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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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人妖機関

「これが記憶操作。ナチュラルに受け入れちゃったわ」


「初対面なのに昔から知ってるみたいになっちゃったしね」


「しかも細かい設定付きで」


 春香の感想に同意する一同。


「でも桜、よく記憶操作を振り払ったわね」


「あんなの気合だ!」


「ふふ〜ん、気合ねぇ? きあい、キアイキアイアイアイアイ愛ぃ〜」


 桜の顔を、ニヤニヤしながら何か言いたげに覗き込む由利歌。


「なっ、何だよ気味悪い(きみわりぃ)なぁ」


 顔を真っ赤にして必死に返す桜だった。




「彼女達に会いに行くんですか?」


 由利歌の件が一旦落ち着いた中でエリスが口にした『彼女達』とは、走矢を襲った羽月と紗由理のこと。


「ええ、アレから分かった事もあるし何か情報を得られないかと思って。それでエリスさんも一緒に来てもらえないかしら」


「母さんが? どうして?」


「エリスさん、もしかして……」


「ええ、話してないわ」


 走矢の疑問に一瞬の間をおいてエリスに問いかける愛美。


 ふうっと、ひと呼吸置いて愛美は口を開く。


「佐伯くん、あなたのお母さんは『人妖機関(じんようきかん)』に所属しているの。かつてはお父さんもね」


 人妖機関とは人と妖が共存するための組織で、人妖問わず他者に危害を加える様な者の取り締まりから、小さな揉め事やトラブルへの対処を(おも)な職務としている。


「いやっ、かーちゃんの仕事知らなかったのかよ」


「てっきりニー……」


「誰がニートですって!」


 走矢が言い終わる前にエリスは彼にヘッドロックをかける。


「えっ、エリスさん落ち着いて」


「失礼しちゃうわね。趣味で女子高生の格好をしてるとでも思っていたの? これも職務の内よ!」


 趣味かと思った、というのが桜達の正直な感想だったが走矢の受けた仕打ちを見て全員がその言葉を飲み込んだ。


 ちなみにエリスは人妖機関の正規職員で愛美や術師でもある神崎は準職員。


 場合によっては機関員として職務につく立場にあり、今がまさにそうだった。


 そしてエリスが走矢に人妖機関員である事を隠していたのには理由があった。


 エリスは新矢が生きていた頃から夫婦で人妖機関に所属しており走矢もそれを知っていたのだが、父の死後に起こったある事件で、重傷を負ったエリスを救おうと病室の花瓶を割って、その破片で自身を傷つけ、その血を飲ませようとした事があった。


『だってお母さんが……、お母さんが』


 泣きながら自分の血を飲ませようとする我が子にもう危険なことはしないと誓い、人妖機関を辞めると言って聞かせたのだった。


「んな事があったのか……」


 話を聞いた桜達は色々と納得した。


 もし羽月の事件のとき、何か刃物があれば走矢は同じ事をしていただろう。


 母を心配する走矢の気持ち、そのせいで自らを傷つけるかもしれないと機関に所属している事を隠していたエリス。


 それは互いを想う余りに起こるすれ違いのようにも思えた。




 走矢を先に家に帰し羽月達の元に向かう事になったエリスと愛美、そして由利歌の3人。


 走矢達と別れて愛美の愛車が停めてある駐車場を目指していた。


「それにしても咲多さん、すごい精神力ね。早川さんの記憶操作に打ち勝つなんて」


 エリスの前を歩く愛美が由利歌に話しかける。


「まぁ、アレは私が設定を盛り過ぎちゃったのもあるんだけど、あの子の場合は気合とはちょっと違うわねぇ」


 先程、桜に見せたニヤケた表情で愛美を見る由利歌。


「なっ、何なんですかその顔は……」


「難しい話じゃないわ。私の許嫁っていう設定が気に入らなかったんでしょ。だから私の用意した記憶が割り込む余地が無かったのよ」


 由利歌の言わんとすることを理解し、愛美は沈黙する。




 羽月達が収容されている陣容機関の施設にて、一同はモニター越しに間野 羽月(マノ ハヅキ)の様子を見ていた。


 羽月が収容されている部屋は簡素だが小奇麗で、生活に必要な家具や最低限の家電が揃っていた。


「いい生活してるわね」


 そんなエリスの呟きを、


「なに?! 私のボロアパートよりいい生活してるじゃないのぉ! そんなお金あるならお給金あげてよぉ!!」


 由利歌の絶叫がかき消す。


 出会って間もないが豹変したその姿に驚き、エリスと愛美は目をパチクリさせる。


「これが彼女の『素』なのね……」


 エリスの言葉に苦笑いで応えるしかない愛美。


「じゃあ、作戦内容を話すわね」


 元の調子に戻った由利歌を見て、2人は呆気にとられる。




 由利歌の作戦というのは羽月に自分を魔女、来島クルシマ 紗由理サユリとして認識させて2人の関係性を探るというものだった。


『私は紗由理が黒幕兼協力者っていう設定で羽月って娘に接してみるわ。もしこの設定で話が合うようなら、2人が共謀していたって事でこの事件は終了。でも、もしそうでないなら……』




「こんにちは、間野さん。調子はどう?」


 由利歌は保険医の紗由理を演じながらノックをして羽月の部屋に入ってくる。


「貴女……。どうして?」


 ベッドと上に腰かけ、読書にふけっていた羽月が驚きの表情を見せる。


「こう見えてアチコチにコネがあるのよ」


 由利歌は得意げに嘲笑する。


「ふぅん……」


 面白くなさそうに納得する羽月。


「せっかく私が手引してあげたのに失敗して捕まっちゃうなんて、困った子ねぇ」


「はぁ?! 貴女の力なんて借りた憶えないですけど? 私より歳上みたいな事言ってたわよね? ボケがはじまったの?」


 羽月の反論を受けても不敵な笑みを浮かべる由利歌は続ける。


「私の結界のおかげで正体を隠せたんでしょ? それなのにボケたなんて酷い子ね」


「やっぱりボケてるんじゃないの? 貴女の結界じゃなくって、アイツの結界でしょ? 貴女はソレを間借りしていただけでしょ」


「アイツ……」


 由利歌から笑みが消え、その能力を解除して正体を晒す。


「なに?! 何なの貴女!!」


 紗由理が入ってきたときよりも取り乱す羽月。


「その『アイツ』について、詳しく聞かせてもらうわよ」


 そう言いながら入室してきたエリスが羽月の前に立つ。

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