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第34話 すべてはシナリオ通りに

 そう言うとダリウスは婚約者候補たちに目もくれず、真っすぐに私のいる隠し扉へと歩み寄る。隠し扉を勢いよく開けると、彼は手を差し伸べた。

 兜だけではなく、甲冑を解除すると、彼の熱い眼差しが私を射抜く。


(その顔は反則すぎる!)

「さあ、ユヅキ」


「言われなくとも」と、思いながら私は彼の差し出した手を取る。本当にずるい。そう思いながらも彼に導かれて、婚約者候補たちと対面する。

 四人とも私の姿を見た瞬間、目を見張った。それもそうだろう。妻と呼ぶものが「人」ではないのだから。令嬢たちの付き人たちも、ダリウスの変わりように驚いているのだろう。ざわめきが波紋を広げて大きくなっていく。


「彼女が俺の──たった一人の妻となる、龍神族のユヅキ=カミナだ」

「お初にお目にかかります。天界から降り立った際、傷ついた私に手を差し伸べてくださったのが、ダリウスだったのです」


 これは元々そういったセリフだが、私は想いを込めて語る。胸に積もる感情は本物だから。だからこそ説得力というものは生まれるのだ。

 ダリウスはそのまま玉座に座ると、私を抱き寄せていつものように膝の上に乗せる。

 周囲が見るからにざわついた。


 けれども、カイルや控えている侍女長たちは澄ましたものだ。私も、もうこの体勢も慣れっこだった。これだけでもダリウスの寵愛を受けているというのが分かるだろう。だがダリウスは悪戯を思いついた子供のように無邪気な顔で、私の額、鼻、頬に口付けをする。


(か、完全にこの場を楽しんでいる! ……魔力を通してダリウスが演技じゃないっていうのが一番恥ずかしいのだけれど!)


 今にも許容量がパンクしそうになるが、アタシは堪えた。ここは皇太后としての務めを果たす所だ。期待に応えるため──勇気を振り絞って、ダリウスの頬にキスを落とす。


「!?」


 出血大サービスのつもりだったのだが、これがいけなかった。ダリウスは婚約者候補たちを無視して、キスの雨を降らせる。

 普段から私がキスをする事なんて殆どない──ダリウスが寝ているときはノーカンだと私は自分に釈明する。とまあ、脳内で抵抗を見せるものの、ダリウスを好きだという気持ちを隠すのは無理があった。それぐらい私の中でダリウスを受け入れつつある。


(くすぐったい。これはちょっとやりすぎな……)

「ごほん、閣下! 謁見の場ですので、し──いえ、そういったことは、別室でお願いします」

「ふん」


 言葉をかけるカイルにダリウスは、あからさまに不機嫌そうに顔を顰めた。私は心の中でカイルに感謝をした。ちらりと令嬢たちに視線を向けると、反応はそれぞれだった。


「見ての通り俺の妻は彼女だけだ。側室を設ける気もない。その旨を現皇帝にも伝えたのだが、お前たちへの連絡が入れ違いになってしまったようだ」

(うんうん、そういうシナリオだったわね。……本当にシナリオよね? いやでも、私がダリウスを好きになるってことは──ッ。)


 そう「皇太后」。その責務を全うする立場になる。兄様とは異なるけれど、それでも地位や立場を得ること。ダリウスを思う気持ちにストップがかかるのは、これがあるからだ。知らない間に、兄様と同じ未来になるのではないか──。

 頭で違うと思っても、完全に否定はできなかった。


(本当に私はずっと同じことばかり考えて──って、今は皇太后としてダリウスの役に立たないと)

「話はこれで終わりとする。みな下がっていいぞ」

「閣下、そんな……。私は……ずっと貴方様のことが……っ」


 そう言って茶色の髪の少女アネットは、その場に崩れ落ち「よよっ」と泣き始めたではないか。彼女の従者たちは、その姿に心を奪われていた。


「アネット嬢」

「なんと可憐な……」

(演技なのだけれど、従者たちは気づいていないわね)


 ダリウスも彼女の演技に、庇護欲が掻き立てられるのかどうか顔を覗き込んだ。心配は杞憂だった。一ミリも心動かされていない──というか、心底引いている。


(ダリウスが本気で引いている姿、初めて見たわ。……これはこれで新鮮ね)


 私は少しだけホッと安堵する。


「レイエス譲。この程度の事で泣くようでは人の上に立つような役職は難しいだろう。その観点からみても、皇太后にふさわしくないし、見ていて不愉快だ。カイル、彼女には早々に帝都に戻ってもらえ」

「畏まりました」


 カイルは素早く扉の外から衛兵たちを呼びつけて、玉座の間から追い出す。


「え、ちょっ……陛下!? お待ちください! 私のお話を!」



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