第26話 戦場を共に
今回、降魔ノ森に出現したのは全身墨色の肌をした魔物、ガーゴイルだった。
人間に近しい姿をしているが、みな体の一部は左右非対称で片腕は獣、片足は蜘蛛、顔が二つなど奇怪な姿をしている。ダリウスたち騎馬隊目掛けて一斉に襲い掛かる──はずだった。
一直線の単純な突撃。
それを私は木々の上を駆けながら見逃さなかった。
「魔術式第三位階、天下雷撃」
刹那、魔物にだけ雷撃が降り落ちる。
稲光と轟音が森に響き渡った。ただの雷撃ではない。金属すら溶接可能な三千度の高熱は、魔物をドロドロに溶かし──消し炭にした。稲妻の残滓がダリウスの顔スレスレで横切る。
「皆わき目を振らずに駆けよ! 龍神族の加護は俺たちにある!」
「おおお!!」
城砦ガクリュウは、皇国イルテアの南に位置する要衝だ。
魔物が出現する降魔ノ森の入り口にして、戦の最前線。その目と鼻の先で、数十人の騎馬隊は魔物と戦っている。ダリウスたちの部隊は、統率のとれた練度の高い者たちで編成されているようだ。
私はそれを高みの見物──ではなくて、上空から戦いの援護を行っていた。最初はダリウスの馬に騎乗する予定だったが、攻撃のバランスが悪いので私は上空からの援護をする形で話がついた。
(本当に戦っている時と普段とじゃあ、雰囲気が全然違う)
紳士的で心配性で温かい。
けれど前帝としての彼は苛烈で勇猛。なにより状況把握能力が優れていた。だからこそ私が上空からの援護をすんなり受け入れたのだ。
(人間とこんな風に共闘する日が来るなんてね)
それは兄様が、刀夜が望んでいた──目指していた未来。
龍神族と人間が分かり合える。そう信じていた光景に、私は今たどり着いている。それは偶然かもしれないけれど、泣きたくなるほど嬉しくもあった。
「ユヅキ、援護を頼む!」
ダリウスの声に私は笑顔で答える。
「ええ、任せて! 魔術式第十位階、風雷空技!」
ガーゴイルだけに狙いをつけた風と雷の拘束魔法。魔物たちが動けない間、ダリウスたちがとどめを刺す。ダリウスは降魔ノ森の地形を完全に把握しており、その戦い方も戦略的で無駄がない。集団戦闘においての統率力も申し分なかった。
(強い上に、戦い対しての感覚の鋭さや嗅覚、戦略まで……。うう……。なんなのあの人!)
***
ガーゴイルたちを一掃するまでに、さほど時間はかからなかった。思った以上にダリウスの部隊は有能なようだ。私は周囲に魔物が居ないか確認したのち、彼らと合流する。
魔物との戦闘で、だいぶ降魔ノ森の奥深くへと入り込んでしまった。
もうすぐ日が暮れる。さすがに夜の森を歩くのは方向感覚を狂わされる可能性もあるということで、野宿する事となった。
赤紫の夕暮れが空を染める。
城砦までは八十キロほどだろうか。その辺は鬱蒼と生い茂る森の木々などで、城壁はおろか城砦の塔もよく見えない。魔法陣を使ってダリウスたちを城砦に転移することは可能だが、降魔ノ森の土地を調べるにはちょうどいいので、私は黙っていることにした。
(魔物を転送している装置があるのなら、調べておく必要もあるもの……)
野宿の場所として選んだのは、湖の周辺だった。
そこにはいざという時に非常食や備品などをストックするための建造物も見え、必要最低限の寝床や非常食がある事に私は安堵した。こういった管理や備蓄、用意周到なところは指揮官として優秀だと認めざるをえない。
建造物はレンガ造りの倉庫という方が正しいだろう。さすがに中で寝泊まりは難しい。代わりに、この建造物の周辺は魔物を遠ざける魔法陣が組まれているようだ。
(野宿かぁ、懐かしいわね。父様と母様ともしたことあるけれど、テントを張ったりして楽しかったわ)
「ユヅキ」
振り返ると鎧を纏ったままのダリウスがいた。
兜も脱がずにいるのは、その甲冑が魔力の放出を抑え込んでいるのだろう。私が近くにいるのもあってか気分が悪くなる者や、倒れそうな兵士は今のところいなかった。
「どうかしたの、ダリウス?」





