第23話 賭けをしましょう
二か月後。
その間、私の怪我は殆ど完治したので、次は魔力の回復を待っていた。普段なら魔力の回復も早いのだが、今回に限ってはなかなか戻らない。
焦っても仕方がないと、私は体を動かすためにも稽古をしようとしたのだが──ダリウスからは猛反対された。魔力が回復していないのに、体を動かすことを心配──懸念しているのだろう。なので、私は「戦ってみればわかるでしょう?」と彼を挑発してみた。
が、甘かった。
「その手には乗らん。だいたい──」
かれこれ三十分ほど、くどくどと説教をされた。病み上がりだのなんだの。私の事を心の底から心配しているのが嬉しかったが、また魔物が出た時に「戦えませんでした」などという訳にはいかない。そもそも私は龍神族で、下界に降りてきた目的の一つは魔物討伐なのだから。
だが、そうはいってもダリウスは頑固だ。一度駄目だと言ったことに対してそう簡単には折れない。ゆえに私は身を切る方法で再び提案する。
「わかったわ。……ここで稽古を許してもらえないのなら、降魔ノ森へ旅に出るわ」
「なっ!?」
「あ、契約は守るわ。婚約者候補たちが来るまでには戻ってくれば良いでしょう」
皇太后「役」を中途半端に投げ出すことにはなるが、それでも弱いままでは困るのだ。せめて戦いの感覚だけでも取り戻したい。
ダリウスは酷く驚いた顔をしていたが、それは数秒だった。
「……わかった。稽古をするのはいいが──」
「?」
「露出の高い服装だけはするなよ」
「ん?」
思っていた反応と違っており、私は小首を傾げた。
「ダリウスは女が戦うのが嫌だから、「稽古をやめろ」って思っていたんじゃないの?」
「はあ? 違うぞ。お前の体が心配なのは本当だが、お前を他の男どもに見せたくなと思っただけだ。特にカイルにはな」
ますますダリウスの心情が理解できずに私は眉を寄せる。
(そういえば昔、兄様も王女に似たようなことを言っていたような……?)
「はあ。見苦しい嫉妬だ。……くどいかもしれないが稽古でも無茶は──」
「嫉妬」
あまりにも自分とは縁遠いフレーズに、私は顔が熱くなる。今までダリウスのスキンシップが多かったことや、甘い言葉を告げることも皇太后「役」のためだと誤魔化すことが出来たが、今回は違う。恥ずかしさと嬉しさが私の中に広がっていく。
私の変化にダリウスが気づかない訳もなく、「ほう」と悪戯を思いついた子供のような笑顔を見せた。
「なんだ、俺がお前に惚れていると言っているのに、自覚していなかったのか?」
「──っ」
直球な言い回しに私は言葉に詰まる。
これ以上、この話を続けてはいけない。そう判断した私は稽古の話に戻した。
「それより稽古なのだけれど、ダリウスの実力が知りたいわ」
「構わないが……」
渋い顔をするダリウスに、私は一つ賭けをすることした。
「稽古で私に勝ったら、褒美にキ、キスしてもいいわよ?」
自惚れにも程がある内容だったが、ここで「なんでも願い事を叶える」なんて神様めいた発言をしたら面倒なことになるのは、火を見るよりも明らかだ。今度こそ「結婚して欲しい」とか言いだしそうだもの。
しかし、これはこれで魅力的だと思われなかったら自意識過剰過ぎて痛すぎる。
「はっ。キスと言ったってどうせ、頬だとか額とかいうのだろう?」
「やれやれ」とダリウスは興味ないセリフを吐いているが──口元の笑みが隠し切れていない。どれだけキスして欲しいのだろうか。雰囲気からして満更でもないじゃないか。チョロすぎる。ちょっと嬉しいと思ってしまった自分がいた。「違うそうじゃない」と私は頭を振った。
私は賭けが成立すると踏んで、調子に乗ってレートを上げることにした。
「キスって言ったら唇に決まっているでしょう」
「その言葉忘れるなよ」
「もちろん」
それからは早かった。朝食でこの会話をしてから二時間後。
城砦から出てすぐ傍の稽古場へと、私とダリウス、そしてカイルと衛兵数十名を連れてやってきた。
本当は城砦にも訓練場はあるのだが、カイルやダリウスとの手合わせになると建造物の一つや二つ破壊する恐れがあるという事で、城外で行う事となった。私としても周りをあまり気にせずに動けるのならその方が楽なので、快く了承した。
皆の服装を新たに見ると小手や具足、胴回りに甲冑を着ている者が多く軽装のようだ。まあ、フルプレートの者も居なくはない。漆黒の鎧を身に纏い、素顔を隠すように漆黒の兜までつけたダリウスは、いつになく気合が入っていた。両手剣のグレートソードを背中に背負っているが、腰には遥か昔に栄えた東洋の刀を携えていた。なんとなくアンバランスのような感じがあったが、不思議と違和感を覚えなかった。
(というか完全武装って……ガチじゃない!? いやちょっと待って、あの鎧から魔力が感じられるけど、もしかして纏う事で魔力の放出を抑えている?)
「さて、ここなら多少派手に暴れても大丈夫だろう」
「そうね。……それにしても、その鎧を着ていると魔力の放出は抑えられているのね」
「ん、まあな。体への負担が大きいので長時間は着用できないが──」
「が?」
「今回は絶対に負ける訳にはいかないからな」
(ガチだわ。負けず嫌いなのか、それとも……本当に……)
「後で無効にしたら──」
「しないわよ! さっさと始めましょう」
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