亡の騒動に巻き込まれて死んだのかと思っていたけど、しぶといのね。おかげで旦那の仇をこの手でとれるけど」
チュパカブラに向かって静かに宣言するエリス。
「私が仇ねぇ……」
それに対してため息まじりに笑って返すチュパカブラ。
安い挑発に乗るエリスではないが、面白くは無い。
「随分と余裕ね。それなら多目に殴っても良いわよね」
「だから、そんなこと言ってるあなたに呆れているの。言っとくけど、私はあなたの夫の血は、ほとんど吸っていないわ。ほぼ全て、リャナンシーが独り占めしちゃったんだから。佐伯 新矢を殺害したのも彼女。夫の仇をとりたいのなら、リャナンシーの方に行ってきなさい」
「なにそれ? 死んだ仲間に責任転嫁? 褒められたことじゃないわよ?」
腰に両手を当てて、ため息をついてみせるエリス。
それを見て吹き出すチュパカブラ。
「何も知らないのね、貴女達。本当に最精鋭ごときでアイツが討てると思ってるの? いいわ、教えてあげる。あのリャナンシー、ゲヘナはねぇ。貴女の夫を含めて5人の俊紅の血を吸っているの。本気で暴れたら神クラスにも匹敵する奴なのよ? 絶対に本物はどこかで生きているわ」
「5人分の俊紅……」
「あの〜、チュパカブラさん? その話、僕も初めて聞いたんけですけど……」
「そりゃそうよ。貴方に教えてあげる義理なんてないんだからぁ」
絶句するエリス、険悪なビホルダーとチュパカブラ。
「ちょっと、エリス姉。手が空いているなら、こっち手伝って!」
木の葉縛りでエリゴールを拘束する余白が悲鳴をあげる。
「待ってて余白ちゃん!」
リディアの応急処置を終えたリリスが拘束されているエリゴールに狙いを定め、右手の指から5本の爪を発射する。
そしてそれは、エリゴールに刺さると爪同士を線で結んで五芒星を描く。
『五芒封式』
エリゴールは自身に刻まれた五芒星に集束していき、手のひらほどの大きさの、結晶に封印される。
「コレであんた達の相手をできるわね」
エリゴール、そしてクリスによって封印されたアモンを横目にチュパカブラに言い放つエリス。
「舐められたものね」
いうと同時に自身の影をエリスに向かって伸ばす、チュパカブラ。
まっすぐ伸びてくる影を避けながらチュパカブラに向かっていくエリス。
そこを狙ってビホルダーが閃光を放つ。
それも紙一重でかわすエリスだったが、着ていた服の肩を焦がされ、ビホルダーを睨みつける。
「ひぃっ!」
「貴方が一番、舐めているわね。ビビってなんかいないんでしょ?」
チュパカブラはエリスから目を離さず、ビホルダーに呆れる。
「フン。ほら出番よ」
そう言って舌を出すチュパカブラ。
その舌にはビホルダーの目玉が取り憑いていて、エリスに向けて閃光を放つ。
ワンテンポ遅れてビホルダーも2射目を放ち、2つの閃光がエリスに襲いかかるが、それを翼を広げて急加速する事で回避し一気に距離を縮める。
「くっ!」
チュパカブラはナイフを取り出し、影の転移を使ってエリスの左左横から裂しにくるが、翼でナイフをはたき落とされてしまう。
「もらったぁ!!」
エリスがチュパカブラに渾身の右ストレートを見舞うが。それはチュパカブラを突き抜け、空を切る。
「なに?! 偽物?」
エリスが言い終わると同時に背後に、チュパカブラが現れる。
「この距離なら避けられないでしょ?」
「しまった?!」
吸血されると覚悟したエリス。
しかしそれは行われずに、チュパカブラが動けない、と口にするだけにとどまる。
「秘儀・影縫い」
リリスの言葉がホテルの廊下に響き渡り、それを合図にエリス渾身の回し蹴りがチュパカブラの頭部に炸裂する。
「本当にだらし無い……」
その光景を横目に、ため息をつくムルムル。
1人、エルフの戦士メイアと対峙していた。
「いいわ。全員、アタシが空いてあげる」
そう言ってムルムルは翼を羽ばたかせて、そこから抜け落ちた羽根がグリフォンに姿を変え、エルフの戦士達と、エリス達に襲いかかる。
「くっ、数が!」
グリフォン達に圧倒される余白。
「援護して、余白! ママ!」
狙いをムルムルに定めて飛翔するエリス。
迫りくるグリフォン達を無視して、ムルムルに接近戦を挑む。
すれ違う様に交差するエリスとムルムルだが、この時エリスは膝をムルムルの腹部にめり込ませ、ダメージを与えた。
しかしムルムルもただではやられず、右手に出現させたビホルダーの本体を園ひざにおしつけ、閃光を放つ。
身をよじるなどして回避を試みるエリスだったが、閃光が足をかすめる。
「くっ……」
受けてしまったダメージはどうしょうもないと割り切り、エリスは翼による飛翔でその場に留まり、反対側の足でムルムルの後頭部を蹴り飛ばし、戦闘不能にさせる。
「あ〜、これはピンチってやつですかね」
1人残されたビホルダーが緊張感の無い口調で宣言したその時、戦場の真横の部屋に何かが突入してきたのがわかった。
圧倒的なパワーとプレッシャー。
それをもつ者が壁一枚隔てた隣の部屋にいる。
廊下の戦場が、一瞬で静まりかえると次の瞬間、何かが壁をぶち破って廊下に飛び出してくる。
「カーバンクルさん……」
ビホルダーの言葉通り廊下に飛び出してきたのはカーバンクルだった。
「一体何が……」
メイアが呟きながら、カーバンクルが飛び出してきた穴から中の様子を伺うと、そこには男が1人立っていた。
『シア様?!』
活動可能なクリスとメイアが叫び、部屋に入ろうとするが、壁を突き破って廊下に現れた男によって吹き飛ばされる。
「そいつの持っている秘宝石も頂くぞ!」
最初にふっ飛ばされたカーバンクル。
よく見ると、何やら宝石のような物を2つ、手に持っているのがわかる。
「アンタ……。一体、何者なの?」
「フン、知りたいか? 我が名はテュポーン。エルフの秘宝は全てもらい受ける」
神クラスの妖が堂々とエリス達に宣言する。




