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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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母はヴァンパイア2

 俊紅(しゅんく)と呼ばれる特別な血を持つ人間が希に生まれる。


 走矢の父、新矢がそうだった。


 本来、俊紅は偶発的に生まれるもので血筋など親から子へと受け継がれるものではない。


 しかし、人間との間に混血が産まれないエリスと子をもうけたため、走矢は俊紅を受け継いでしまったのだった。


 俊紅はヴァンパイアにとって非常に美味で、その血を多く吸えば強力な力を得られると信じられていた。


 母は何も言わないが、父がこの世にいないのはそれが原因だと走矢は考えていた。


 昨晩、襲ってきたクラスメイト達もこの噂を聞きつけて来た者たちなのだ。




「ちょっと待って、あと一口吸わせなさい」


 そう言って走矢の首筋に噛みつくエリス。


 登校時、毎朝繰り返される光景だ。


「今朝はいつもより多くない?さすがにふと……」


 言いかけた走矢の口をほっぺごと掴んで力を入れるエリス。


「ひと言多い。そんな事だから彼女とかできないのよ」


 クソッ、否定できない、などと思っていると母から開放されて家の外に押し出される。


「はい、それじゃあ行ってらっしゃい」


 エリスはそう言いって手を振りながらドアを閉める。


 走矢達の住居は比較的新しいアパートの1階。


 母に追い出されるように外に出された走矢はそのままアパートの敷地を出る。


「佐伯くん」


 自分を呼ぶ女子の声にふり返る走矢。


 声の主は最近転校してきたクラスメイトの間野 羽月(マノ ハヅキ)だった。


「おはよう。間野さんの家この近所なの?」


 走矢の質問にええ、とだけ答える羽月。


 昨日に襲ってきた女子達と違い普通の人間で、大人しく可愛らしい少女だ。


 彼女かできないかぁ。


 間野さんみたいな人が彼女だったらなぁ。


 そんな事を考えながら学校に向かう。




「そんなんだから彼女とかできないのよ」


 走矢を見送った後、自分が彼にはなった言葉をくり返すエリス。


 もし、この言葉に息子が反論してきたとしたら自分は平常心でいられたのだろうか。


 昨晩会ったヴァンパイアの少女2人。


 そのどちらかが走矢の彼女だったりしたら……。


 いわばあの言葉はカマかけのようなものである。


 息子の反応からまだ、そこまでの関係ではないようだがあんな時間まで一緒に居るような関係。


 今後、そのような関係になっても不思議ではない。


「1人は眼鏡っ娘。もう1人は天然っぽかったわね」


 そう言いながら鏡台の前に座り、どこからか取り出した伊達眼鏡をかけてみる。


「う〜ん、似合っている様ないないような……」


 今度は両手で自分の左右の髪の毛をつまんでツインテールを作ってみる。


「こんな事をしても天然っぽさなんてでないわよね」


 深いため息つきながらこぼす。


 エリスの中では昨日の走矢の行動は、あのヴァンパイアの少女達とずっと一緒に遊んでいた、という解釈になっていた。


 普通の母親ならば息子に彼女ができるかも、となれば喜ぶのだろうがエリスは違った。


「同じ歳の女の子と仲良くなったらアタシなんて……」


 言いかけて自分の両頬(りょうほほ)を叩くエリス。


 あくまでも自分は走矢の母親であり彼の幸せを第一に考える存在。


 そう言い聞かせてエリスは立ち上がる。




「おーす、昨日はあの後大変だったみたいだな」


 教室に入ると桜が話しかけてくる。


「本体の眼鏡を落としちゃうなんて、本当にスットコ軍師よね」


 どうやら桜と直にも話が伝わっているみたいだ。


 スットコドッコイの軍師。


 略してスットコ軍師とは以前に走矢が春香に向かって言った言葉が定着したモノだ。


「誰がスットコ軍師ですって。スットコドッコイって言う人がスットコドッコイなんですからね。あ、佐伯くん昨日はありがとうね」


 眼鏡をクイッといじりながら会話に参戦してきたは春香だったが、


「結局オメーがスットコドッコイじゃねーか」


「眼鏡が本体のところは否定しないんだ」


 桜と直の前にあっさり劣勢に立たされるスットコ軍師。


「おあよ〜、昨日は乙でしたぁ」


 そう言って教室に入ってくる咲花。


 いつもギリギリの時間に登校してくるあたり、ヴァンパイアらしく朝に弱いようだ。


「あ、おはよう。咲花も昨日はごめんね。助かったわ」


(こういうやり取りを見ているとあの眼鏡もそれなりにまともなんだよなぁ)


 そんな事を考えながら走矢が自分の席に着くと隣の席の羽月が話しかけてくる。


「あの子達、ヴァンパイア何でしょ?普通に話せるなんてすごいね」


 返答に困った走矢はその場を笑って誤魔化した。


 (あやかし)が身近になった世の中だが、まだまだ彼女達の様な存在に抵抗を持っている人間も多い。


 特にヴァンパイアというのは血を吸うとか人間をヴァンパイアにしてしまうなどと言われており、恐れられている部類だ。


 以前、母に聞いた話ではヴァンパイアが仲間を増やすというのは間違いで、自らの血を与えることで一時的に人間の能力を増幅する事ができるらしい。


 それをよく知らない人間が仲間を増やすと勘違いしたのだろうと。


 もし自分にそんな能力があったのなら父をヴァンパイアにしてずっと一緒にいられるようにしたと。




 母はよく嘘をつく。


 父も自分の事も全然愛していないと子供でもバレる嘘をつく。


 父と結婚したのも俊紅を独り占めするためで自分を産んだのも俊紅のためだと。




 走矢が中学生だった頃、母が酔って帰ってきたことがあった。


 何でも昔の友人と久しぶりに会って、つい飲みすぎたんだとか。


 夜遅くに帰ってきた母を寝室に寝かせて別の部屋でテレビを見ながらスマホをいじっていると、母が部屋に入ってくるのがわかった。


 夜ふかしを怒られると思って身構えていると母が背後から抱きついてきた。


「怖い夢を見たの。貴方が死んじゃう夢。そんな事あるはずないのに……。すごく怖くて悲しくて私はずっと泣いてるの。でも夢でよかった、貴方はここにいるんですもの」


 そう言ってしばらくすると母の寝息が聞こえてきた。


 父が死んだ事が夢だと思っている母。


 でも朝になればそれが夢だった事に気づくのだろう。


 その翌日の母の顔は泣きはらしたように見えた。

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