強襲
「その様子だと、あの魔女もやられたみたいね」
「その通りよ。おとなしく貴女達の事について話してもらうわよ」
エリスを追うようにして部屋に入ってきた愛美の言葉に、
「無理ね」
と、羽月は冷たく応える。
「妖力を集中して見てみなさい」
そう言うと、羽月は前髪を上げておでこを見せると、
「私達をこの街に引き入れた首謀者は……。うっ?! あああああっ!!」
言いかけた羽月が頭をかかえて苦しみながらのたうち回る。
「これは……」
「ええ、喋るとただじゃ済まない何かが仕込まれているのね」
驚く愛美、冷静に応える由利歌。
そして羽月の言うとおり、妖力を集中して見ていた一同の目には彼女の額に浮き上がる紋章の様なモノが見えていた。
その頃、走矢は桜達とわかれて1人家路についていた。
「母さんが人妖機関に……」
ポツリともらす走矢は母が機関に残り続ける理由を考えていた。
俊紅である自分を守るため、というのが真っ先に思いつく理由なのだが、おそらくそれだけではない。
母の本当の目的は父の死の真相を探る事ではないだろうか。
中学生の頃、父の事件について調べた事があったのだが、犯人不明の未解決事件と書かれていた。
「もし、母さんの目的が父さんの仇討ちとかだったりしたら……?!」
考えに耽っていた走矢は周囲の異常に気付く。
先程まで明るかった周辺が夜のように暗くなっているのである。
「さっきまであんなに明るかったのに……?!」
誰に言うでもない独り言の途中、黒いローブを実にまとった何者かを進行方向に確認した。
おそらく周辺が一気に夜になったのは結界か何かに閉じ込められたせい。
そして閉じ込めたのは目の前にいる黒いローブの人物で自分を狙っていると察する。
刹那、ローブの人物は一瞬で走矢に近づくと手刀を振るい、走矢に襲いかかる。
すんでのところでソレをかわすが、すぐに次の一撃が来る。
(まずい、このままじゃ壁際に追い詰められる)
無理して壁の反対側に避けるが手刀が肩をかすめ、負傷してしまう。
壁際に追い詰められるのは回避したが、戦う術を持たない走矢の不利は変わらない。
ローブの人物はすぐに反転して追撃してくる。
「頭下げろ!」
頭上からそんな叫び声と共に頭に何かがのしかかり、必然的に頭が下がる。
声の主は桜。
走矢の頭を左手で押さえ、そこを軸に繰り出した回し蹴りがローブの人物に命中し、ふっ飛ばす。
「ちっ、浅ぇ」
桜の言葉通り、ローブの人物は大して効いた様子もなく、立ち上がる。
「走矢くん!」
「ソウちゃん!」
春香と直、少し遅れて咲花も駆けつける。
距離を置き、一同を見回すローブの人物。
無言のまま真紅の翼を広げ、その場から飛び去って行く。
「今の感じ……」
「ええ、多分同類ね」
この桜と春香のやり取りから、自分を襲ったのはヴァンパイアなのかもしれないと解釈する。
「って、走矢?! 怪我してんじゃねぇか!!」
「あぁ、かすっただけだよ」
「かすっただけにしては出血がすごいわ。咲花、お願い!」
春香の言葉に、
「うん!」
と応えると、咲花は純白の翼を広げて走矢の傷口に手をかざす。
すると傷口が光に包まれ、痛みと共に肩の傷が消えていく。
「すごい。咲花にこんな力があったんだ……。え?!」
走矢が驚いた理由。
それは咲花の頭上に光が集まり、天使の輪のようになっていたからだ。
やっぱり本物の天使、そう言いかける走矢だったが本人が嫌な顔をする事と傷を治してもらった事から口には出さなかった。
走矢たちの元から飛び去ったローブの人物は、マンションの屋上に降り立ち、走矢の肩をかすめた右手を見る。
その指先には彼の血が付着しており、それをペロリと舐める。
「凄い?! この力ならきっと……」
そう言って再び翼を広げ、その場から飛び去って行く。
「要するに、羽月ちゃんも紗由理ちゃんも謎の人物によってこの街に呼ばれ、走矢君を襲ったって事ね」
人妖機関の一室。
そこでは由利歌が、ホワイトボードにこれまでわかった情報をまとめていた。
『黒幕』という文字から矢印が伸びて『羽月』『紗由理』と書かれている。
羽月との面会後、紗由理の身体も調査され、羽月と同じ紋章が額に確認されていた。
「2人とも俊紅を狙っていたのは間違いないのよね」
「そうね。狙う理由は違っていたけど、走矢くんを手に入れようとしていたのは同じね」
エリスの発言に同意する愛美。
「初期の紗由理ちゃん黒幕説と、羽月紗由理ちゃん共謀説はこれで崩れたことになるんだけど、この黒幕別にいる説の場合もう一つ考えなくちゃいけない事があるのよ」
そう言って由利歌は黒幕の文字からもう一本、矢印を伸ばす。
「間野さんや来島先生のような手引された者が他にもいる、という可能性ですね」
愛美の言葉を聞いて勢い良く首を立てに振る由利歌。
「当然、黒幕の存在にも気をつけなくっちゃいけないんだけど、この下請けみたいな連中の存在も厄介よ。先の2人みたいに微妙に目的が違ってくると走矢くんへのアプローチの仕方も変わってくるから」
俊紅の血が狙いなのか走矢自身が狙いなのか。
場合によっては生死を問わずという事も考えられる。
そして『敵』は単独犯でありながら複数が同時に動く『集団』とも言える。
「とりあえずは引き続き黒幕の正体を探るのと、走矢くんの周辺にいる不審人物の洗い出しね……」
由利歌が話をまとめるのとほぼ同時に愛美のスマホが鳴り出す。
「ちょっとすいません。……美月さん?」
愛美の着信画面には美月 春香と表示されており、それを見た愛美は嫌な予感がした。
「はい、相沢です。えっ?! 走矢くんが?!」
愛美の言葉を聞いて、エリスが聞き耳を立てるように彼女のスマホに密着する。
スマホを奪い取ったりしないのは、一応、目上の人物である愛美への配慮なのだろう。
「走矢がどうしたの?!」
『えっ! エリスさん?!』
電話口の向こうの春香は驚きながらも状況を説明をはじめる。
『あっ、えっと……。学校の帰り道で走矢くんがおかしな奴に襲われたんです。どうも、私達とわかれたところを狙われたみたいで。軽い怪我を負ったんだけど、咲花が治したんで、一応大丈夫で……』
春香が言い終わる前に、エリスは猛スピードで部屋から飛び出して行く。
「ああっ、エリスさん……。すいません、私も一旦戻ります」
会釈して部屋から出ようとする愛美を由利歌が呼び止める。
「さっき言った下請けの連中の狙いはだいたい同じなんだろうけど、肝心の黒幕の目的については全くの未知だわ。その事を頭の片隅に置いておいてね」
愛美はその言葉にうなずき、再び会釈して部屋を出ていく。




