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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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一難去って

貴女(あなた)、ずいぶん俊紅に詳しいのね」


 火織が生還し湧き上がる一同を余所(よそ)に、由利歌に詰め寄るエリスの姿があった。


「まぁ、長く生きているからその分ね」


「だったら答えてちょうだい。いったい何が起こったの? 走矢の体はどうなっているの?!」


 もし人間である走矢の身体(しんたい)に氷の妖力が入ったのであれば、その結末は火織の(とき)よりも悲惨なものになる。


 今のところ何ともないとはいえ、エリスには明確な説明が欲しかった。


「お母さんは心配性ねぇ。いいわ、知ってる範囲で教えてあげる。まず、俊紅の血って言うのは全部(つな)がっているの。走矢くんも走矢くんのお父さんも。それ以外の過去、現在、未来の俊紅は全部(つな)がっているの」


(つな)がっている?」


 いまいちピンとこないエリスに説明を続ける。


「とりあえずそういうモノだと思っておいて。で、その俊紅と絆を結んだ妖たちも俊紅を通じて全部(つな)がっているの。あの氷の妖力は走矢くんの祈りに応えてくれた妖が引き取ってくれたってこと。どこの時代の誰とかは分からないんだけど。とりあえず納得してくれた?」


「一応」


 短く返すエリス。


「あと、絆っていうのは一方的に血を奪うのではなく、俊紅が自らの意思で与え、それに感謝した妖とで結ばれるの。この条件だとエリスちゃんも絆を結んだ妖って事になるのよねぇ。もしかしたらそのうち、お声がかかるかも」


 これに関しては興味なさそうにふう〜ん、と流すエリスだった。


 ふと、気づくと火織達の方が何やら騒がしい。


「だから事故! 事故だからノーカンだ!!」


「でっ、でも……。あんな風になったのは……」


「これは正当防衛よ。走矢くんに非は無いんだからこの話はこれでお終い!」


 どうやら騒ぎの中心は火織の様だが、走矢の名前が出てくるのが気になる。


「だって、牙にあんな事されたの初めてで……。アレってそういう事なんじゃないですか……?」


 火織の言葉を聞いたエリスが豹変する。




 それは人妖機関の施設から、走矢を連れ去った直後に起こった。


「悪いけど貴方(あなた)に付与された『祝福(特別な加護)』を解除させてもらうわ」


 母の言う特別な加護というのは祝福と呼ばれる事もあるらしい。


 火織は人気(ひとけ)の無い公園の片隅に降り立つと、深呼吸して走矢に唇を重ねようとする。


「えっ?! ちょっと村瀬さん!」


「ジッとしてて! わっ、私だって恥ずかしいんですから……」


 そう言うと、意を決して走矢の唇を奪う。


 最初は我慢していた走矢だったが、段々と息苦しくなりモガモガともがき出す。


(むっ、村瀬さん。息が……)


(くっ、もうちょっと。もうちょっと我慢して)


(す、すいません、村瀬さん……)


「ひぃっ?!」


 勢いよく飛び退()いた火織は尻もちをつき、ガクガクと震えていた。


「村瀬さん、ごめんなさい。どうしても息が……。村瀬さん?」


 しばらく呆然としていた火織は我に返ると、口元に手を当て、顔を赤くする。




「小夜子の事で私は命を捨てる覚悟でしたから、この気持ちはあの世に持っていくつもりでした。でも今は……」


 すっかりしおらしくなった火織。


 もしかしたらこっちが本当の彼女なのかも知れない。


 そんな彼女の視線の先に母にコブラツイストを決められている走矢がいた。


「だからアタシ以外に牙の付け根を触っちゃ駄目だって言ったのよ!!」


 エリスの雄叫びが住宅街に響きわたる。

 


