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第33話 茶番劇の開幕

 玉座の間。

 城砦の西と東の中間にある部屋で、ここは主に来客や式典などの行事用に設けられた広間だ。

 大理石で造られた天井や壁は、職人の技巧が卓越したものだった。シンプルかつ洗練された広間は赤いカーペットが敷かれ、その玉座にダリウスは腰かける。私は玉座の背後にある隠し扉に控えていた。婚約者候補たちが入った後に、皇太后として私がダリウスに手を取られて登場する──というのが今回のシナリオだ。


 ダリウス自らエスコートする姿を彼女たちに見せつける──と、いうなんとも大胆だが、効果は十分だろう。察しのいい人間は諦めるだろうけれど、「皇太后」という地位に固執する者たちがそう一筋縄でいくわけもない。だからこそ手っ取り早く追い返そう作戦が発令されているのだが。


(現皇帝にも皇太后を迎えることに対して承諾を得ているとか、本当に抜け目のない……。ん?)


 婚約者候補たちが姿を見せる前に、ダリウスは漆黒の鎧をその身に纏い、兜まで装着しているではないか。急に鎧を装着したことで、甲冑音が響く。

「な、何考えているのよ」と、私は声を潜めながらもダリウスに声をかける。


「こちらの方が威圧的で印象も悪いだろう。婚約者候補には早々にお引き取りを願いたいからな」


 兜をしているせいでやや声がこもる。私にしか聞こえないぐらいの小さな声だったが、それはやけに熱を孕んでいた。


「そうすれば、ユヅキと一緒の時間も増やせるだろう」

「またそればっかり」

「嫌か?」


 低くくぐもった声は、少し傷ついたように私には聞こえた。ダリウスが困ったり、悲しそうになると胸が痛む。わざとかと思うほど、彼は私を翻弄する。


「……そういう聞き方はずるいわ」

「わざとだ」

「ダリウス!」

「ごほん、えーっ、それでは彼女たちを入場させますので」


 傍に居たカイルは咳払いをしつつ、私とダリウスとの会話に割って入った。彼はあからさまに不満そうな雰囲気だったが、私は「よくやったわ、カイル」と心の中で褒めた。


 とまあ、緊張感のなかった玉座の間がピリッと張り詰めた。

 カイルは婚約者候補たちに入るように兵に指示を出す。重苦しい両扉から現れたのは四人の女性と、付き人たちだった。


(みんな顔が強張っているわね)


 それもそのはずだ。常時魔力を放出しているのは変わらないが、今朝よりは少し出力を下げている。でなければ、四人とも謁見することは難しかっただろう。ダリウスはそれならそれで追い返す言い分になると言い出したが、せっかく最果ての地まで来たのだから、中途半端に追い返すよりもコテンパンに叩きのめした方がいいと提案したのは私だ。


(その結果、ウエディングドレス(こんな格好)をさせられるとは、思わなかったけれど……)


 四人とも赤い絨毯を静かに歩き、玉座からだいぶ離れた二十メートルほどの距離を取って、傅いた。どうやら彼女たちにとっての距離はそこが限界のようだ。


「殿下、婚約者候補でございます」

「……」


 ダリウスは首肯するだけで、やる気ゼロだ。カイルはそれぞれ候補者たちに挨拶をする様に促す。


「前帝ダリウス様。お初にお目にかかります。レイエス公爵家より参りましたアネット=レイエスと申します」


 茶色の髪の少女は怯えと震えながらも、頭を下げて挨拶を終えた。小さくて守ってあげたくなるような可憐な令嬢という所だろうか。カイルたちが用意してくれた情報によると、この時代にも貴族制度は残っているそうだ。一定の行政区画の管理をするのが彼ら貴族だ。階級は以下の通りで、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵。アネットは公爵令嬢という事は貴族の中では上位……。その庇護欲を掻き立てられる仕草や雰囲気、容姿は男性の好感度が高いそうだ。ダリウスは資料を見ただけで「笑顔が胡散臭すぎる。あと素は性格がねじ曲がっているな」と一蹴していた。


「グティレス伯爵家より参りましたカーラ=グティレスです。閣下にお会いできて嬉しく思っております」


 背筋を伸ばして挨拶するのは、緑の髪をした少女だ。凛とした佇まいから言って騎士見習い、準騎士だろうか。ダリウスに言わせると「別に女を下に見ていないが、世の中の男はみなそう思っているという被害妄想が強い女だ。正義感が強いというよりは我が強いだけだな」と一刀両断。「──とはいえ、何かを企むような不正をするよりは、正面突破するような奴だ」と言葉を付け足す。ダリウスは私が考えている以上に人を良く見ている。


「……男爵家より……参りました。……キャロル=ポウエルです」


 黒髪の地味そうな子は心底めんどくさそうと言った、どこか諦めた顔で深々と頭を下げた。髪飾りやドレスを見てもあまり質がいいものではなさそうだ。一族の為と言われて無理やり連れてこられたのだろうか。

 この子に関してダリウスは「毎年現れる贄のような形で家を追い出されたのだろうな」と呟いた後にカイルに何か指示をしていた。贄、という言葉に少々引っかかったが、込み入った話かもしれないと私は言及しなかった。


「閣下、クリスティ=オズワルドでございます」


 最後に名乗った真っ赤な髪の女性は──ダリウスが心底嫌そうな顔をして話した人物だった。確かに薔薇のような美しさはあるが、棘というか毒をたっぷりと持っていそうな雰囲気を前面に押し出した女性だ。性格がキツいと顔に書いてあるようで分かりやすい。「傲慢で高飛車な勘違い女」とダリウスは言い切っていた。豊満な肉体、目のやり場に困る露出度の高いドレス。ここをどこだと勘違いしているのだろうか。社交会ではなく前帝の謁見の場なのだが……。


「面を上げよ」


 婚約者候補たちが顔を上げた瞬間、全員が固まっていた。

 無理もないこれから戦場に出も赴くような出で立ちに、御令嬢たちは凍り付き、そして彼女たちが思考を巡らせる前に、ダリウスは婚約者候補たちにとって絶望を口にする。


「城砦ガクリュウにようこそ──と言ってやりたいところだが、すまない。すでに妻として迎える女性と出会ったのでな。紹介しよう」

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