激突2
火織との交戦後、桜達は職員室に連れて行かれて愛美に説教をされていた。
「どうして私に一言相談しなかったんですか?! こんな無茶をして……」
「すいません……」
ションボリとした様子で謝罪する桜。
彼女達のアチコチに、焼け焦げたような跡があり、戦闘の厳しさを物語っていた。
「村瀬火織については私達教員で対応しますから、今日はもう、帰りなさい」
「松永先生……」
桜達を帰したあと、愛美は火織の担任である、松永小夜子に事情を説明する。
「そんな……。村瀬さんが佐伯くんを襲ったヴァンパイアだったなんて……」
衝撃を隠せない小夜子。
「それで、これから彼女の自宅に行くんですけど……」
愛美と同じヴァンパイアの教員、西倉 綾が今後の対応を口にすると、
「私も一緒に連れて行って下さい!」
小夜子が食いつく。
小夜子は新年度と共に赴任してきた人間の女教師。
歳は28歳で、見た目はヴァンパイアである愛美よりも歳上に見える。
「それで申し訳ないんですけど、人間を襲うようなヴァンパイアである以上、一般教師の貴女を連れて行くわけには行かないんです」
愛美の言葉に、
「そんなぁ……」
と、力無く呟く小夜子だった。
村瀬火織の件はエリスにも連絡がいった。
正体がバレ、逃走した彼女がヤケを起こして走矢を襲う事も考えられる。
「なに? 誰からの電話だったの?」
真剣な対応の母を見て、何かあったと悟る走矢。
そして、エリスの口から村瀬火織の事が伝えられる。
体育の授業のバスケットボールにはエリスも参加していた。
確かに火織の身体能力には驚かされたが、エリスはその場にいたもう1人の人物が気になっていた。
結局、村瀬火織の自宅のアパートはもぬけの殻だった。
当人がいないどころか、家具なども無い形だけの自宅。
可能性としては考えられた事なので驚きはしないが、これで火織を追う手がかりは何もないことになる。
そんな中、愛美はとある対抗策を考えていた。
『走矢を人妖機関の施設にかくまうんですか……』
「ええ。少なくとも今までみたいに学校に通わせるのは危険だと思うの」
電話でエリスとやり取りをする愛美。
「私はあんまり賛成できないんだけどね」
愛美の近くにいる由利歌は否定的なようだ。
人妖機関の職員と一口にいっても全員が全員、エリスや愛美のように荒事に対応できるわけではない。
絶対的な安全を保証するものでは無いのだ。
だが愛美の言うとおり、このまま学校に通わせるのも確かに問題がある。
走矢の身の安全もあるが、他の生徒が巻き込まれる可能性。
それを考えるとこのままというわけにはいかなかった。
現に紗由理のときは土人形と入れ替わった生徒達が、亜空間に囚われるという事案が発生している。
教師として、愛美の考えは当然とも言える。
『俺は別に構わないよ』
やり取りを聞いて察した走矢が愛美の案を受け入れる。
走矢が案内されたのは必要最低限の家具と家電が置かれた個室。
羽月が収容されていたのと同じような部屋だが、彼はそれを知らない。
「この施設には戦闘にも対応できる術師や妖も詰めているから安心よ」
そう説明するのは施設職員の女性、三原 かな子。
歳は30前後で多少の術の心得もあるとの事だ。
「しばらくお世話になります」
そう言って頭を下げるエリス。
今回の案にはエリスはあまり肯定的ではなかった。
俊紅として生まれ、死ぬまで悪意ある妖に狙われるであろう走矢を守る事が自分の使命だと彼女は感じている。
この守るという行為は死ななければいいというものでは無い。
我が子が人として当たり前の日常をおくる事。
その日常を守るのが母としての自分の使命だと。
しかしその願いはかなわず、学校に通うという彼の日常は奪われてしまった。
「お昼には一度戻るから。大丈夫よ、すぐに解決するから」
我が子にそう言って調査のために施設をあとにする。
時間は午前11時になろうとしていた。
個室で机に向かいボーッとしている走矢。
桜達は今頃授業の真っ最中のはず。
「そういえば俺のことはなんて説明したんだろ。あとでメールでも送ってみるか……?」
部屋の外が騒がしい事に気づく走矢。
様子を見ようとドアノブに手をかけようとすると、そのドアが勢いよく開く。
それは三原かな子の仕業で、
「走矢くん、ここは危険よ。脱出するから付いてきて!」
そう言ってかな子は走矢の手を掴む。
「三原さん、いったいどうしたんですか?!」
「貴方を狙っている妖がここを攻めて来たの。ほとんどの職員はやられてしまったわ。駐車場に車を待たせているからとにかくそこへ向かいましょ」
「そんな……」
絶句する走矢。
この施設には問題を起こして収容されている妖達がいるため、それらの対応、脱走対策のために戦闘要員が常に10人以上、待機していると聞いている。
プロの戦闘要員10人を無力化し、ここに迫ってくるという『敵』の存在に走矢は青ざめる。
「こっちよ」
かな子は走矢の手を引っ張り、非常階段を目指す。
ふと、廊下を走る走矢の視界を何かが横切る。
それは茶色いネズミだった。
その茶色いネズミは走矢の足下から肩まで一瞬でよじ登り、彼の耳元に顔を近づける。
「気をつけて。その女は敵だよ」
ネズミが喋った事とその内容に驚く走矢。
「私がスキを作るから、反対側に逃げなさい」
そう言ってかな走矢を掴むかな子の手に噛み付くネズミ。
かな子は痛みと驚きで悲鳴を上げ、走矢の手を離す。
「今よ!」
ネズミは再び走矢の肩にとび乗り指示を出す。
「おのれぇ、逃がすか!」
ネズミとかな子のどちらを信用するべきか迷っていた走矢だったが、かな子の豹変ぶりを見てネズミを信じる事にした。
「三原さん、敵だったの?!」
「ドッペルゲンガーって奴ね。変身とか擬態が得意な妖よ。でもコイツにここの職員を全滅させるなんて不可能。本命が来る前に何とか逃げ切らなきゃ」
ネズミが状況を説明してくれる。
「そんなぁ。じゃあ、本物の三原さんは……」
「今は自分の事だけ考えなさい?!」
ネズミが言い終わると同時に廊下の壁を突き破って出てきた何かが走矢に巻き付き、拘束する。
「やだ、蛇?!」
ネズミの言うとおり走矢を拘束するモノ、それは蛇だった。
そしてその蛇は貫いた壁が崩れ、女が1人現れる。
蛇は女の頭から生えており、ソレは走矢を拘束する1匹だけではなかった。
「メデューサ……」
ネズミは女の種族をポツリと呟く。
「最初っから力ずくで連れてっちまえばよかったんだよ」
「それじゃあ、セキュリティや結界を破れないでしょ。神話級だからってこの施設を甘く見ちゃ駄目でしょ」
メデューサの言葉に反論する、かな子ことドッペルゲンガー。
走矢は崩れた壁の向こうに職員らしき姿を見つけるが、それが石化したモノだと気づき、ショックを受ける。
しかし次の瞬間、何者かが走矢とメデューサの間に割って入ると、彼を拘束する蛇を切断して連れ去る。
「なに?! 逃がすかぁ!」
メデューサは恐ろしい形相でソレをついげきしようとするが、その顔面に分厚い辞書がめり込む。
「チョット、読書の邪魔をしないでもらいたいんだけど」
ソレはかつて、走矢を襲ったヴァンパイア、間野 羽月だった。