 後日、桜達は俊紅について調べるため、市の図書館に来ていた。


 幼い頃、走矢と出会ってから何度か俊紅について調べた事のあった桜だったが、火織に起こった様な話は聞いたことがなかった。


「実は俊紅について分かっていることって、あんまり無いのよねぇ」


 桜同様、過去に走矢と縁があった春香もソコソコの知識があった。


「人と妖が共存する前、人が妖を恐れ妖も人を襲うのが当たり前だった時代。その妖を強化しちまう俊紅は人間からも狙われていた。俊紅について研究するようになったのは割と最近の話だ」


「あら以外。桜も詳しいのね』


「ま〜、桜は昔っから俊紅に興味津々だったもんね〜」


「うるせぇ、直。黙れ」


 桜と春香。


 この2人は互いが走矢に対してどのような想いを抱いているか、なんとなく察していた。


 それ(ゆえ)にお互いが俊紅について詳しい事にも納得できる。


「どれも昔読んだヤツばっかだな。何か新しい本が出ているのを期待したんだけどな」


「本が出るほど研究が進んでないんでしよ」


 そんな中、1冊の絵本が桜の目に()まる。


「あら、その本……」


 それは俊紅について調べた事のある者ならば、(みな)知っているであろう昔話だった。


「絵本だからだいぶマイルドね」


「だな。俺が最初に読んだヤツはだいぶエグかった」


「なになに? なんのお話?」


「えっと、『おうかとそうすけ』? この絵本がどうかしたの?」


「さっき桜が昔、俊紅は人間からも狙われていたって説明してたでしょ。これは人間に追われた俊紅の少年と彼を守りながら逃亡生活を(おく)る妖の母親のお話よ。昔実際にあった……」




 その昔、桜花(おうか)という女の妖が俊紅の男と結ばれ、走助(そうすけ)という男の子を(もう)けた。


 しかしその時代は人が妖を恐れ、妖が人を襲う時代。


 妖に力を与える俊紅は人間からは忌むべき存在として狩られる立場にあった。


 妻と息子を逃し、夫は人間の手で殺された。


 悲しむ間もなく桜花は走助を連れて逃亡の旅を続ける。


 だがある日、桜花は毒を盛られて動けなくなる。


 走助は村人達に捕らえられ、母の目の前で惨殺されてしまう。


 桜花も(かま)やナタで切りつけられ、息絶えたとおもわれていた。


 しかし桜花は生きていて、惨殺された我が子の亡骸(なきがら)(しょく)したのだった。


 俊紅を取り込み力を得た桜花は近隣の村々を(ほろ)ぼし、その噂は当時最高と言われた陰陽師の耳にも届いた。


「子供を親の前で惨殺しただと?! ふざけるな、誰がお前たちなど救うものか。救われるべきはその親子の方だ!」


 その陰陽師は桜花討伐の依頼を断ったと言う。


 その夜、陰陽師は不思議な気配を感じとって目を覚ます。


 部屋の片隅に子供の霊。


 それが惨殺された桜花の息子だとすぐに気づいた。


「母ちゃんを止めてください。これ以上罪を犯す前に……」


 村人のために戦う気は起きなかった陰陽師だが、少年のために桜花討伐を決意する。




「まぁ、そんでもって桜花を倒して母子(おやこ)を輪廻の和に帰してめでたしめでたし、ってとこかな」


「なんか……。走矢とエリスさんみたいね。桜花と走助って……」


「それは私も思った。たぶん、桜もね。きっとこういう話はその2組の親子だけじゃなくって、アチコチにあるんだと思うの。たまたま私達はそのうちの2つを知っているだけ……」


 春香の言葉に一同はしんみりする。


 そして彼女達は気がつかなかった。


 彼女達のすぐ後ろにひそむ、早川 由利歌(ハヤカワ ユカリ)こと、ぬらりひょんに。


(懐かしい話ね。でもその話には続きがあるの。俊紅が狩られる事が無いよう、人と妖が共存できる世の中にする。その陰陽師はそう誓って今日まで生きてきたのよ)

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